レジウスの悪行
「5000万ダラス?」
「ああ、出せ」
「出せる訳ないと昼に言ったばかりでしょう! 兵士の見舞金やらで金が無いんです!」
このやりとりで、誰と誰かピンとくると思うが、ブルーパイン子爵家当主とフォレストランド男爵家の当主である。
「ワシはケビンが名前を書いただけで、金貨15枚も払わされるんだぞ!」
「分家ならワシの言いなりだと言ってたのは貴方でしょう! どうにかしてくださいよ!」
「その日、総本家のリーナ様がその場に居られたのだ! もう揉み消せん! お前のとこのイアンがレジウスの事をよく知りもせず、直接非難して騒ぎを大きくしたのがそもそも悪手だった。レジウスのやつ、金を出さなければ抗議文をあちこちに見せて回って、ワシらの家の名を地に落とすと言っておった。あのイカれたガキは言った事はやるぞ。だいたいお前が姑息な手段でウージ領にオークを誘導しようとするからこんな事になったんだろうが!」
「ウチみたいな零細貴族には、オークを蹴散らせるような強兵などいないんだ! 当然でしょうが!」
「ええぃつべこべ言うな! 息子の教育くらいちゃんとしておけ! いいから金貨50枚用意しろ! とりあえず私が立て替えといてやるから!」
「それは貴方もでしょうに。それにブラックパイン男爵家は紅茶で儲けてるから金があるはずでしょう! 5000万ダラスなど無くても問題無いでしょうに!」
「宛名がレジウスだったのも悪かった。ブラックパイン男爵家ではなく、レジウス個人に払わねばならん事になる。奴は支払いが遅れると利子まで要求するぞ! お前の分の金貨50枚が70枚へとすぐに変わるぞ」
「そんな、むちゃくちゃな」
「あのロクデナシの性格の悪さは、知ってるだろう! 払わなければ、金返せって書いた立札持ち歩きながら取り立てに来るガキだぞ! 平民でも半数くらいは文字が読めるんだ。あっという間に領地中に広まるぞ」
「そんな事までするんですか?」
「イーリス殿が去年やられて私に泣きついてきた……」
「なんてガキだ……」
レジウスは去年ミフシ領、ウージ領から見て都側にある隣の領地だが、そこの領主と揉めていた。
領境であるウージ川を挟んだ先にあるミフシ領にあるミフシ港に大量のギガントダックという体長2メートルを超えるアヒルの魔物が住み着き、コレをミフシ領の領主であるイーリス子爵家が、ブラックパイン男爵家と共同で討伐しようと持ちかけてきたのだ。
ブラックパイン家としては、ミフシ港から逃げ出すギガントダックがオーグラ沼に移ってくると迷惑なので、渋々了承したのだが、その際の契約書にブラックパイン家が雇った冒険者が討伐したギガントダックについては、イーリス子爵家とブラックパイン男爵家が折半して買い取ると、小さな字で隅の方に書いてあった。
書かせたのは当然レジウスだが。
イーリス子爵家側からすれば、たかだか冒険者如きが大量のギガントダックを倒せるなどとは思っておらず、たいして気にもせずにサインしてしまった。
結果から言うと、レジウスが倒したギガントダックの数はイーリス軍やブラックパイン軍よりも多い、38体。
一体あたり金貨1枚、100万ダラスでの買い取りという契約だったので、折半してイーリス側は1900万ダラスの支払いになるわけだが、その作戦中にイーリス軍に死傷者が出ており、補償金や何やらで金が減り、倒したギガントダックを売ろうにも、大量だったため値崩れをおこし、買い取り金額の100万ダラスでしか売れず、レジウスへの支払いをレジウスの許可なく後回しにした。
コレにムカついたレジウスは、イーリス子爵家までの道のりを徒歩で看板を持ちながら、ゆっくり歩いて行ったのだ。
[金払え! 嘘つきイーリス!]
と書いてある看板を。
イーリス子爵家は憤慨してブラックパイン家に抗議したが、『契約書に書いてあるからどうしようもないし、ウチは払ったから』と当主レナードに突っぱねられる。
その後、ブルーパイン家に泣きついたイーリス子爵家。
ブルーパイン家がレジウスにイチャモンつけるものの、契約書を盾に取り、けんもほろろに突っぱねたレジウス。
結果として1900万ダラスの支払いが二年間の月賦払いに替わりはしたが、利息を含めて月に金貨1枚、二年間で2400万ダラス払わされることになったイーリス子爵家であった。
イーリス子爵家は、現在も支払いの最中である。




