お仕事3〜戦闘
その後暫くして、
「おい、山が騒がしくないか?」
と、ふもとで監視していた1人のウージ領兵が声を上げる。
「確かに。シカの鳴き声がかなりするな」
「おい、お前! レジウス様に報告してこい!」
慌てて兵士が走る。
「山が騒がしい?」
レジウスがそう聞き返すと、
「はい。シカなどが逃げ惑う時の鳴き声が響いておりまして」
「オークがシカを狩っているのか?」
「その鳴き声が徐々に此方に近づいてきているのです」
「マズイな……総員戦闘準備だ!」
レジウスがそう指示したのだった。
それから半刻ほど経ち、兵士達の耳には間近に迫っているであろうオークの叫び声が、しっかりと響くようになり、森から多数の鹿が飛び出してきたかと思うと、その直後には多数のオークが鹿を追うように飛び出てきた。
当然、戦闘に突入したレジウス達であったが、数が多くて兵士達は混戦模様。
「火の魔法は使うな! 山火事になるぞ! 風や水、土を使え! 無理に倒そうとしなくていい!」
ジンが指示を飛ばす。
領兵にも数人ではあるが、攻撃魔法が使える者がいるのだ。
まあ、威力は弱いのだが。
しかし土や水なら問題ないのだが、火魔法だけは霧散する魔力に関係なく、魔法の炎が枯れ枝などに引火してしまうのである。
なので、火魔法は使うのに注意が必要になるのだ。
「足止めだけでいい! レジウス様が来るまで止めておけ!」
ジンが叫ぶと、
「ジン少尉! 負傷兵がっ!」
と言われたジンは、
「俺が足止めするから後方へ送れ! アースバレット!」
と叫んだ。
アースバレットとは、手の平に土を生成し圧縮して石にして撃ち出す土魔法の事である。
魔法としては中級だが、攻撃魔法としては初級にあたるのだが、火魔法が得意なジンだが土魔法も使えるようだ。
「お願いします!」
兵士が負傷兵を抱えて山を降りていく。
それと入れ替わるようにレジウスが走り込んでくると、
「下がれ! 魔法をブッ放す!」
と、大声で叫ぶ。
「レジウス様っ! 総員レジウス様より後ろに退避だっ!」
ジンがレジウスの姿と声を確認するやいなや、そう兵達に叫ぶ。
レジウスは、
「エアバレット30生成……」
と両手を前に突き出し、30センチほど間を空けて両手のひらを内側に向けて魔力を込めた。
そして次の瞬間、
「発射!」
と叫んだ。
レジウスの両手の間から、オーク達に向かって飛び出す魔力を帯びた物体。
エアバレットとは、風の魔法を使った空気の塊を撃ち出す初級の攻撃魔法である。
ただし、同時に30もの数を生成して撃ち出せる者がどれほどいるのかは、定かではないが。
音もなく打ち出されたエアバレットにより、肉を抉られ深く傷つき血を流したオーク達。
兵士達はそれを取り囲み、優勢に攻撃できるようになっていく。
そうしてどうにかオークを殲滅できたのは、午前2時頃であった。
「怪我人は直ちにポーションで治療を! それ以外の者は辺りにオークがまだ潜んでいないか見て回れ! 5人1組で行動しろよ!」
ジンが兵士達にそう命令し、荷物の中から取り出したポーションを兵士に手渡す。
ポーションとはエルフ族が作る治療薬の総称である。
低級ならば、すり傷や切り傷を瞬時に治療でき、単純骨折なども1日程度で治ってしまう飲み薬である。
中級ポーションでかなりの重傷でも治る。
上級ポーションならば、重体でも治る。
が、流石に欠損までは治す事はできないし、病気には効果は薄い。
「レジウス様! 人の死体があります!」
と兵士が叫ぶ。
「なに?」
レジウスはオークの死体を亜空間に収納するために、オークの死体から死体へと移動していたのだが、その作業を中断して叫んだ兵士のほうへかけ寄る。
オークは頭髪が嫌いなのか肉が少ないからなのかは分からないが、頭部を食べないことが多い。
そのため、オークに襲われた人の身元確認はそう難しい事ではない。
が、残されているのは頭部と装備品のみというのが常である。
残されていたのは革製の胸当てと、使い込まれた剣とブーツの残骸であった。
「装備からみて冒険者か? オークに食われたのだろうが、何故こんな場所に居たんだろうな? わざわざオークがこの場に運んできたとも思えんが」
顎に手を当て考えるレジウスに、
「あと、あちらに鶏の羽らしきものが散乱しております」
と、兵士が情報を追加した途端、
「……なるほど。ちきしょうめ! フォレストランドのおっさん、オークをこちらに誘導させたな。食欲に火がついたオークが鹿を追いかけ出したから、この戦闘になったんだろうな」
と答えを弾き出したレジウスに、
「抗議しますか?」
と聞くジン。
「するだけ無駄だ。シラを切り通すに決まってる」
「では黙っているのですか?」
「なに、この仕返しはキッチリやるさ。この死体の残りをタワラ領の方に運んで放置しておこう。まあ、頭部と胸当てだけだがな」
「こちらで確保しないので?」
「証拠にもならんし持って帰っても後々面倒だ。それと逃げたオークの捜索は中止だ!」
そう言って冒険者の死体の頭部に手を触れ死体を亜空間に収納し、残りのオークの死体も全て収納し終えたレジウスは、領境を越境し少し開けた場所で冒険者の死体を亜空間から取り出し、無造作に地面に放置した。
ついでとばかりに亜空間からゴブリンの死体を数体取り出すと、同じ所に並べるレジウス。
ゴブリンはオークの主食と言ってもよい。
そのゴブリンの死体は、ついさっきまで生きていたかのような鮮度だった。
その死体の腹を裂き、あたりに臓物を撒き散らすレジウスを見て、
「なるほど。逃げたオークを誘き寄せるわけですな。どれほど逃げたか分かりませんが、確実に寄せられるでしょうな! しかし相変わらずやる事がえげつないですな」
と呆れたジン。
「ウヒャヒャッ」
と、悪どい笑い声をあげたレジウス。
そうして山を一旦おりるレジウス一行だった。
続きは明日の朝七時に投稿します。