『オレ』のおはなし
正月も明けた、1月の半ば。
まだ気温は低いが、天気が良く、空には雲一つない。
風も弱く、太陽の陽は暖かい。
とある一軒家の門の前、一人の女の人が籠を抱えていた。
髪は長く、深く帽子を被ったその人の顔は無表情、整った顔も相まって人形のような冷たさを感じる。
つたない日本語で書かれた「はやて」と言う文字が書かれた紙を籠に入れると、一言、贈り物の様に言葉を落とし、籠を門の前に置いた。
時間にして数秒、籠を見つめた後、決意するように踵を返し、振り返らずに歩いていく。
その女性のコートのポケットで、携帯が震える。
女性は険しい顔になりながら画面を確認したが、直後、安堵のため息を吐くと、電話に出る。
「………'ana ealaa matn tayira……………adhhab 'iilaa 'amirika………。」
隠すような会話。 相手の声は聞こえないが、妙な緊張感を感じる。
そんな女性とすれ違う女の子。
不躾だからよくないと分かりながらも目が離せず、女性の背中が角を曲がる、その時まで見つめた。
「………アメリカ?」
わずかに聞こえた理解できる単語を言葉に出す。 口からは白い息。
あの人はアメリカの人なのかな。 多様性の国は色んな人がいるから面白いわ。
自分の興味に忠実な女の子は、自分の想像を勝手に納得させながら、家への道を進んだ。
家の門が見えて来た時、いつもと違う違和感を感じる。
なんだろう…家の前に何かある。
小走りで近づき、中を覗くと、びっくりしすぎて吸った空気で喉が鳴った。
赤ちゃんだっ赤ちゃんが寝てるっ!!!? え!!? なんでっなんでっ!???
ひとしきり慌ててから、このままでは風邪を引くと気が付き、籠ごと抱きあげる自信はなかった女の子は、寝ている赤ちゃんを慣れないながらも抱き上げた。
するりと落ちる毛布。 寒さのせいか、それとも起こされて機嫌が悪くなったのか、モロー反射と共に泣き出す赤子。
おろおろしながらも、籠はそのままに赤子を抱いたまま、家の玄関へ向かう。
玄関を前にして、手が使えないから開けられない事実に気が付き、仕方なく普段出さない大きな声で家族を呼んだ。
「お、おとーさーんっおかーさーんっ赤ちゃんがいるーっだれかードアあけてーっ!」
学校から帰ってきた小学校1年生の長谷川一華は、目一杯の声で叫んだ。
◇
温められた部屋で長谷川家の母にすっぽりと抱かれながら、哺乳瓶のミルクを飲んでいる赤子。 すっかり泣き止んで今はミルクに夢中だ。
「門の前に籠? その中に赤ちゃんて…。 なんかのドラマみたい。」小学校6年生の菜乃香が、ミルクを飲んでいる赤子の動いているほっぺを見ながら言う。
「ほんとな~。 父さん、小説のネタにできるんじゃない?」と、小学校4年生の蓮。
苦笑いしながら「どうかな…。」という父、友三。
赤子を拾った一華も、目をキラキラさせながら赤子を見ている。
その様子に「一華は、赤ちゃんが家にいるのは初めてだもんね。」と優しくほほ笑む母。
その横では、ゲームの対戦に夢中の小学校2年生の双子、陽翔と湊。
「今日がまだ暖かい日で良かったね。」そう言うのは、先程幼稚園に4歳の帆香を迎えに行っていた高校1年生の陽菜。
帆香は、双子の対戦画面に夢中だ。
「手掛かりは一緒に入っていた、この紙だけだね。」
そう言いながら、「はやて」と書かれた紙を持つ父に、うなずく一華。
「なんだろ…名前?」蓮が紙を覗きながらそういうと、「うん…どうだろう…。」と父も思案顔になる。
ミルクを飲み終わった赤子を縦抱っこし背中を軽く叩きげっぷをさせた母は「そうだね、名前にしていいんじゃないかな。」と、赤子と顔を合わせ「ね~、はやて。」と笑顔でもう呼んでいる。
その反応に目を見開いた父、友三が「……末っ子?」と言外に、うちの子にするの?と聞くと、「うんっ」とあふれんばかりの笑顔で答える母。
「いいのっ!?」はじかれるように立ち上がり喜ぶ一華。
そんな一華を、ペット感覚ではないのかなと苦笑いになる陽菜。
ゲームの対戦がひと段落ついて「え?なに?」と状況が分かっていない湊が振り向く、「兄弟が増えるって事だろ。」と同じ様にゲームをしていたはずなのにしっかり聞いていたらしい陽翔がセーブ確認画面から目を外さずに言う。
「え?なんで?」とさらに分からなくなって陽翔に説明を求める湊、自分達のゲームを横で見ていた帆香を抱き上げ膝に乗せてながら聞いた。
そんな二人を横目に「でもさ、私達の時と違うよね?どうするの?」と、国に提出する書類に毎回奮闘している父を心配するように聞く菜乃香。
「さぁ…また調べないとだね。」と困りながらも笑う父、もう母の決定に従うつもりなのだろう。
それを読み取った母は「良かったねぇ、はやて。長谷川家にようこそ。一緒に生きていこうね。」と赤子を自分の目線より高く上げて言った。
◇◇◇
そんな話を聞いた後、現在。 家で一番強いのは母なのかもしれないと思った。 父が自分 (の笑顔)に弱い事を知っているから、ある意味質が悪い。(悪用はしてないと思いたい。)
そんなオレの考えを読んでいるのかいないのか、目が合った母は口の端を上げながらウインクした。
話の終わりに「え…っと、話戻して悪いけど、じゃあ、菜乃花はどうして教えてくれなかったの…?」と聞くと、「…覚えてたか…。」と小さな声で少し憎々しげに言われた後、
今、目指してるのは声優。知っての通りすっかり人気の職種なのもあって、言うのが恥ずかしかった
と耳を赤くしながら言われた。
なんだそれ、ただ恥ずかしかっただけかよ…。
オレの悩みって一体なんだったんだ…。 そう言うと後ろから、顔を近づけてきて「はやてだって学校でモテてる事隠してるでしょ?」と囁かれた。 思い出される、個人商店での黒沢との会話。 聞こえてたの!?という思いと、振り向いたら顔が予想より近かったのとで、顔が熱くなるのがわかった。
その後、家族に何を話していたのかとイジられたが、色んな思いでうまく言葉が出ず、あぅあぅ…と壊れた人形のようになり、返事ができなくなってしまった。
そんなオレに仕返しと言わんばかりに、家族には見えない角度から舌を出す菜乃花。
そんな血の繋がらない姉を可愛いと思ったのは内緒だ…。
◇
「はぁ~~~…。」
少し長めのため息を吐いた。
話は終って、みんなはすっかりいつものモード。 それぞれの部屋に戻ったり、リビングでゲームしたりしている。
オレもココアを入れ直して、キッチンの自分の椅子の背もたれに、もたれながら座っていた。
そんなオレに、自分の飲み物を取りに来た一華が「疲れた?」と上を向いてるオレのおでこに手を当てながら聞いた。 閉じていた目を開けて一華を目に写す。 「いや…オレの今までの時間て無駄だったんじゃね?って思って…。」とこぼすと、柔らかく笑いながら「…気付かなくてごめんね。」と謝られた。
びっくりして首をブンブンブンと風を感じるくらい振る。 「一華が謝る事じゃないっ」 前から一華はオレにだけデレる?時があった。 もしや、自分が拾ったから何かしらの責任を感じてる?
「…オレを見つけてくれてありがとう、一華。」 責任感の強い一華に重荷に感じて欲しくなくて、椅子にしっかり座り直し目を見ながら言ったら、一瞬びっくりした顔の後、何故か少し泣きそうな顔になって、ありがとう、と小さな声で返された。
一華の顔の変化の意味に気付く事は出来ず、小さく首を振った。
◇◇
いつもの紅茶をいつものマグカップに入れて、片手に持ち自室に入る。
4畳半の部屋。 色味は基本、白、黒、紺。 いくつかポイントの様に明るい色のものがあるが、プレゼントされた物なのが見て取れる。
部屋の主の女の子は、一口、紅茶を口にすると机の上に置き、定位置の椅子に座った。 手慣れた動きでノートパソコンを開く。 その画面をじっと見て、「…まだダメだった…もっと、ちゃんと…。」と呟いた時、「一華ーっお風呂空いたよーっ」と階段下からやや大きめのよく通る声が聞こえた。 「…はぁい。」返事をしながら立ち、着替えを用意する。
戒めの為に画面に固定された文字。
それを一瞥して、部屋を出た。
ノートパソコンの画面には、アラビア語の検索結果、『はやて』『my life , lover or love』と書かれた文字があった。
もっと一華の部分は分かるように書けるかも…と思っているので変更するかもです。流れは変わりませんが。
とりあえずの upです。
ご了承をば。




