第32話「この扱いって何ですか!?」
カフェテリア近くの勉強スペースで時間を過ごしていた良哉と幸太郎。そこに紘深がなんだか浮かない表情でやってきます。
紘深は良哉にスマホの画面を見せるのですが、その紘深が話したことは…
正月休み明けから数日後の昼過ぎ、大学のカフェテリアの近くにある3人掛けの勉強スペースで藤堂と一緒にいた時のこと。
「おっ。」
黒藤さんがやってきた。
「?」
なんだかちょっと暗い様子だ。俺がとっていない科目で難易度最強レベルのレポート課題が出たのだろうか。
「どうしたの?」
試しに俺は聞いてみた。
「斎藤君…」
黒藤さんはこう続けた。
「これ見て…」
そういって黒藤さんはスマホを渡してきた。そこに出ていたのは、4月に放送が始まるアニメの番組ホームページだった。
「これあれじゃん!」
それもそのはず。そのアニメは俺が好きなアクションもののラノベが原作だからだ。アニメ化の話も当然知っている。
画面にはこんな文字が書いてあった。
「放送・配信情報」
ああ。黒藤さんが真っ先に見そうなページだ。
「で、それがどうしたの?」
「うん。」
黒藤さんは画面をスクロールする。
テレビ局の名前が3つ出てきた。夜のアニメではおなじみのTOKYO ○X、M○S毎○放送、それにBS○1だ。3局とも日時ももう決まっていて、○XとBSは金曜日の深夜0時と書いてある。
「関東と… 関西だけ…」
「うん。しかもね。」
そういって黒藤さんは「キャスト」のページを選択した。
そこには当然ながら、出演する声優さんの名前が書いてある。男女問わず、どれもアニメ、ゲーム、ラジオ、それに歌と大活躍な人たちがいっぱいだ。
「実はね。主演の声優さん…」
黒藤さんは主人公の声とオープニングテーマを担当する声優さんに触れる。
「その地元で放送されないの…!」
「そういうことか…」
その声優さんは九州の西の方出身。歌のCDの売り上げもレーベルではトップな程に大活躍している人だ。(CD売り上げのソースは彼女の相当なガチファンである高校時代の友達)
「しかも…」
黒藤さんはパソコンを出してきて、部活やサークルのかなんかのプレゼン等をやる目的で席に併設されている、ノートパソコンの画面の2倍くらいの大きさのモニターに接続する。
その後パソコンを立ち上げてデータを開く黒藤さん。
すると画面にはその主演をやる声優さんが今までに出演したアニメ・特撮作品がリストアップされた表が出てきた。
「すごいな…」
「これ全部、黒藤が作ったん?」
藤堂の問いに黒藤さんは
「うん」
と一言答える。
表のトップの方にある「ネット局数」の隣にある「▼」をクリックし、「降順」を選ぶ黒藤さん。
するとリストが入れ替わった。一番上には、何年か前に放送されていた小さな女の子向けの変身ヒロインもののアニメが出てきた。タイトルから察するに俺も小さい頃姉ちゃんと一緒に見ていたやつの後続シリーズ作品だろう。「ネット局数」の欄には「27」と書いてある。
「こんなにいっぱい出てたんだなぁ…」
と俺は呟く。
すると黒藤さんは、「ネット局数」の欄の隣の欄を見せる。
それは「地元での放送」だ。表のトップ4~5作品には「○」と書いてはあるが、下にスクロールしていくともうほとんど「×」と書いてある。「○」のものは数えるほどしかない。
「分かった?」
幸太郎「うん。」
良哉「うん。やっぱり地元で放送されてるやつ少ないんだね。リストに出てたやつの中には俺も見てたやつあったけど、BSで見てたなぁ…」
「でしょ?」
と黒藤さんは返す。
そして画面は表のトップに戻った後、表の右の方を映し出す。
そこには同じ「備考」と書いてある欄が2つ連なっている。黒藤さんはそれぞれの「▼」をクリックして、左から順にこんな項目にチェックマークをつけた。
1つ目は「主演作」と「準主演」
2つ目は「主題歌」
すると、表の項目が一気に減った。リストの作品の中から、その声優さんが主演や準主演したもの及び主題歌を担当した作品が抽出されたのだ。
「それで…」
黒藤さんは表の左の方の「地元での放送」の欄をまた見せる。
それは…
「マジかよ…」
あまり声優さんで作品を選ばない俺でもそう言ってしまう光景。
抽出された作品の「地元での放送」欄に書かれていたものは全て「×」。つまり主演・ヒロイン・主題歌歌唱など作品内で重要なポジションを担っていた作品は、彼女の出身地では放送されていなかったのだ。
「この扱いって何なの…? その人の地元、民放4つもあるのに…」
黒藤さんは震えたような声でそう言った。
「しかもね…」
黒藤さんはさっき見たホームページのパソコン版をモニターに映し出す。内容はもちろん「キャスト」のページ。
「この人たちみんな…」
出演者のうち、主人公とその仲間、それにメインの悪役を演じる声優さん総勢8人が紹介されている部分を見せる。
「関東や関西以外の出身なの!」
俺は驚いた。
「ちょっと待って。」
そして俺はこう続ける。
「それってつまり、メインの声優さんの出身地全滅ってこと…だよね?」
黒藤さんは…
(無言で首を縦に振る)
首を縦に振った。
俺も藤堂も、何とも言えない表情だ。
「今はBSやネットがある時代とは言え…辛いな…」
と藤堂は呟く。
「おっと時間だ。」
藤堂は俺と黒藤さんが取っていない科目の講義へと向かって行った。流れで俺も黒藤さんも解散だ。
それから何時間か後のことだ。
俺だけが取っている講義が終わって写真部の部室へと行く最中、その部室が入っている棟の入口の側で、黒藤さんが電話をしているのが見えた。
「それです。」
などに丁寧な口調の言葉や、さっきのアニメのタイトルが聞こえてくる。
電話は俺が棟の入口に来たタイミングで終わった。
「斎藤君。」
「あのさ… ちょっと失礼かもしれないけど…」
俺はこう続ける。
「誰と… 電話してたの?」
彼女はこう返した。
「テレビ局の人。」
「えっ?」
「お昼過ぎにホームページを見せたアニメあるじゃん。あれ放送してもらえないかっていうお願いの電話してたの。声優さんの地元のテレビ局に。」
「マジかよ…」
俺は思った。「他地区のテレビ局に電話を入れるとか、黒藤さん本当にスゴいやつだな…」って。
そしてその次の日の午前中。
俺はそのアニメについて、テレビ○知とぎふ○ャンにも「放送してもらえませんか」という趣旨の電話を入れたのだった。
まあ私のTwitterをご覧になられている方なら分かると思いますが、私にも大好きな声優さんがおりまして。
その人が出演するアニメ作品の放送地域が少ないと、私はやっぱり落ち込みます…




