第4話「過去を語ってみたら」
実は紘深の同級生だったという幸太郎。幸太郎は自分が知る紘深の過去を良哉に語ります。
藤堂は黒藤さんの過去を語り始めた。しかしそんなうんざりとした様子でもない。
「まずは1年の頃、技術の時間であったことの話をしようかな。」
中学1年の頃、技術のパソコンの授業でのプレゼンテーションソフトを使うことの応用として簡単なスライドを作った時のこと。
他の人がアイドルとかスポーツチームとか自分の好きなものを紹介する中、彼女はただ一人、「四○放送」という徳島県にあるテレビ局のことを紹介していたのだ。しかもそのページの数は他の人が多くて5ページくらいだったのに対し、黒藤さんのは10ページもあったという。
「みんなどんな反応だった?」
気にならないわけがない。
「みんな『なんかよくわからないけど凄いこと知ってるんだな…』って顔してたよ…」
「だろうな…」
俺は苦笑いしかできかった。
「担当の先生も『黒藤みたいな趣味のやつに出会ったのは初めてだな。』って言ってたよ。」
「うん…」
「しかもその次の週だったかな…」
この技術の時間の話はどうやら後日譚のようなものがあり…
次の週の技術の授業の内容はインターネットを使う授業。休み時間にはみんな見たいサイトをネットサーフィンしていた。
(ご丁寧なことに藤堂は、いかがわしいサイトを見ようとしたがフィルタリングが発動してブロックされてしまった奴がいたということも話してくれた。)
先生が席を外していたため生徒が変なサイトを見ていないか先生が監視する用のパソコンをたまたま見ることができたので、それで黒藤さんがどんなサイトを見ているのかふと見てみたところ…
「案の定どっかのテレビ局のホームページだったよ。黒藤のやつめっちゃウッキウキでさ…」
「予想通りだ。」
しかもそれだけでこの話は終わらないのだという。
黒藤さんはその後大分県のテレビ局の番組表を見ていて、どうやらその週末の夕方にこの辺では木曜日の夜に放送されているあるトーク番組のうち、人気の男性アイドルグループのメンバーが出演した回が放送されるのを発見した。
「黒藤の友達のクラスメートの女子がそいつのファンで…」
そのことを黒藤さんの友達のクラスメートに話したところ、その女子は…
「なんかめっちゃウキウキしてた。」
「おい待て。大分だけで放送ってことはここじゃ映らないじゃん。大丈夫だったの?」
「黒藤もどうやらこれはちょっとマズいって思ったのかな。『ここじゃ映らない』って必死に補足してたよ…」
「黒藤さん…中学の頃から地方のテレビ局でいろいろな伝説を…」
「だろ?中2はクラス違かったからよく分からないんだけど、またクラス同じになった中3の頃にもあって…」
中学時代の話はなんともう一つあるという。
「これは、修学旅行で京都に行った時の時の話だ。」
黒藤さんと修学旅行。おそらくテレビをみまくっていたに違いない。
「まあ、ホテルでテレビ見まくってたんだろうな。」
「正解!あとロビーで新聞のテレビ欄見てたし、自由時間に新聞買ったりもしてたなぁ。」
そうだろうなと思った。俺の中での修学旅行とテレビの思い出と言えば、修学旅行の初日がサッカーの日本代表戦と重なったから客室のみんなで試合を見ようと「6」のボタンを押したら、サッカーではなく世界遺産の映像が流れて一時訳が分からなくなったことくらいだ。チャンネルを変えまくる中で「5」を押したらサッカーにありつけられたが。
「問題は修学旅行が終わった後のことだ。修学旅行の後、学校の総合学習で『修学旅行で撮った写真を使い、自分でスクラップブックを作る』ということがあったんだけど…」
そのスクラップブックは、大きく1日目→2日目→3日目→最終日→自由記入欄→自分の感想と大きく分かれる。
黒藤さんの自由記入欄の内容はというと、京都をはじめとした関西のテレビ・ラジオ事情を紹介するというものだった。その内容も詳しく教えてくれた。
「関西だけでしか放送されていないテレビ番組」
「大阪のテレビ局が作っている全国放送の番組」
「『オー○ナイト○○ポン』の関西での放送事情」
…とまあ凄い内容だ。オー○ナイト○○ポンについては大体察しがつく。俺がいた岐阜県でも、オー○ナイト○○ポンの姉妹版が、本家オー○ナイト○○ポンが流れている局とは別のラジオ局で流れているのだから。本家がC○Cラジオで、それ以外は東○ラジオという具合で。放送されていないものもある。
「俺も『やっぱりか』と思ったなあ。クラスの他の女子もあいつに関西でしか放送されていない番組がなんなのか質問しまくってた。読み応えあったよ。」
藤堂は苦笑いしていた。
「しかもあいつ、『もっと関西のテレビのこと書きたかった-!』とか言ってたなぁ…(苦笑)」
「全振りしてるな…(苦笑)で、高校の頃もあるんだろ?」
中学時代だけでも4つのことが分かった黒藤さんの過去。高校の頃の話について、今思えば楽しみに思っている自分がいた。
「ああ。クラス同じだったのが1年の時だけだったから、その時のことしか覚えてないんだけど…」
それは新入生のオリエンテーション合宿で、軽井沢に行った時のことだそう。
「当時俺と仲が良かった女子が黒藤と部屋が同じで、そいつから聞いた話なんだが…」
高校生になったということで、部屋にいる他の女子はスマホのゲームや好きなアイドルの動画鑑賞に明け暮れていた中、黒藤さんは部屋にいるわずかな時間をみつけてずっとテレビを見ていたらしい。特に夕方のニュースの時間になると食い入るように見ていたとか。
「あと同じ部屋に料理が好きなやつがいて、お昼くらいにやってた料理番組… あれ○分クッキングで合ってるっけ?」
「ああ合ってるけど?」
「そうそれ。○分クッキング。それを黒藤と一緒に見ていたら、そいつが番組の終わりに出てくる文字?の中で出ているローマ字3文字と画面の右上にうっすらと出ているローマ字が違うのに気がついて黒藤にそれを聞いたら、わざわざ『今見てた料理番組は名古屋にあるテレビ局が作っていて、そこから長野をはじめとしたいろいろなところに同時に送り出しているんだよ』みたいなことを丁寧に説明してたってこともあった。」
「あれ長野でも流れてたんだ… 俺てっきり東海3県だけかと思ってた。」
また学年に長野出身の先生がいて、その人と長野のテレビの話で盛り上がったともいう。
「うわやべえもうこんな時間じゃん。ごめんな長話につき合わせちゃって。」
気づいたらもう日の入りだ。藤堂はあいさつもそこそこに部室を出ていく。
「ああ別にいいよ。俺今日バイトないから。」
藤堂から話を聞いた結論としては、中学に入学したころですでに地方のテレビ局が好きだったということ。純粋にそれだけだった。
なんだろう。俺、藤堂と仲良くなれたような気がする。
実は徳島県にはテレビ局が「四国放送」というところ一つしかなく、民放5系列の番組が入り乱れるように放送されているんです。
仮面ライダーが火曜日の昼11時頃、スーパー戦隊が金曜日の昼11時頃です。