「もうひとりいるはずだ!」恋する王子は公爵家が隠す初恋相手をポーカーフェイスで突き止める
「エリス嬢! 君との婚約は破棄させてもらう」
明晰な声が王城広間に響く。
王太子ライアンの言葉の先には、彼の婚約相手、公爵令嬢エリス・カーティシアがいた。
式典を控えて集まっていた貴族たちが瞠目する。
冷静と評される第一王子が突然場を乱すなど、常にはない事だった。
「破棄の理由をお聞かせください。私達の婚約は、殿下からのご希望だったはず」
エリスの問いに、ライアンが返す。
「白々しい。よくもこれまで謀ってくれたものだ。僕は確かにカーティシア家のご令嬢に婚約を願ったが、それは幼い頃、公爵家を訪れた時に一緒に遊んだ女の子へ申し込んだのだ。君とは違う」
その子とはとても気が合い、楽しい時間を過ごした。
国王に頼み婚約を結んで貰ったが、成長して再会したエリスはどこか印象が違っている。
調べるうちに判明したことは、公爵家の子どもは双子だったということ。
そして確信したことは。
「エリス嬢。僕が望んだ相手は、君ではなかった。なぜ社交界にはいつも君ひとりしか来ていない? 彼女が表に出てない理由はなんだ? もしや虐げているわけではないだろうな?」
「……」
「どうして黙っている? 図星なのか?」
「……恐れながら。殿下は勘違いをなさっておいでかと存じます。私に姉妹はおりません」
「なっ! 存在まで否定するのか!」
「そうではなく……」
困ったように瞳を揺らすエリスに、周囲からも訝るような視線が注がれた。
そんな中。
「どうしました、姉上。何かお困りなことでも?」
人の輪を割り、進み出た長身の青年が、エリスの傍らに立った。
「ご紹介致します、殿下。私の双子の弟カイルです」
「──ん?」
「弟は療養のため、長く王都を離れ、公爵領で過ごしておりました」
「弟……?」
「病弱だった彼は、子供時分、悪しき禍から身を守るため、呪い師の助言で女の子の格好をしていました。殿下が遊んだ相手というのは、おそらく……」
言葉をそこで切ったエリスに、貴族達は一様に察した。
王太子の青褪めていく顔を見ないよう、こぞって背を向け、そっと離れていく。
"私達は何も見ておりませんし、聞いておりません"
そんな声が聞こえてきそうなほど、呼吸のあった仕草で。
「ぇぇぇ」
カイルを見上げる王太子から、消え入りそうな泣き声が零れた。
「殿下、ドンマイです!」
彼の初恋と失恋を悟ったエリスが、握り拳を作って言う。
麗しい双子に励まされても、ライアン王子が立ち直るには、かなりの時間を必要としたのだった。
お読みいただき有難うございました!!
今回のテーマは「ドアマット・ヒロイン」です! 幻だったけど!!
1000文字縛りということで短いですが、楽しんでいただけましたら幸いです(笑)
ライアンに愛を注ぎました! 不憫な王子が好きですっ。 ←王子にメーワク
彼はその後、エリスやカイルと仲良くやっていくことと思います。
破棄は成立してません。だって誰も"見聞きしてなかったから"(笑)
公爵家の令息が知られてなかった理由は……ひた隠しに隠せ、そんな呪い師の助言のせいです!! きっと。
下にあるお星様を色付けて応援いただければ、とても喜びます! ★★★★★!! よろしくお願いします(*´▽`*)/
勢いでその後のお話こと番外編(1400文字)もこっそり書いたりしています。