都へ
さて戦闘に突入したのだが、
「あっけないな」
レジウスは呼吸一つ乱れていない。
「弱過ぎるだーよ」
「領兵ってもっと鍛えてるもんじゃねーの? ウージの兵はもっと強いぞ?」
「うち……あ、もううちじゃねーか。ウージ兵はかなり鍛えられてるから」
「で、このオッサンはどうするだ?」
「コイツも都に連れて行って突き出すか」
レジウスがそう提案した時、
「若! 私に任せてもらいましょう」
と、タッカーでもデイルでもない声がした。
「え?」
と、タッカーが振り返ると、そこには膝をついた黒尽くめの服を着た男が一人。
「サイゾーか。陰に違和感があったんで暗部の誰かが居るだろうとは思ったんだがな」
とレジウスが男をサイゾーと呼んだ。
「レジウス、この人誰?」
タッカーの疑問に、
「父上の部下さ」
と答えたレジウス。
「主の命でイーリス子爵に張り付いておりました」
と、サイゾーは膝をついたままの状態で説明した。
「もっと早く出てこいよ」
「それでは若の憂さ晴らしが出来ないでしょう?」
「そりゃそうだが」
「とにかく後はお任せを」
「盗賊兵の方は?」
「そちらは若が都に連行して頂いて構いません」
「了解だ。じゃあ頼んだ」
「はっ!」
そんなこんなで、レジウスはイーリス子爵をサイゾーに預け、そのまま都へ向かったのだった。
そして到着した都の外壁の門。
門番がレジウス達に、
「まて! そこの冒険者ども! コイツらは何だ? それにそれはお前が使役している魔物か?」
と言って行く手を阻む。まあ、当然だろう。
「そうだが? コイツらは街道で捕まえた盗賊だ」
と簡潔に述べたレジウス。
「盗賊? そちらはこちらで手続きを済まして貰おう。それと魔物を都に入れるわけにはいかん! あっちの魔物厩舎に預けて、銀貨1枚支払え」
都の治安維持のために使役魔物は入れないのだが、
「貴族の馬車で使われるビッグブルはいいのにか?」
「貴族は特別だ!」
「俺も貴族だが?」
「え?」
「ほれ! 貴族の短剣だ」
「ししし、失礼しました!」
「通っていいか?」
「どうぞ!」
まあ、例外はあるということである。
「タッカーとデイルはドームとグッフォを預けたらコイツらの手続きとギルドに報告を頼む。俺は先ず最初は役所に行かにゃならんから。役所は時間かかるからなぁ」
と、レジウスがタッカーとデイルに盗賊の件を任せると言う。
「じゃあギルド内の食堂で待ってっから」
「おう!」
レジウスは二人と別れて役所に向かう。
役所横の厩舎にブウドを預けるときに一悶着あったが、どうにか預けたレジウスは、役所に入ると貴族用窓口にある小さな鈴を鳴らす。
「お待たせしました。本日はどのような御用事でしょうか?」
壮年の男性が現れ丁寧にお辞儀をしながら言うと、
「レジウスという者だ。準男爵の申請と家名の登録を頼む。これが実家からの証明書だ」
と言いながら一枚の紙を男に手渡すレジウス。
「拝見致します……ふむ、ブラックパイン男爵家の方でしたか。貴族の短剣のご提示をお願いします」
「ほれ」
と言って短剣を見せたレジウスに、
「少し短剣をお預かりしてもよろしいでしょうか?」
「返せよ?」
「もちろんでございます」
「ほらよ」
手渡された短剣を男は、
「はい、では少し失礼してっと、コレはっ⁉︎ 」
と鞘から剣を抜いて言葉を詰まらせた。
「そういう事だ」
「長年この仕事してますが、初めて見ました……ちゃんと確認作業をし続けた甲斐がありました」
男の背中は汗でべっとりだが、顔にはその気配を微塵も感じさせていないのは、さすがと言うべきだろう。
「仕事熱心だな」
「お返し致します」
「ああ」
「家名の登録でございましたね。すぐに書類をお持ち致しますね」
そう言って走って去っていくと、棚から何か書類を慌て掴み取り、猛スピードで戻ってきた。
「お待たせしました。えっとレジウス様でございましたね。家名はどう致しますか?」
「クロームで頼む」
「同じ家名がないか確認致しますので、少々お待ちください」
「早めに頼むぜ?」
「はい!」
そう言って台帳をめくる男。
「お待たせしてしまい申し訳ありませんでした。確認が終わりました、クローム準男爵様」
「お、ということは認定されたという事だな?」
「左様でございます。登録代の金貨1枚をお願いしても?」
「もちろんだ。ほれ」
と金貨一枚、100万ダラスを支払うレジウス。
「確かに。ではこちらに魔力ペンで住所とお名前のサインもお願いいたします」
と男は書類をレジウスに渡し、
「分かった」
と、レジウスはサラサラと書いていく。
その書類を確認した男は、
「はい、コレで手続き完了でございます」
と頭を下げた。
「よし、手間かけたな」
と去っていくレジウスに、
「いえいえ」
と深々と頭を下げた男を見て、別の若い男が、
「先輩、汗ヤバイですけど、どうしたんですか?」
と聞いてくる。
「初めて見たよ……帝の印の短剣……」
その言葉に、
「え……あの?」
と眼を見開いた若い男。
「ああ……」
壮年の男性はレジウスの書いた書類を、不備などあったら自分の身が危ないと思いながら、今一度見直すのであった。




