ろくでなし
そして、レジウスも冒険者として暮らしていこうと思ってはいるが、ある程度以上の魔法が使えるため準男爵に任命されるのはほぼ決まっている。
なので二人とも国の仕事、主に軍だがそこに就くことも可能だということになる。
それに、土魔法で沼を埋めればよいと思うかもしれないが、魔法で生成した土や水などは、時間の経過とともに霧散して消えてしまう。つまり水魔法で出した水だけを飲んでいると干からびて死んでしまうということになる。
ついでに魔法の話をすると、火・水・土・風は、精霊魔法に分類される魔法であり、両親や先祖が魔法使いでなくても精霊魔法が使える子どもが生まれることがある。
対して、光・闇・聖・無は神魔法と呼ばれ、完全に血筋による魔法であり、先祖に神魔法が使える者がいない限り使える子は生まれない。
逆に言えば、使えれば数代前に使える先祖が居たという事である。
まあ、貴族のような複雑な血筋であれば、数代遡れば一人くらい神魔法が使える先祖に当たるのだが。
話を戻そう。
「ああ、多分な。だが、漁師の職を奪う事になる」
「沼を埋めれば農地に出来るよね? そこの農地を与えると言えば納得しないかな?」
「分からん。その辺を決めるのは父上と、次期当主のお前の役目だ。イカれ頭のろくでなし放蕩息子と評判の俺の話など、漁師はこれっぽっちも聞かないだろうからな。そういえば父上はいつ頃帰ってくるんだ?」
「いや、兄さんはそれなりに魔法が使えるし貴族だし、ろくでなしでは無いけどね。なんなら兄さんが領地を継いで、僕は仕事を継ぐというのもアリだと思うよ? あと父様は仕事に行ったからいつ帰ってくるのかは、仕事の成果次第だよ。連絡してみる?」
「イカれ頭は訂正しないのな……そんな将来揉めそうな事提案するなよ。父上にはわざわざ連絡するほどでもないだろ。それに、ただ剣術や魔法がそこそこ出来るだけで、決定権は俺には無いから。ましてや当主の件は本家が許さんだろ。特に俺はあのおっさんに嫌われてるし、そうでなくても何かにつけて口だけは挟んでくるからな。そもそも既に総本家もレインが継ぐのは認めている事だ。オーグラ沼の件は、急ぐわけでもないから父上が帰ってきたら相談してみろ。じゃあとりあえず俺は汗を流してくるから」
そう言ってレジウスはひらひらと手を振ってその場を立ち去る。
本家とはブルーパイン子爵家の事である。
また、総本家といえばレッドパイン伯爵家をさす。
「兄さんは貴族の言い回しとか面倒くさがって直接的な事を言うからな。それにイカれてる云々は自覚してるでしょうに」
残されたレインが一人、そんなことを呟く。
「あぶねえ。レインのやつ、未だに俺に領地を継がせるとか思ってやがるのか。迷惑にもほどがある。俺は責任者とかそういうの嫌いだから、領兵の手伝いですら本当は嫌だし冒険者として適当に魔物討伐して、のんびりしたいからもうそろそろ辞退したいのによ。上手く総本家を丸め込んで正式にレインを後継ぎに指名してもらったのに、俺の努力が無駄になるじゃんか」
服を脱いだレジウスは、シャワー室の中の魔道具を操作しながら、そんなことを1人で呟く。
魔道具とは魔石の魔力を動力源とする道具の総称である。
このレジウス、見た目も捻くれてそうに見えるのだが、中身も出来るだけで楽をしたいという欲望だけで構成されているロクデナシである。
自分に闇魔法の適性がほぼ無いと言われたのを良いことに、早々に当主や一族に根回しして、弟に家督を継がせる事を承認させたのだ。
レジウスの望みはただ一つ。
『適当に働いてそこそこ元気にダラダラ生きていく』
それだけだ。
魔物などに殺されないためだけに、剣術を習ったらそこそこ才能があった、たまたま魔法にそこそこの才能があった。
そのため、それなりに強くなっただけだと本人は思っている。
だが、たかが14歳の成人間近の少年一人が、剣術でオークのような大型で強い魔物を倒せるような実力が、そこそこの才能な訳が無い。
しかし、自身はそれを全く理解していなかった。
シャワーを浴び終わったレジウスが、体の水分を拭くタオルを手にし、その鍛えた身体を拭いているのだが、背中の首のすぐ下辺りに、ぱっと見にはホクロと間違えるような小ささの、だがよく見ると変な紋様が浮かび上がっているのだが、レジウスはそれを知る由もない。