お仕事1
翌日、レジウスはいつも通りに、朝の10時頃に目覚め、年齢40歳を超えるだろう若い頃はさぞかし美人であっただろうと思われる、メイド長が用意した(彼女だけが、この家でまともにレジウスと話せる女性だが、それでも怖いらしい)紅茶と白パンにオーク肉のソーセージという簡単な朝食を済ませると、屋敷を出て厩舎に赴き、ザックに自分の亜空間から取り出したゴブリンの死体(レジウスは在庫としてかなりの数のゴブリンを収納している)を餌として与え、食べ終わったのを確認したのち鞍を乗せてから、ザックに跨り嫌々ながらも領兵の詰所に出かける。
一応立場としては冒険者だから、領兵の集合時間に遅刻しても兵士達に咎められる事はないし、そもそも詰所に出向かなくてもよいのであるが。
現れたレジウスを見て領兵達が、
「レジウス様、また遅刻ですかい?」
と、兵士が冗談混じりに声をかけると、
「レジウス様は遅刻とは思っておられないだろうけどな。冒険者は、自分がルールだといつも仰ってるからな」
と他の兵士も笑いながら言う。
「その通り! 俺がルールだ!」
と胸を張って宣言するレジウスだったがそこに、
「おそようございます、レジウス様」
と頭を下げるジン。
口調は他の兵士の手前か、改まったものである。
「おう! ジン兄おはよう! 昨日の報告書はジン兄が適当に書いて出しといてね。俺は待機室で昼まで寝てるから!」
と笑いながらレジウスが言うと、
「はっ! ではそのようにしておきます」
と、ジンが微笑みながら答える。
「ん。じゃあね」
そう言って兵舎の奥に向かって進むレジウスを、皆が見送った後、
「お前、また適当にとか言って、レジウス様を褒めちぎる報告書を書くんだろ?」
兵士の一人がジンを見ながら言う。
「褒めちぎるって、いつも事実しか書いてないぞ。オーク2匹倒したのも水竜倒したのもレジウス様だし」
ジンは心外だとばかりに、自身の言葉の正当性を主張する。
「オークはまだしも魔法も無しに水竜を剣一本で倒すとか、あの人少し異常だしなぁ。書類関係は全く手伝ってくれないけど」
他の兵士がそう言うと、
「オークと戦闘になって領兵に怪我人が減ったのは、レジウス様が領兵の仕事を手伝ってくれるようになってからだし、それくらいいいじゃないの」
そう言ってレジウスを褒める兵士もいる。
「確かにな」
「てか、お前やレジウス様が抜けた後の方が心配だなぁ」
兵士の一人が、ジンを見ながら言うと、
「私は成人したら国の自衛軍に行くつもりです。レジウス様も誘ったのに自由が無くなるのは嫌だと仰って、断られましたよ。レジウス様は領内に住むと言われてますから依頼を出せばよいのでは?」
とジンが言う。
ちなみに自衛軍は成人しないと入れないのだ。
「来てくれるかなぁ」
などと兵士達が言っていた頃、既にレジウスは眠りについていた。
待機室のソファーで、スヤスヤと寝ていたレジウスの安眠をドアを激しくノックする音が妨げる。
「レジウス様っ! 起きてください!」
兵士がドアの外で叫ぶ。
「ふぇ? なんだようるせえなぁ」
ソファーから上半身を起こしたレジウスがそう言うと、レジウスの声を聞いた兵士がドアを開けて入室し、
「アツキ山の奥深くでオークの群れを発見したと報告が参りました!」
と、敬礼しながら言う。
「ちっ、奥深くとかどんだけ真面目に巡回してんだよ! お前ら働き過ぎだぞ。仕方ねえな。てか奥深くってアツキ山のどの辺だ?」
「タワラ領との領境付近です」
「あー、めんどくせえ。見つけたもんはしゃーねーか。フォレストランド男爵家にも報告しておけ! 場合によっては共同作戦になるぞ。てか、隊長やジン兄は?」
眠そうな目を擦りながら、そう問いかけたレジウス。
フォレストランド男爵家とは、ウージ領に隣接するタワラ領を治める家の事である。
「ジン少尉は部隊の編成をしておられます。隊長はジン少尉とレジウス様に任せると」
「あのオッサン、最近めっきり魔物関係は俺らに丸投げじゃねぇか! 俺は単なる冒険者だぞ!」
「領主様の御子息でもありますけどね。それに治安維持も大切な任務であります」
「それは理解してるけど、オッサンは領兵隊長だろうが。最近はゴブリンすら出ていかないだろ?」
「確かにって、のんびりと話してる場合ではありませんよ」
「はぁ。仕方ねえ、動くか。とりあえずフォレストランド男爵家との連絡が取れるまで、ふもとで待機だ!」
そう言ってソファーから起き上がったレジウスだった。