ディラン
後日、
「ウッヒョウ〜金貨65枚〜儲かったぁ〜」
と、リビングで紅茶を飲みながら、浮かれるレジウスに、
「兄さん、また何か悪どい事したの?」
たまたま通りかかったレインが、呆れた声で話しかけた。
「悪どいとは人聞きが悪いぞ弟よ。私は正当な報酬を受け取っただけだ」
「さっき、ブルーパイン子爵家から、使者が来てたけど?」
「ブルーパイン子爵家から1500万ダラス、フォレストランド男爵家から5000万ダラス貰っただけだぞ」
とレインに金貨65枚を見せて笑うレジウス。
「そんなことばっかりしてると怨まれるよ?」
と、ため息混じりでレインがレジウスに注告するのだが、
「もう怨まれてるから一緒だ」
と、どこ吹く風のレジウス。
「はぁ……兄さんは少し安全に生きるすべを学んだ方がいいのでは?」
「レインよ、ブラックパイン男爵家は暗殺も請け負う家だぞ? 安全などとは縁のない家だ」
「父上は、安全第一と言ってたけど?」
「その父上は、今はここに居ないから気にすんな」
「父上が居ない時くらい無茶は止めてよ」
「フォレストランドの馬鹿がイチャモンつけてきたんだから、仕方ねぇだろ」
「フォレストランド男爵家って、領地が隣なのに兄さんの噂くらい聞いたことないのかなぁ?」
「さあ? ケビンですら俺のこと覚えてないのかもよ? あんな抗議文に署名するくらいだし」
「いつも兄さんにやり込められてるのに?」
「多分、記憶力っていう名の部品が、ケビンの頭の中に無いんだろ」
と、兄弟の会話が繰り広げられている頃、とある屋敷では、疲れた表情で机に座り執務をしている男に、
「父上」
と話しかける青年。
「ディランか、どうした?」
ディランとは、ブルーパイン子爵家の長男である。
年は25になる小太りで背の低い、いわゆるポッチャリだ。
父親に似た顔だちであるが、似ているのは顔だけではなく性格も似ていると評判だ。
「エイミーから聞いたのですが、レジウスにまた金を払うというのは本当ですか?」
と、ディランが聞いた。
エイミーとはブルーパイン子爵家のメイドであり、ルドルフの愛人でもある。
「エイミーの口の軽さはどうにかならんのか……」
頭を抱えるルドルフ。
「父上! あのイカれたレジウスに、金などを払う必要はありませんぞ!」
「今更言うな! ケビンのバカがよく確認もせずに書名などするからだ! お前からもケビンに注意しておけ! それにもう払った後だし、総本家からもレジウスには関わるなと釘を刺された。どうしようもできん!」
「何故、総本家がでしゃばって来るのです!」
「フォレストランドの息子がレジウスの所に行った時に、リーナ様がブラックパインの家に滞在されていたのだ」
「リーナ様が……タイミングが悪かったのか……」
と言葉を詰まらせるディラン。
「リーナ様は、何故かレジウスを気に入っておられる。レジウスをリーナ様の護衛にと言い出した事もあるくらいだ。私が猛反対してその話は立ち消えになったがな」
「当然でしょう! あのレジウスなどがリーナ様の護衛など、有り得ません!」
ディランは眼を見開いてルドルフに食ってかかる。
「とにかくレジウスには今後関わるな! 命令だ! いいな!」
ルドルフはディランに釘を刺す。
ディランは返事をせずに部屋を出ていく。
「レジウスめ……リーナ様に気に入られてるからって、調子こきやがって……私のリーナ様なのに……」
などと呟きながら。
ただ、別にリーナはディランのものではない。
リーナの名誉のために言っておくと、ディランはリーナと仲が良い訳でもないし、ましてや付き合っていたということもない。
それどころか、リーナがディランの名前を覚えているかどうかも怪しい。
分家の家の息子だという認識はあるだろうが。
つまり、単なるディランの片想いである。
が、ディランはこの件でレジウスの事をさらに忌々しく思うのだった。




