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帰宅すると


 泊まりになってしまった仕事を終えて、昼過ぎにレジウスが帰宅すると、


「兄さん、お客さんが来てるよ」


 玄関を開けた途端にレインが現れ、レジウスにそう言う。


「客? そういや厩舎に見慣れぬ馬が何頭かいたな」


「うん、リーナ様が」


「リーナ?」


「応接室で待ってもらってるから」


「分かった。何か約束してたかな?」

 

 首を捻りながらレジウスは応接室に向かい、コンコンとドアを二度ノックする。

 すると、


「どうぞ」


 と中から声がする。

 リーナの声ではないのはレジウスには分かる。

 おそらくお付きのメイドであろう。

 ドアを開けたレジウスが、


「待たせたか?」


 と声をかける。

 リーナ付きのメイドは、レジウス達から少し距離をあけて控える。

 このメイド、普人種ではなくヒョウの獣人でありリーナの護衛も兼ねている。

 そのためかレジウスに対する恐怖心は薄いようだ。


「ああ、レジウス。帰ってきたのね。鎧の調子はどう?」


 ソファに座ったままそう言ったのは、自分でデザインから裁縫までおこなった自作の変わった服を着る少女。

 名をリーナ・レッドパイン・ケースリバー。 

 そう、総本家の娘である。


 上着は青色で襟に三本の白い線がデザインされ、襟の下に通した白いスカーフを胸元で結んである。

 下は紺色のプリーツスカート。丈は膝下ぐらいだろうか。

 レジウスは見た事がない服装だが、どこかの民族衣装というわけでもなさそうだ。

 黒いハイソックスに黒い革の足首が隠れる程度のブーツは、可愛らしさが漂う。

 この国の貴族に多い彫りの深い顔ではなく、凹凸の少ない東方の顔立ちであり、美人というよりも可愛いというほうが正解だろうか。


 彼女の母親はサンライト王国の貴族の出身であり、その遺伝子を受け継いだのだろう。

 金色に輝く長いストレートヘアとエメラルドのような緑色の瞳。

 大き過ぎだと言ってもよいくらいの膨らみまくった胸に、細くクビレたウエストに引き締まったヒップ。細い手足は折れそうなほどだが、袖から見える両手は美少女にふさわしい細い指であったが、どことなく貴族のお嬢様の手ではない。 


 それは彼女の家が武闘派であるため、それなりに武術の嗜みがあるからだろう。

 それよりも特筆すべき点は、彼女自身が魔道具職人だということだ。


 彼女の代表作としては、ゴブリンの魔石を使用する、魔力を持たない者でも使える点火の魔道具がある。

 たった縦6センチ幅5センチ厚み1センチという小型で携帯性に優れた名品であり、多少高価ではあるが爆発的に売れた人気作である。


 商品名を[リーナが作ったポッと火が付く魔道具]を縮めてリッポーという。


 大量に流通しているのは、レッドパイン伯爵家が経営している商店の直営工房で雇われている職人が作っている量産の物だが、レジウスはリーナが作った特別製のリッポーをプレゼントされて持っている。


 さらに最近は魔法瓶という名の、中に入れた液体の温度を長時間保つという魔道具が、新発売になったばかりだ。

 当然、発売前にリーナからレジウスに贈られている。

 魔道具とは、使用者の魔力や魔物の体内から採れる魔石の魔力を動力とする道具の総称であり、レジウスが纏っている毒蛇の魔物の皮を使用した革鎧を作った人物でもある。

 つまりレジウスの鎧は魔道具でもあるのだ。


 前にレジウスが左肩のみ鎧を装着していたシーンがあったと思うが、あれは鎧を収納していた時であり、肩当て、つまり蛇の顔だけの部分だが、それに魔力を流せば全身を鎧が覆うという、高級魔道鎧なのである。


 そして、彼女自身は自分で作った魔道具の武器や鎧を持ってして、オークはさすがに無理だがゴブリンやフォレストウルフ程度ならば屠れるぐらいの腕前である。


「レーナ、今日の服も見たことない服装だが、とても似合ってるな。で、何か用事か? 鎧は調子良いぞ」


 サラッとリーナを褒めたレジウスだが、リーナの事をなぜかレーナと呼んだ。

 しかしリーナからそれを咎める事はない。

 いや、今この時は、リーナはレーナなのだ。


 リーナの中には、もう一人の別人格が存在する。

 それがレーナだ。

 レジウスは何故かリーナとレーナの区別がつく。

 本人はなんとなく分かると言うが、それが分かるのはレジウスだけなので、リーナとレーナはレジウスの事をとても気に入っている。


「今日は美少女戦士風よ。都に用事があるから、行く前にあなたの顔を見ていこうと思ってね。鎧の調子も気になったし」


「美少女には違いないが、自分で言うかね? それに、こんな醜男を見ても何の得にもならんぞ?」


「都で顔だけ良くて中身が醜い者達を見る前に、あなたを見てホッと息抜きするのよ。ていうか醜男ではないと思うけど?」


「中身? 俺の中身なんざ知れてると思うけど?」


「裏表のないその性格が心地良いのよ。一度、宮中を歩いてみなさいな。口に出す言葉とは全く違う事を腹の中で思っているのが透けて見える、心の醜い貴族の多さに嫌気がさすわよ?」


「宮中なんざ、用事がなければ行く事ねぇだろうなぁ。もうすぐしたら家からも出るから、余計にな」


「自衛軍に入らないの?」


「国境で突っ立ってるだけの仕事なんざ、ゴメンだね」


「あなたの腕なら、近衛も可能性あると思うけど?」


「それこそゴメンだ。帝光近衛騎士団とか宮中に出入りどころか常駐するんだろ?」


「皇室の方達の護衛だからね」


「俺が近衛とか不敬罪で打首の未来が確定じゃねぇ?」


「うちのお父様と話す時くらいの言葉使いなら、大丈夫だと思うけど?」


「あの人は、俺の剣術の師匠でもあるし、尊敬できる数少ない人の1人だから」


「尊敬出来れば言葉は丁寧になるの?」


「当然だ」


「ふーん」


「てか、汗流してきていいか?」


「ああ、帰ってきてすぐだったわね。もちろんよ」


「んじゃ、ササっと流してくる」


 そう言って部屋のドアを開けたレジウスに、


「うん」


 と手を振るレーナ。


 そしてレジウスが退室した後、


「レジウスはやっぱりホッとするわ」


 とレーナが言うと、


「相変わらず、むしゃぶりつきたくなるくらい強そうな男ですね」


 と、控えていたメイドが言った。


「アンタにはあげないわよ?」


「お嬢様の許可が必要でしたか? こういうのはお互いの気持ちですから」


「アンタはただ強い男を舐めたいだけでしょ?」


「そのような下世話な言い方はやめて下さいませ」


「むしゃぶりつきたくなるとか言ったのは、マチルダでしょうに」


 レーナはそう言ってテーブルにあるティーカップを手に取り、残った紅茶を飲み干すのだった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ふむ。 レーナの方が転生者的な?
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