ウエストサンライト帝国
2話目です。説明多めです。
ウエストサンライト帝国。
かつてこの大陸、名をパルゲアと言うが、そこに広大な国土を有していたサンライト帝国が内乱により分裂し、サンライト帝国の中央部にあった帝国の首都周辺をサンライト皇国とし、その皇国の周辺国をまとめ上げた事よりウエストサンライト帝国は形成されている。
何故ウエストなのかというと、ウエストサンライト帝国から距離の離れた東側に、イーストサンライト帝国という、もう一つのサンライト“王国”が治める帝国が存在しており、その国とは統治者同士が血縁関係のある同盟国となっているからだ。
だが、サンライトの主流はあくまでサンライト皇国である。
前置きはさておき、ウージ領を治めるのは、五百年前のサンライト帝国内乱時にサンライト帝国の帝が退却する(護衛が倒され魔力も尽き果て徒歩で逃げていた)時に協力した、木材商人の馬車の護衛だった女性冒険者の子(逃亡中に帝が手をつけて出来た子供)が爵位を与えられたのが始まりである、レッドパイン伯爵家の分家であるブルーパイン子爵家の、さらに分家であるブラックパイン男爵家である。
現当主は16代目になるレナード・フォン・ブラックパイン・ウージ男爵。(皇国内の貴族はミドルネームが家名で、領地名が最後にくる。ミドルネームの前にフォンが付くのは当主のみ)
さしたる産業の無かったウージの土地を、茶の一大生産地に変えたのはブラックパイン初代当主からで、嗜好品である紅茶は富裕層向けの高額商品であり、儲け幅が大きいためブラックパイン男爵家は、それなりに裕福な暮らしができている。
現在、ウージ領での紅茶の生産はウエストサンライト帝国内のシェアの7割を誇る。
そんなブラックパイン男爵家の子である、レジウス・ブラックパイン・ウージは、現在14歳で、2ヶ月後には15才の成人を迎える。
ブラックパイン男爵家の男系の血筋は、黒髪に黒い瞳なのだが灰色の頭髪にサファイアのような青い瞳持つレジウスは、領地の見回りという建前の魔物狩りを終えて家に到着した。
装着していたはずの鎧は、左肩の蛇の頭部しか見当たらない。
ブラックウルフドラゴン、名をザックと言うのだが、ザックを専用の厩舎に戻し、鞍を外し水桶にどこからか取り出した水を入れてやってから、レジウスが玄関扉を開けると、それなりに広い玄関ホールがあり、豪華な絨毯が轢かれ、そこかしこに有る高価な照明器具がその場を照らす。
これだけで裕福だというのが分かる。
庶民ならば、蝋燭か油のランタンが定番だからだ。
「兄さん、お帰りなさい」
そう言って、質の良い高そうな黒の貴族服に身を包みレジウスを迎え入れたのは、レジウスの弟であるレイン。
現在13歳になる少年である。
身長は140センチほどで目は少し垂れ気味であり、美形で聡明な顔立ちをしているが、まだまだ幼さは消えていない。
兄とは大違いだ。
顔が似ていないのには理由がある。
レジウスの母親は、レジウスを産んだ時に他界したとレジウスは当主であるレナードから聞いている。
つまりレインの母親は、レジウスを産んだ女ではないのだ。
レインはブラックパイン男爵家の血がシッカリと出たため、黒い頭髪と黒い瞳を持ち、闇魔法と呼ばれる魔法に適性が高かった。
闇魔法とは、影や闇に溶け込むことができるので、諜報活動や暗殺などに向いている。
事実、ブラックパイン男爵家は皇室からの依頼で、帝国内の貴族や他国の監視という役目を仰せつかっており、ブラックパイン男爵家一族は当主をはじめ陪臣や従士などが、あちこちで諜報活動をおこなっている。
華やかな貴族社会において他の貴族家に疎まれ、華やかさとは縁の無い家なので、ブラックパイン男爵家は異端と言えるかもしれない。
だが、そのブラックパイン男爵家の中でレジウスはさらに異端であった。
何故なら闇魔法の適性が高くなく、影の中を移動できなかったからだ。
なので、ブラックパイン男爵家の次期当主はレジウスではなく弟のレインに決定しているし、レジウスはそれで良かったと思っていた。
何故なら、そもそも面倒な領地運営や貴族の監視など、やりたくもないからだ。
自分は適当に魔物を倒して、自由に気楽に生きていきたいと思っていたし、すでに家族にもそう伝えてあった。
そのために領内の治安維持にも多少役立つのならと、貴族の男児が通う学校である貴族学院を卒業した後、13歳で冒険者に登録して領兵の手伝いをしながら、剣の腕を磨き続けていたが、成人すれば家から出て一人暮らしをしながら、気ままに魔物を狩って生計を立てて暮らしていこうと思っていた。
「ああ、ただいま」
と軽く笑顔で答え、上着の右腰あたりにあるポケットの中から取り出した、魔石と呼ばれる核を(魔物の体内、主に喉仏付近にある)レインに手渡すレジウス。
兄弟仲は悪くはないようだ。
だが、普通は貴族の家ならばメイドなどが先に迎え入れるはずだが、今この時、レジウスに近づくメイドはいない。
それどころか、たまたま通りかかったメイド達は、そそくさと速足に逃げるように通り過ぎていく始末。
何故か?
レジウスの存在は、男性から見れば少し警戒心を持つくらいで済むのだか、女性にとっては相当怖いらしく、レジウスとまともに会話できる普人種の女性は数少ないからだ。
これはレジウスが5歳頃、ちょうど幼児から少年に変わる頃にあった、とある事件の後から起きたことであり、レジウス自身はもう慣れてはいるが、貴族の息子としては致命的である。
何故なら妻を迎えるのに、かなりの支障を来すからだ。
貴族の当主になれば、次代を継がせるべき子を儲けるというのは当然望まれる結果であるゆえ、妻を娶るのが難しいレジウスが次期当主から外された理由の一端でもある。
3話目を14時頃に上げたいと思います。