第65話「請け売りですが、なにか?」
夏休みも後何週間かというところ。今日は就職関係のイベントがある。
そんなわけで俺と藤堂は大きめの教室の前でスタンバイしていた。人がいっぱいいる。黒藤さんはというと家の手伝いの関係で来られないようで、後日資料だけを受け取るとのこと。
夏休みということで俺の周りにいる人たちはいろんなところに出かけていたようだ。土産話的な会話をしている人が多い。
するとそこへ…
「おーい。」
やってきたのは松永という、俺と同学年の男子だ。藤堂と同じ学部のやつで、俺も藤堂経由で仲良くなったやつだ。
幸太郎「よお松永。」
良哉「おはよ。」
松永「今川から聞いたぜ。写真部の合宿の話。」
幸太郎「そりゃどうも。」
松永「実は俺もこの夏休み大分に行ったんだぜ。」
良哉「(大分…あっ。)へー。合宿で。」
松永「ああいや。ちょっと友達に誘われてね。」
松永は彼の友達とともに大分に出かけたようだ。大分といえば俺たちからしたら、黒藤さんがよく、というかかなりの頻度で話題に上げる地域という認識だ。
松永「そこで俺不思議なものを見たんだよ。」
幸太郎「不思議なもの?」
松永「ああ。」
藤堂は何か不思議なものを見たというのだが…
松永「あれは初日の夜だったんだよ。ちょうどテレビをつけたらいつも見てる夕方のアニメやってて、それをしばらく見てたんだよ。」
幸太郎「ああ。」
良哉「(まさか)ああそれで…?」
松永「番組が終わって7時になったらなんかチャリティっぽい番組がいきなり始まったんだよ… あいつにチャンネル変えたかって聞いても全然変えてないって言うからさ、不思議でしょうがなかったんだよ。」
俺はそこで全てがつながった。8月の終わりのある日曜日の夜、夜7時にチャリティー特番が急に始まる。それは大分県にあるテレビ局のいつもの流れだ。厳密に言うと「また始まる」と言った方が正しいかもしれない。黒藤さんから聞いた話である。
「やっぱりそうか。」と俺は頭の中で思っていた。東京から大分に来た人からしたら理解できないことかもしれない。
俺はそれを松永に話す。
良哉「ああそれなんだけどね… そのテレビ局『クロスネット局』とか言って、2つの系列を掛け持ちしてるやつなんだよ。」
松永「『系列を掛け持ち』?『クロスネット』?初めて聞くな俺それ…」
良哉「他にもなにかテレビで不思議に思ったことあったりする?」
松永「ああ。次の日朝8時になると違うチャンネルなはずの朝の番組が始まったりとか。それも『クロスネット』とか言うやつ?」
良哉「まさにそんな感じ。見てもらった方が早いかな。ちょっと待って。」
俺はスマホを使って、松永にその大分県のテレビ局の番組表を見せた。
「へーこうなってるんだ。」
松永は興味深そうにそれを見ている。今日は火曜日だから、夜に系列が切り替わるのは11時だ。
松永「おわ!11時にチャンネルが変わってる!」
良哉「ああ。本当にチャンネルを変えるみたいな感覚で番組組んでるんだよこのテレビ局。」
松永「せっかくだから日曜のも見せてよ。」
良哉「ああいいぜ。」
俺は日曜日の番組表を見せた。
松永「うわ!俺どっちも見てるやつ!7時になったらチャンネル変えないでそのまま見られるってこと?」
良哉「そういうこと。」
松永「大分県すげえ便利だななんか…」
良哉「宮崎県もそうだけどね。」
松永「にしても斎藤よく知ってるな。行ったことでもあるの?」
良哉「いや、行ったことはないんだけど…」
気がついたら松永相手に、黒藤さんから請け売りの大分県のテレビあるあるをほんの一部ではあるが説明してしまっていた。
「自分の中でも地方のテレビに関する知識が根付いている」黒藤さん北条さんにテストを作るにあたっていろいろ調べたこともあるとはいえ、そんな自分にちょっとびっくりだ。
そういえば黒藤さんは「大分宮崎は初歩」だと言ってたっけ。
松永「もしかして周りにそう言うのに詳しい奴がいるの?親戚が大分とか。」
良哉「ああ、ちょっとな…」
俺はとりあえず、『周りにそう言うのに詳しい奴がいる』というのには同意しておいた。ここで黒藤さんのことまで詳しく話したらからかわれるに決まってるからだ。今の状態で黒藤さんのことでからかわれるのは、少々キツい。
松永「そういうことだったんだ。あいつもうすぐ来るから話しておくよ。助かった!」
良哉「ど、どういたしまして…(苦笑)」
そう言って松永はエレベーターの方に歩いて行った。請け売りの知識で人から感謝されたのは、生まれて初めてかもしれない。
幸太郎「黒藤から得た知識、マジで役に立ってるな。」
良哉「う、うるせー。」
という、教室のドアが開くまでのひとときだった。
松永「でそういうことだったってわけなんだよ。」
松永の友達「そうだったんだ… 俺も初めて聞くよ。」
松永「だろ?」
-今回初登場の登場人物-
松永
大学2年生。川崎市在住。経済学部に属していて幸太郎とは親しく、良哉も幸太郎経由で親しくなった。
親友がいて、その親友とは空き時間を見つけてはどこかへ出かけるほどの仲。




