お仕事2〜暗躍
少し短いですが、キリが良かったので。
21時頃にまた投稿しますので。
その頃、タワラ領にあるフォレストランド男爵家では、
「明朝で良かったのですか? こちら側に下りてきませんかね?」
と言ったのは、タワラ領の兵を仕切る指揮官の男。
壮年で赤茶色の頭髪に赤く長い髭が特徴のある、狐族の獣人である。
なお、目は細くて瞳の色が確認できない。
「あちらが先に発見したのだ。監視の人員も配置しておるだろう。何体居るのかまでは知らんが、オーク共がウージの領兵を発見して、あちら側に向かってくれればこちらに被害は出ないだろう? オークと戦闘になれば死人も覚悟せねばならん。ただでさえ少ない兵を減らすわけにはいかんのだ。なんとか確実にあちら側に向かわせる方法がないものかな」
そう言った恰幅のよい普人種の頼りなさげな男は、この領を預かるフォレストランド男爵家の当主、デストナ・フォン・フォレストランド・タワラ男爵。
茶色の頭髪は短めの長さであるが、少しカールしている。黒い瞳にも力強さは見受けられない。
太り過ぎではないが、多少のダイエットは必要だろうと思われるが、当人にその気はない。
「あちら側に誘導する手段ですか……夜中にこっそりあちら側に侵入して、獣の血でも振りまきますか?」
との悪どい提案に、
「見つかると大問題になるぞ?」
と不安気なデストナ。
「兵ではなく冒険者にやらせるのです。もしオークに見つかっても死ぬのは冒険者のみですし、あちら側……ブラックパイン男爵家に知られて抗議されても、冒険者が採取にでも入ったのだろうと、知らぬ存ぜぬで突っぱねれば」
「なるほど。悪くないが汚れ仕事を受けてくれる冒険者にアテはあるのか?」
「私が定期的に小遣いを渡している、落ちぶれ冒険者がおります。汚い仕事だろうが金さえ渡せばやるので適任でしょう。銀貨10枚、10万ダラスほど握らせれば受けると思います。お任せを」
そう言って笑う狐族の指揮官。
ちなみに100ダラス、銅貨1枚で、拳大の黒パンが2個買える。
つまり10万ダラスとなれば、平民の月収の半分に相当する。
「うむ。任せた!」
ニヤリと笑ったデストナに、一つ頷いてからデストナの執務室を後にする指揮官だった。
その夜、ひとりの痩せこけた普人種の中年冒険者が、一羽の鶏の死体を抱えて、
「なんで俺が、臭えニワトリ抱えて山登りなんざしなきゃならんのだ。全部貧乏がわりぃんだ」
などと文句を言いながらも領境付近からアツキ山に入り、オークを誘導すべくウージ領側へ侵入する。
そうして、持っていたナイフで鶏の死体の腹を裂いて、あたりに血を振り撒いた。
その後、ニワトリの死体を投げ捨てて、その場から離れようと一気に走り出した。
だが、その先には血の匂いに誘われ既に一体のオークが。
おそらくすぐ近くに居たのだろう。運が悪いとしか言いようがない。
というか、潜んでいたオークを見つけられなかった、冒険者の腕が推測されるというものだが、これはもう今更だろう。
哀れ、中年冒険者はナイフどころか、声すら出す時間も与えられず、首をへし折られて絶命した。