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 そして、数十秒後に正気に戻ったレジウスは、庭で倒れている豚を無造作に縄で縛って、ザックの鞍に繋ぎゆっくり引きずってフォレストランド男爵家まで運び、出てきたフォレストランド男爵家家令のバランに、豚との交換だと言って運び賃として10万ダラスをせしめた後、フォレストランド男爵家へ5000万ダラスの慰謝料の請求書を渡した。


 その後、ザックに乗ってウージ領に戻り、いつも通りに領兵の手伝いに出かけるのだった。



 そしてその日の夕方に、


「レジウスは居るかあ!」


 と、怒鳴り込んできた男。

 歳の頃は40代だろう。

 自身の腹を抱えるかのように歩く、樽のような体型。


「ルドルフ様、どうされました?」


 ブラックパイン男爵家の家令、セバスが玄関の中で出迎える。

 ルドルフとはブルーパイン子爵家の当主である。

 ルドルフ・フォン・ブルーパイン・ウォーキンという。


「フォレストランド男爵家から先程使者が来て、レジウス宛てにあの家の次男が書いたという抗議文に、ケビンが連名した件で言いふらすとか言っとるらしいではないか! 我が家の面子を潰すつもりかっ!」


 と捲し立てたルドルフ。


「レジウス様はお出かけ中です。すぐにお呼びしますので、応接室でお待ちを」


 そう言ってルドルフを応接室に案内したセバス。


 だが、レジウスが家に戻ってきたのは、日の暮れた19時過ぎであった。


「おっさん、なんの用だ? 俺も仕事があるんだが?」


 応接室に入るなり、憮然とした表情で話しかけたレジウスに、


「誰がおっさんか! ワシが呼んどるのだからすぐに戻ってこんか! 貴様、ケビンが書名したフォレストランドの抗議文の件で、言いふらすとか言ったらしいな!」


「魔物殲滅中に抜け出せる訳ねぇし。急ぐんならおっさんが現場に来いよ。それとこの抗議文の事か?」


 手に持つ抗議文をヒラヒラと見せつけたレジウス。


「息子の顔に泥を塗るつもりか!」


「あんたがちゃんと教育しねぇからだろ? ケビンも、成人したいい大人がこんな書面に詳細を確かめもせず、名前を書くほど頭が悪いとはねぇ。俺の事は知ってるはずだと思っていたのだが、記憶力が皆無なのかな?」


 そう言って首を捻るレジウス。


「フォレストランド男爵家は我妻の実家だ! 知っておるだろうが! ここはお前が引いてワシの顔を立てて穏便に済ませれば良いことだ! 5000万ダラスなどと吹っかけたらしいが認めんからな!」


「私に5000万ダラス吹っかけてきたのは、フォレストランド男爵家のバカですが? 当然同額吹っかけるに決まってるでしょうが」


「本家の言う事には、素直にハイと言えば良いのだ!」


「本家なら本家らしく振る舞ってもらいたいものですなぁ」


「うるさい! 分家は本家の言う事を大人しく聞いておれば良いのだ!」


「ふーん、なるほどねぇ。ならレッドパイン伯爵家の言うことは、ブルーパイン子爵家は聞くという事ですよね?」


「総本家に報告などさせん!」


「今朝まで、総本家レッドパイン伯爵家のリーナ様がウチに滞在しておられましてねぇ」


 そう言ったレジウスの顔には、いやらしい笑みが浮かぶ。


「なに?」


「フォレストランドの次男、たしかイアンとか言ったかな? そいつとのやりとり、全てご覧になってましてね」

「な……」


 この時点で顔が既に青くなっているルドルフ。


「当然、もうこの時間だし都には到着されているでしょうから、すでに報告されているかもしれませんねぇ。リーナ様からダルム様にね。さてどうなるかなぁ〜」


「今すぐ早馬で向かってリーナ様に口止めを……」


「間に合いますねぇ? 出立される時に、良い土産話が出来たと嬉しそうに仰ってましたけどね」


「なんとかならんのか!」


「ならないだろうなぁ。私からダナル様に事を荒げるつもりはないと親書を送れば、あんたは多少怒られはするだろうけど、対外的には面子を保てるかなぁ」


「ならばすぐに書けっ!」


「それが人にものを頼む言い方ですかね?」


「ぐっ……レジウス、頼むから書いてくれ」


「報酬は?」


「ウチから100万ダラス払う……」


「家の面子保つのに金貨1枚とか安過ぎませんか? 桁が一つ少ないですよ。フォレストランドなど直接イチャモンつけて来たんですよ? わざわざオークが領境に居るから同時に討伐しようと教えてあげた私にですよ?」


「ええぃ、ならば私が1000万ダラス、フォレストランドにも5000万ダラスちゃんと払わせる!」


「うーん、金と引き換えで抗議文をお返しすることにしてあげても良いですけど、ご自分でダナル様に届けて言い訳でもして来ますか? そのほうがナダル様のお叱りも少ないかと。人に持って行かせると、『反省してない』と余計に憤慨されますよダナル様は。私が親書にあんたが直接『謝罪』に来たと、一言書けばかなり心証良くなると思うんだけど、金貨10枚じゃあなぁ」


「くっ、15枚出すから書いてくれ……」


「都合金貨65枚。6500万ダラス出さないと抗議文見せてまわりますからね?」


「分かっとる!」


「じゃあとりあえず書いてきますか。少々お待ちを。あ、後で有耶無耶にされないために、あなたの分の1500万ダラスの借用書にもサインしてもらいますからね?」


「分かっとるわっ! くそう、大損だ。レジウスめ」


「いやぁ。儲かるなぁ」

 

 ニコニコ笑顔のレジウスが、足取り軽く応接室を出ていくのを、忌々しい眼でルドルフが睨んでいたのだが、レジウスにはどうでもよい事だった。



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