第58話「藤堂と話したい黒藤」
高校野球の都予選も終わったある日、大学の会議室でのこと。
「これ、福井のお土産。」
藤堂がお菓子を渡してきた。この間福井に一人旅に行ったようで、そのお土産だという。
「ありがとう。」
藤堂はそのお土産を、同じ写真部の人たちにも渡していた。
二本松「ありがとうございます。」
小峰「福井のお菓子か。ありがとう藤堂君。」
当然そのお土産は、部活の始まり直前に俺たちと遅れてきた黒藤さんと北条さんにも渡された。
紘深「ありがとう藤堂君!」
兎愛「ありがとうございます!」
今日の部活の議題は、9月頭に2泊3日で行われる部活の夏合宿の行き先についてだ。俺は実は夏休みに入ってからというもの、(地方で)写真映えで有名なところをネットで調べていた。当然、この間北条さんの家にお邪魔する行き帰りの電車の中でもだ。
本山「9月の頭ってまだかなり暑いから涼しいところがいいですね。今ホワイトボードに出てるとこだったら、長野か会津がいいと思います。」
会議室の使用時間の都合や部長の
「9月ならホテル押さえるのも8月よりかは楽だろうし」
という判断もあって、最終的な行き先決めは次回以降ということになった。
その帰り道。
幸太郎「4人で黒藤の店で飯でも食うか。黒藤、店今日は大丈夫?」
紘深「うん!」
瑞寿司で食事をすることで決まった。
瑞寿司に向かう途中、俺はふと気になっていたことがあった。
それは部活の最中、黒藤さんが藤堂の方を気にするそぶりをたまに見せていたことだった。
瑞寿司に着いた俺たち。
大智「いらっしゃい!お!今日は4人勢揃いか。部活の帰り?」
幸太郎「はい。夏休みだし、せっかくだからみんなで来ようかということで。」
昼食時を過ぎているためか、店は俺たちだけだ。
注文を済ませた俺たち。その前に黒藤さんにはいつも彼女が家にいる時に出しているというまかない的なものが出された。それに、
「せっかく紘深もいるんだから、4人で食べてみてよ。」
と、おじさんは開発途中だというチラシ寿司の創作メニュー(この間黒藤さんがデザインを考えたものとは別)もサービスしてくれた。
食事を始めた直後のことだった。
紘深「そうだ。ねえ藤堂君。実はさっきっから話したいことがあったんだけど…」
と口を開いた黒藤さん。
幸太郎「ん?どうしたの?黒藤が俺にとか珍しいじゃん。」
紘深「福井行ったって言ってたじゃん。」
幸太郎「うん。」
紘深「あっちでテレビとか見た?」
幸太郎「まあ見たけど。」
紘深「朝8時のあの切り替わり見た!?」
黒藤さんは藤堂相手にこんな話を振った。福井県では平日朝のワイドショーは朝8時を境に日○レから○レ朝に切り替わるという。
幸太郎「ああ。確かに見たけど、ちょっと不思議な感じだったな…」
紘深「やっぱり不思議に思うよね。あー私も見てみたい〜!」
幸太郎「黒藤は絶対そう思うだろうとは俺も思ってたよ。後それでさ、8時に映像切り替わる時、なんか一瞬チラッと映り込んだんだけど、あれ何なの?」
藤堂はこんなことを聞いた。彼によると8時を回って映像が切り替わる際、サブリミナル的な映像が一瞬チラッと映った後、番組が始まったという。
「それ、福○放送が日○レからテ○朝に回線を切り替える… まあテレビのチャンネルを変えるみたいな感じのことをテレビ局がやった時って言えばいいのかな?その時にタイミングが一瞬早かったのか、前の番組が映り込んじゃった感じ。」
「そうなんだ。一瞬でよくわからなかったけど、俺もあの映像は見覚えがあったんだよね… まああまり気にならなかったけど。」
「回線を切り替える… つまり同時放送にする時もあることだよ。確か…」
黒藤さんはスマホを操作する。そして何かにアクセスしたのか、スマホを藤堂に見せた。
「へーこんな出来事もあったのかー。ありがとう。」
スマホを黒藤さんに返した藤堂。俺はちょっと聞いてみることにした。
良哉「藤堂。本人の前で聞くことじゃないと思うけど、今黒藤さんに何見せてもらったの?」
幸太郎「ああ。なんかその一瞬映り込む的なので前に関西のテレビ局に『これは何なんですか?』的な質問が寄せられたことがあって、その質問にテレビ局が答えた時のやつ。」
良哉「そんなことがあったんだ。」
一瞬映り込む現象は他の地域でも起きているようで、視聴者からテレビ局に質問がきたこともあったという。黒藤さんに聞いたところ、「チラ見え」ともいうそうだ。
「あと藤堂君。藤堂君が福井行った日っていつ?」
「8月の頭。火水木の2泊3日。」
「火曜日ってことは、確か藤堂君が毎週楽しみにしてるドラマあったよね?10時からやってるやつ。それ見た?」
「ああ見たよ。」
「じゃあ藤堂君泊まってるホテルってケーブルテレビ入ってたやつだ!」
「そ、そう…(苦笑)でも、なんで分かったの?」
「火曜10時のドラマ!福井県にはそれ作っているとこ…T○Sの系列局がないから、ケーブルテレビでしか見られないんだ。」
「そういうことか。待てよ… 確かにホテルに『○○系』とか書かれてるテレビ局のリストあったけど、あれ実は1つだけよその地域の局だったってこと!?」
「そう!ちなみに1つじゃなくて2つだよ。」
「待って。福井県って結局、民放いくつあるの?」
「2つだけ。」
黒藤さんは、その後も彼女の福井県のテレビ・ラジオに関するトークは止まらない。
紘深「土曜日の夜がとっても面白いの。9時からがね―」
兎愛「土曜日のその時間東京とは別なのって、宮崎県以外では福井だけなんですよね。」
紘深「兎愛ちゃんあたり!」
幸太郎「北条もすげえな…(苦笑)」
(待てよ…もしかして、部活中黒藤さんが藤堂の様子をしきりに気にしてたのって…)
部活中、黒藤さんが藤堂を気にしていた理由が全てつながった。黒藤さんは福井に行ったという藤堂と、福井県のテレビに関する話で盛り上がりたいと思っていたのだと。
実際藤堂と福井県のテレビの話をしている彼女は、本当に楽しそうな顔をしていた。
幸太郎「ごちそうさまでしたー。じゃあな黒藤!」
紘深「うん!じゃあ次の部活の時にー。」
食事を終え、支払いを済ませ家に帰る俺たち。
家に着いた俺はベッドの上に寝転がる。そしてふと、さっきのことを思い出す。
〜回想〜
「朝8時のあの切り替わり見た!?」
〜回想終わり〜
思えば黒藤さんとは中学校から同じ学校の藤堂。藤堂に初めて話しかけられたそうだったように、地方局マニアとしての彼女を一番見てきている人と言っても過言ではない。
一つ聞いてみることにした。
〜LINEのトーク画面・良哉のトーク〜
「なあ藤堂」
「ちょっと聞きたいんだけど、」
「さっきの黒藤さんの話どうだった?」
トイレから行って戻ってくる間に、もう返信は来ていた。
〜LINEのトーク画面・幸太郎のトーク〜
「別につまらなくはなかったよ。」
「いつもの黒藤かなって感じ。」
良哉「なんか、ごめん…」
幸太郎「謝らなくていいよ。」
「まあ強いていうならちょっと楽しかったかなって感じ。」
良哉「マジで?」
幸太郎「実はああやって黒藤と話したのってかなり久しぶりなんだ。」
「まあ実際俺も黒藤と初めて会って7年になる訳だけど、地方のテレビのことであそこまで深く話したのって初めてなんだよね。」
藤堂もどうやら、満更でもなかったようだ。
幸太郎「そうだ。仮にだよ。もしいつか4人でどっか旅行する機会があったら、民放が3つ以下のところにするか。」
良哉「そうだな。黒藤さんめちゃくちゃ喜びそう。」




