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第68話「俺たちの文化祭」

黒藤さんが発表資料にキャラクターの絵を貼ろうとしていた文化祭準備から2日。今日からいよいよ文化祭本番だ。


俺のシフトはまず10時の開始から。写真部の会場にもたくさんの人が来る。


良哉「こちらのアンケートもよろしくお願いします。」

来場者A「分かりました。」


俺は手が空いている間は、来場者に混じって他の人の作品を見る。会津で撮った写真を選んだ人もいる。


「ん。」

黒藤さんの写真が目についた俺。

(これはテレビの鉄塔か?)


(そび)え立つ鉄塔」というタイトルで、その通り空高く聳え立つどこかのテレビ局の鉄塔の写真を選んだ黒藤さん。黒藤さんと出会って1年。それがテレビ局かなんかの鉄塔であることは俺もすぐ分かるようになっていた。

今になって気がつくと、俺は黒藤さんの写真を無意識のうちに探していた。


たまたま黒藤さんがシフトにいるから、どこのものか聞いてみることにした。


「黒藤さん。」

「斎藤君。どうしたの?」

「黒藤さんが撮った鉄塔、あれどこで撮ったの?」

「浦和。あの辺初めてだからちょっと道に迷っちゃった(汗)でも、すっごく楽しかったよ。」


埼玉県の浦和で撮ったというその写真。浦和駅からバスと歩きでおよそ30分のところにある、東京で言うところのスカイツリーに相当するような、「送信所」というものだという。道に迷ってはしまったものの、送信所の写真を撮るのは楽しかったという。


「そうだ斎藤君。」

「何?」

「せっかくだからさ、私これ終わったら3時ごろまでここのシフトないから、一緒に文化祭巡ろうよ。斎藤君もそうでしょ?」

「うん。まあ、別にいいけど…」

「じゃあ12時に3号館の入口ね。」

「了解。」


俺は約束をした後に気づいた。これは紛れもないデートだ。

(気づいたところで断らなかっただろうとはいえ、なぜ約束した今になって気づいたんだ…)

と、俺は思っていた。藤堂に何か言われそうなのは置いておくとしよう。


そして迎えたシフト終わりの12時。

「お待たせ。」

「あ、斎藤君。早速食べるもの買おう。」


こうして俺たちは、紛れもない文化祭デートに繰り出した。


食べ物の屋台があるスペースに来た俺たち。昼時ということもあってか、どこも大行列ができている。


「斎藤君は何にする?」

「焼きそばにしようかな。何か俺、『文化祭といえば焼きそば』ってイメージがあるんだよ。高校の頃の文化祭でクラスで焼きそばやったからかなぁ。」

「そうなんだ。うちもクラスで焼きそばやってたよ。」

「黒藤さんも?奇遇だねえ。」

「私もそう思う。」


黒藤さんも俺も高校の頃の文化祭で焼きそばを出したことがあるという。これはちょっとしたミラクルかもしれない。


俺たちは焼きそばの行列に並んだ。

「最後日はこちらでーす。」


列は長い。見た感じ10分はかかるだろう。

「ねえ斎藤君。」

「なに?」

「この間宮崎県のテレビ局の番組表で面白いものを見たんだ。」

列に並んでいる間、いつもの黒藤さんの地方局トークが始まった。宮崎県のテレビ局がドラマの再放送枠で、関東では深夜にやっているVtuberの番組をやるようになったという。


宮崎県のドラマ再放送(枠)事情に話は発展していく。その宮崎県のテレビ局のドラマ再放送枠では、以前やったドラマの再放送のみならず、ネット枠の関係で放送されなかった人気作を帯でまとめて放送することもあるようだ。


とまあ黒藤さんはその話をとても楽しそうに話す。

「土曜深夜の割に視聴率が高かったドラマの集中放送が来たときは『やっぱり!』ってなったよ。」

「でもさ、その地域では初放送とはいえ一度やった作品なんだし、再放送枠でまとめてやるってことは『再放送』なんじゃないの?」

「違うよ~。再放送は前にもやった作品だから『再放送』なのであって、本放送…つまり初めて放送される作品は『一挙放送』なのっ。」


黒藤さんはドラマ再放送枠における『再放送』と『集中放送』の違いの定義も話してくれた。


そうこうしているうちに俺たちの番になった。


屋台の学生「らっしゃい。」

良哉「2人分お願いします。」

屋台の学生「分かりました。」


鉄板の熱気が伝わってくる中で、200円を払った俺たちは店員の学生から焼きそばが詰められたパックを受け取った。


食事スペースは人でごった返している。そんな中で俺たちは2人が座れる席を探す。


「あった。ここでいい?」

「うん。」


空いている席に座る俺たち。2人横並びで食べるには少々窮屈だ。


「…」

おかげで黒藤さんとはほぼ密着状態だ。


「いただきまーす!」

「いただきます。」


俺たちは焼きそばを食べ始める。だが…

「ああごめん。」

「状況が状況だよ。気にしないで。」


食べている最中に黒藤さんの腕があたってくる。俺は黒藤さんに「気にしないで」と言ったものの、自分は気になってしまう。


黒藤さんの腕がちょくちょくあたってしまうからか、おかげで俺は食事の間自分を落ち着かせるのに必死だった。食事中に展開された黒藤さんの地方局トークもほとんど頭に入ってこなかった。


食事を終えた俺たち。緊張から解放されたような感じすらする。


「ちょっと俺トイレ行ってくるわ。」

トイレに行っている間、俺はこんなことを考えていた。

(黒藤さんは文化祭でどんなところに寄るのだろうか…)

ということを。


「お待たせ。じゃあ次のとこ行こう。斎藤君はどんなところがいい?」

「いや… 黒藤さんの行きたいとこでいいよ。」

「分かった。ありがとう。」


黒藤さんはちょっと嬉しそうだった。


俺たちは大学の4号館に入った。2階にある大きな教室で、テニス部が縁日をやっているという。俺たちはそこに入った。


~輪投げ~

良哉「おお入った!」


~ヨーヨー釣り~

「釣れたー!斎藤君は?」

「も、もう少し…」


俺たちはテニスボール投げ・射的・ボウリング・輪投げ・ヨーヨー釣りを楽しんだ。


「楽しかったね。斎藤君!」

「ああ。」

思えば、黒藤さんと縁日なんて初めてだ。


次に俺たちは美術部・漫画研究会で作品を鑑賞した後、茶道部へ行く。


茶道部では、季節の花に関する研究内容を発表していた。

紘深「きれい…」

黒藤さんは資料に貼られていた花に見とれている様子だった。


「黒藤さんお花とか分かるの?」

「うん。テレビで千葉や埼玉の花の風景を目にしてるから、若干そういうの知ってるんだ。」

という。


その後はチアリーディング・応援部のブースへ行った。

そこには以前黒藤さんとおしゃべりしたことのある、経済学部の水野さんがいた。

水野「その方は?」

良哉「あ、斎藤です… ゼミが一緒で。」

水野「ラブラブでお似合いですね二人とも!お付き合いしてるんですか?」

良哉「いえいえ…(苦笑)」

紘深「決してそんなわけじゃ…(苦笑)」

俺は水野さんから、からかわれてしまった。


その後俺たちは古文書研究会・歴史研究部で歴史に関する資料をいろいろ見た後、考古学研究会へ。そこで俺たちは石器の欠片のレプリカを使った、石器の拓本取りをやった。


良哉「ああっ… これでも多すぎなやつ?」

部員A「ですね… 自分もここでよく苦戦してて…」

和紙を使う拓本取り。水分の加減が難しかった。


拓本取りのブースを出て、お互いトイレを済ませた後俺たちは次の場所へ。

すると…

「あ!斎藤君!ねえこれ見て!」


黒藤さんは1枚のポスターを指さした。それは大学の山形県人会の集いのポスターだ。自由参加可能と書いている。


「私も参加したいな。」

「言って黒藤さんテレビの話しかしないじゃん。しかも山形県って、テレビのことでいろいろあったしさ…」

「えへへ…(苦笑)」


いろいろ波乱があったという山形のテレビ事情。当時を知る県の人からしたら少々センシティブな話になるだろう。


その後は軽音楽部の公演を見た俺たち。終わった頃には時刻は2時45分を過ぎていた。楽しい時間もあと15分弱だ。

思えば、俺が目星をつけていた場所も今日のうちにほとんど回れてしまっていた。黒藤さんと俺、目星をつけていた場所はほとんど同じだったのかもしれない。


「黒藤さんの周りたいところはこれで全部?」

「うん!」

そして黒藤さんは俺の前に来て、こう言った。

「斎藤君も一緒だったから、本当に満足だよ。ありがとう。」

「そりゃよかったよ(苦笑)どういたしまして。」


黒藤さんは「楽しかった」という感じに包まれていた。その後は大学広報課のブースで大学のキャラクターの着ぐるみと写真を撮った後、写真部のブースに戻って午後のシフトだ。


(明日は俺の回りたいところを回ろうかな。できれば黒藤さんも誘って。)

午後のシフトの間、俺たちはそんなことを考えていた。


~次の日・ボードゲーム同好会のブースにて~

古田「あ!斎藤さんに黒藤さん!」

良哉「あ、古田さん!」

古田「お二人でここに来たんですか?うふふ。相変わらずお似合いですね。」

良哉「そ、そういうわけじゃ…」

紘深「あの… 斎藤君に誘われて…」

古田「やっぱりそうなんですよね?斎藤さん!」

良哉「だから別に『付き合ってる』ってわけじゃなくて…(汗)」

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