乙杯
「ちゃんと経緯を話してくれ」
レジウスがそう切り出すと、
「えっとねー、とりあえず顔合わせの時にね……」
と、話し出したリーナの話を要約すると、リーナが顔合わせの時に隣国の侯爵家新当主アレックスとその母が、サンライトの都にあるレッドパイン伯爵家の別邸に来たのだが、第一印象からそもそも頼りなさげな男だったという。
まあそれは我慢していたのだが、結婚発表前にお互いを知るためにもリーナが侯爵家で少しの間客人として生活して、屋敷での生活や家風に慣れて欲しいと言われて、とりあえず侯爵家で生活することになり、お付きのメイドや護衛達と共に侯爵家で過ごすことになった。
アレックスは、リーナと顔を合わしてもリーナの胸を見ているか俯くばかりで、ろくに会話もなかったらしい。
リーナは嫌で仕方なかったのだが、貴族同士の婚姻などこんなものかと諦めた。
会話が無いのは問題だが、屋敷での生活に問題が無かったため書類上の婚姻を終え、結婚式などは気候の良い秋に執り行われる事に決まるのだった。
そして婚姻届を出したその日の夜、リーナはベッドの上でアレックスに寝間着を脱がせられたのだが、その時大きな二つの物体がリーナの胸元から落ちた。
そうパットだ!
貴族の女性が胸にパットを入れて、服の上からは大きく見えるようにするのは、当たり前のことなのだが、普通は寝間着姿の時はパットは入れないものだが、リーナは入れていた。
そして、脱がしたリーナの胸は慎ましい感じであった。
それに驚いたアレックスは、なぜか泣きながら部屋を飛び出していく。
呆然とベッドの上で座っていたリーナだったが、いつまで経っても帰ってこないアレックスに、だんだん腹が立ってくる。
そしてリーナからレーナに人格が変わり、レーナは服を着直してから部屋を出る。
とりあえず侍女のマチルダの寝ている部屋に行き、事情を説明し、よせばいいのにマチルダと2人でアレックスを捜すことにした。
で、屋敷を徘徊しているとアレックスの声が聞こえるではないか。
その声をたどり向かった先のドアの前まで行くと、しっかりと閉まっていなかったため、ドアが少し開いていた。
そこからよせばよいのに中を除くと、アレックスとその母親がおり、ベッドの上でアレックスは母親のオッパイに吸い付いているまっ最中。
「あんなまな板は嫌だ」
と泣きながらである。
頼りなさげとか会話が無いとかは、どうでもいいと思ったリーナとレーナだったし、マザコンも我慢しようと思えばできるのだが、マザコンどころかそれ以上だったのには我慢など出来ないし、自分の胸をまな板呼ばわりされたのには、心底嫌気が差したし怒りすら湧いてきた。
マチルダにも部屋の中を確認させると、慌て部屋に戻り服を旅用に着替えて荷物をまとめ、自分の護衛を叩き起こし、真夜中にもかかわらず侯爵邸から有無を言わさずに飛び出て、冒険者ギルドに直行。
緊急依頼を出してサンライト皇国の都まで、馬車一台と追加の護衛として女性冒険者を手配し、夜中であるにもかかわらずひた走る事になり、どうにかレッドパイン別邸に戻った。
で翌日、サンライト皇国まで迎えに来た侯爵家と大いに揉めたわけだ。
アレックス側はそんな事実は無いと突っぱねるが、リーナとメイドは自分の目で確認したので嘘だと叫ぶ。
リーナの父は結婚の手続きは終わってしまっているので、今更だから我慢しろと言い出し、リーナと喧嘩。
喧嘩中に大人しめのリーナから攻撃的な性格のレーナに人格が変わり、さらなる大喧嘩に発展。
『あんなオッパイ星人の味方をするのか!』
と激しく父とアレックスを罵るレーナ。
揉めに揉めたが、どうにか離婚は両家で認められて手続きを終えたものの、さすがに面子も潰され怒った父は売り言葉に買い言葉と、
『出て行け』
と言ってしまうが、その父の言葉にこれ幸いと家から飛び出し、役所で[平民申請]の手続きをしたレーナ。
自分が出て行けと言った手前、後戻り出来なくなった父は、不本意ながら貴族籍からリーナを除すことになる。
全ての手続きを終えたリーナは、その足で冒険者ギルドに向かい、護衛を雇ってレジウスの家に到着し、冒険者を帰らせてからドアの鍵をぶっ壊して転がり込んで今に至る。
「……という事なの」
「頭痛てぇ……」
「慎ましい胸でも、傷モノじゃなくても貰ってくれるよね?」
「そりゃそうだけど、本当に俺の嫁になるのか? ロクデナシで有名な俺と?」
「本当のロクデナシは自分の事ロクデナシとか言わないものよ。私の事嫌い?」
「いや好きではあるけど」
「慎ましい胸は嫌?」
「いや、俺はお尻派だし胸は関係ないんだけど、想像してなかったから」
「好きならそれで良い。その言葉だけで嫁げる」
「レーナも俺で良いって言ってるのか?」
「言ってなきゃここには来てないわよ」
「分かった。とりあえず今夜はここで寝ていいから、明日から色々考えよう」
「やったー!」
リーナは両手を上げて嬉しそうに喜んだのだった。




