第26話「ガスステーション10時11時」
12月30日。今日の良哉は父・庄治の年末年始の買い出しの手伝い。その最中ガソリンスタンドで給油することになるのですが、良哉は庄治から、給油中に暇つぶしにとあることを勧められます。
「で、どうやった?朝の金華山は。」
と俺に聞いてきたのは運転席の父さん。今日は午前中、家の年越しそばやおせち料理の買い出しの手伝いだ。
「ああ。太陽が昇ってくる様子がバッチリ撮れたよ。」
スーパーやホームセンターを車でハシゴすること、次で4軒目。しかし…
「良哉ごめん。ガソリンが少のうなってきたでガソリンスタンド寄るよ。」
「あー分かった。」
この車のガソリンが残り少なくなってきたようで、ガソリンスタンドで給油することになった。思えば朝から車で東奔西走。ガソリンのヘリが早くなるのも当然か。
ガソリンスタンドに着くまでにそう時間はかからなかった。ガソリンスタンドは鳥羽川沿いにあって反対側には畑が広がっている。伊自良川と鳥羽川の合流点の向こうには岐阜大学の建物も見える。
だが年末ということもあってかガソリンスタンドは混んでいた。今3台待ちという状態だ。
「3台なら大丈夫そうやな。」
と父さんが呟く。
すると、父さんが続けてこんなことを言ってきた。
「そうだ。黒藤さんってたしか、お前の友達の車のラジオがどれだけの電波拾えるか試したことがあるんやったな。藤堂君やったよね?」
「うん…」
父さんはいきなり、「黒藤さんがショッピングモールの屋上駐車場で、藤堂の車のラジオがどれだけ多くの放送局の電波を拾えるかを試した」という時の話を出してきた。これもまた家に着いた後最初の食事で話したことだ。
「せっかくやでお前もやってみるか?助手席に座っとるわけやし。この車のラジオのアンテナも感度がええし側には畑がある。結構電波は入るんやないか?」
俺は父さんから、カーラジオがどれだけ多くの電波を拾えるか試してみないかと勧められた。簡単なことを言えば給油している間、あの日黒藤さんが藤堂の車でやったことと同じことを俺がするのだ。
「どうかな…?」
「せっかくなんだしやってみよまいか。黒藤さんにも教えたったらええ。この車にはカーラジオだけを動かせる機能もあるで、心配すんな。」
カーラジオだけは動かせる範囲で電源を落とせる機能もあるから、ガソリンスタンドの給油中のバッテリーに負担がかかる心配もないという。
せっかくだ。やってみることにした。
ガソリンスタンドはセルフサービスだ。
「お前は車の中でラジオいじっててええよ。」
と父さんに言われた俺は、アイドリング状態の車の中でカーナビの画面をいじりはじめた。
まずはAMラジオ。選局を初めて早々、「720kHz」の周波数で一つ電波が拾えた。その内容はぎふ○ャンと同じだ。
「これまさか『中継局』ってやつか?」と俺は思った。
スマホで検索してみたらやっぱりその通りだ。ぎふ○ャンラジオの高山中継局の電波だった。
「俺もいろいろ詳しくなってるな(汗)(苦笑)」と思っていた。黒藤さんのおかげなのだろうか。
その後N○Kの名古屋放送局に続けてTB○ラジオが1つ拾えた。後者についてはちょうど交通情報のコーナーで首都高などの名前が出てきていたから、なんだか東京に戻ったような変な気分になった。
さらに選局を進めていると、興味深いものがあった。それは数字が4桁に達した時のこと。
「ん?」
雑音交じりだが今まで聞いたことのない放送局が拾えた。数字は「1107」で止まっている。
俺はスマホで調べた。
「マジか…」
調べた結果、それはM○Oラジオ、北○放送という石川県のラジオ局だった。あの時黒藤さんと東京支社巡りで立ち寄った放送局の一つだ。
その後はその後長野や京都、福井、大阪、静岡のAMラジオがいくつか拾えた。
結果としては、東京のショッピングモールには及ばないがまずまずの数の放送局の電波が拾えた。
次はFMだ。これも黒藤さんに影響されて知ったことだが、FMの放送局は出力がAMより低いため、AMラジオに比べて中継局の数が多い。実際にこのカーラジオでも、F○ GIFUの中津川や郡上八幡の中継局が拾えた。
出力がAMより低いからだろうか、はたまた高いところじゃないからだろうか。拾えた岐阜県外のFMラジオ局は、愛知県と三重県、それに大阪と静岡のくらいだった。コミュニティーFMも岐阜市外のがかすかに拾えた程度。そのうち高山市と多治見市のそれぞれは周波数が近いから、混信してしまいあまりよく聞こえなかった。
俺のカーラジオでのラジオ局電波探しは、黒藤さんがやったのと比べてあっさりとしたものだった。それでも周りが広いからなのだろうか、それとも年末で会社が動いていないから飛んでいる電波が少ないからなのだろうか。そこそこ拾えた方ではあったと俺は思う。
給油作業を終えた父さんが戻ってくる。気がつけば時刻は11時を過ぎていた。
「どうやった?どれくらい電波拾えた?」
「うーん。AMは東京や大阪、あと北陸の方とかいろいろ拾えたんだけど、FMは期待外れってとこやったな。遠うて静岡ってとこ。」
「そうやったかー。もっと高いとこやったら、FMの電波もいっぱい拾えたかもな。」
「俺もそう思うな。」
「まあその結果、黒藤さんにも教えてあげんさい。黒藤さんならなにか分かるかもな。」
「うん。」
車は給油を終えてすっかり満タンだ。次の店へ向かう中で、俺は一連の結果をまとめたスマホ内のメモを黒藤さんのLINEに送った。FMの電波があまりよく入らなかった原因が何だと思うかを含めて。
それからしばらくして、7軒目の店での買い物を終えて家に帰る車の中。黒藤さんからの返信が入って来ていた。時間から察するに、その返信は7軒目の店での買い物の最中に入っていた。
「返信遅くなっちゃってごめん。やっぱり高くないところだったからじゃないかな?」
「でも斎藤君もやってみたんだ。楽しかった?」
「高いところじゃないから。」俺と父さんの予想通りだった。
楽しかったかどうか。たしかにどこのラジオ局が入るのか、ザッピングしている間はちょっと楽しかったしワクワクしたと思う。
俺はそのことを黒藤さんのLINEに返信した。
「あー父さん。さっき黒藤さんから返信あったんだけど、やっぱぎょうさん入らなんだのは高いとこじゃなかったでみたいだって黒藤さんが言っとった。」
「やっぱそうか。いつか高いところでやってみたいものやな(笑)」
「そうだな(苦笑)」
「その時は黒藤さんも一緒の方がええんやないか?父さんもその時は車出したるよ。(笑)」
「ははは(苦笑)」
さあ、帰ったら正月のレポート本格始動だ。午後も午後で忙しくなりそうだ。
私も以前父との買い物の最中にガソリンスタンドで給油した際に同じことをやったんですが、大阪のラジオ局がかすかに入ってテンションが上がった記憶があります。かれこれ中学時代のことです。




