第24話「お父さんお母さん!」
皆さんお待たせしました。お待たせし過ぎたかもしれません!
良哉帰省シリーズ第3章、今回は良哉がついに岐阜の実家に帰ってきます。しかし良哉の両親は2人とも紘深のことを知っているようで…
栄でモーニングセットを堪能し名古屋に戻ってきた俺。これからいよいよ東海道線に乗って岐阜に向かうところだ。
「まもなく、6番線に、新快速、大垣行きが到着します。黄色い点字ブロックの内側までお下がり下さい。この列車は6両編成です。この列車は、尾張一宮・岐阜・西岐阜―」
岐阜でも聞いた懐かしいチャイムと接近放送を聴きながら、俺は家で待つ母さんにもうすぐ名古屋駅を出るというメールを送っていた。
「よし。」
メールを送ったと同時に、見慣れた懐かしい車両の電車がホームに入ってくる。俺はそれに乗り込んだ。10時過ぎの岐阜方面ということもあって電車はさっきの地下鉄と違ってかなり空いている方だ。
懐かしい風景を見ながら俺はラジオを聴いていた。やはり新快速は速く、名古屋を出てからたった20分足らずで岐阜に着いた。その速さすら俺には懐かしい。
「6番線から、電車が発車します。ご注意ください。」
「やっと着いたー!」と思っていると、スマホが鳴った。
「斎藤君。そろそろ岐阜に着いた?」
黒藤さんからのLINEだ。
「うん。」
と返したのに続いて、俺はホームの表示板(駅名標)とホームの風景の写真を何枚か撮って、黒藤さんに送った。
「ここが岐阜なんだー!」
黒藤さんは嬉しそうだった。
母さんは中央北口の歩行者デッキで待っている。なんでもバスが途中で乗り降りする人が少なくほとんど止まらなかったようで、普段なら15分強かかるところを10分弱で着いてしまったという。
「こうしちゃいられねぇ。」と思いながら、俺は改札を出る。
歩行者デッキが見えたところに母さんはいた。俺はそこに向かっていく。
「母さん。ただいま。」
「良哉。おかえりなさい。送ってくれたお菓子うまかったわよ。あんたの分も残してあるで、家に着いたら食べてええよ。」
「ああ。それはよかった。」
「せっかくやで、駅の周り散歩してみる?」
「そうやな。実は俺行きたいとこあるんや。」
母さんと話しとる中で、俺のしゃべり方は完全に岐阜弁に戻ってしまっていた。
俺が行きたい場所。それはデッキを歩いて3分のとこにある高いビルだ。
「ここ?あんたの行きたい場所?なにかお店でもあるの?」
「お店ってわけやないんだけどね… このビルの3階。」
「3階はぎふ○ャンって聞いとるけど、そこなの?」
「ああ。」
俺が行きたい場所。それはこのビルの3階にあるテレビ局。ぎふ○ャンの本社だ。俺はそこでタイムテーブルをもらって、黒藤さんのお土産の一つにしようと思っている。
ビルの3階に着いた。母さんが後ろで珍しがっている中で、俺はそこでタイムテーブルを2つもらっていく。俺のここでの用事はこれで終わりだ。
「それにしても帰って早々テレビ局に行ってタイムテーブルを貰っていくって、なんだか不思議ね。」
「ああそれ?大学で出会った友達へのお土産に、局のタイムテーブルをあげたくて…」
「その友達って、まさか黒藤さんとかいう子?」
「母さん、黒藤さん知っとるの?」
驚いたことに母さんは黒藤さんを知っていたようだ。
「そうよ。市華があんたの誕生日祝いから帰ってきて、『良哉の友達に地方のテレビ局が好きな女の子がおった』って言っとったのよ。」
やはり姉ちゃん経由だった。
「それにしても地方のテレビ局が好きだなんて、ちょっと珍しい趣味を持った子ね。」
「よう言われるよそれ。」
「きっと岐阜のテレビの話もいっぱい知ってるのかもね。」
「それ、出会って早々そのことで盛り上がったよ。(苦笑)」
「やっぱ?(笑)」
ビルを出てバスを待つ間、母さんとの話は黒藤さんとの話題が続いた。
「黒藤さんのお家お寿司屋さんで、そこあんたも何度か行っとるんやろ?もし東京行く機会があったら行ってみよまいかしら。」
岐阜駅中央北口のバス停からバスに乗る。駅を出て15分ほどのバス停でバスを降り、そこからさらに歩いて10分くらいしたところに俺の実家がある。上京してから8か月。その途中に通り過ぎた本屋やコンビニにスーパー、それに小さい頃よく遊んだ公園と全てが懐かしい。俺が上京する頃にはまだ空き地だった土地にはマンションが立っている。
そして実家に着く。なんだか上京後自分が住むマンションの部屋の前まで来た時と近いような感じもする。
「ただいまー。」
「ただいまー。」
「あ!良哉帰って来た!」
姉ちゃんがこっちにくる足音が聞こえてきた。
「良哉おかえりー!」
「ただいま。姉ちゃんはしゃぎ過ぎやよ。しかも俺たち先月一回会っとるのに。」
「こっちが会いに行くのと良哉が帰ってくるのとは別の問題。」
姉ちゃんの様子はなんだか単身赴任の彼氏が久しぶりに戻ってきたかのような感じだった。
「まず、手洗いうがいをさせて…」
自分の部屋に荷物を置き、洗面所へ向かう。その途中に通りがかったリビングで父さんはテレビを見ていた。どうやら前日が仕事終わりだったようだ。
「おう、良哉おかえり!」
「ただいま。」
テレビに映っていたのはワイドショー番組。どこの局だろうかと気になりながら俺は洗面所へ向かい手洗いとうがいを済ませた。
部屋に戻って荷物の整理を終えた後は、ちょっと遅めの昼食の時間。
「うおお!」
4人で食べる久しぶりの食事。そのメニューはなんと寿司だった。しかも今日は近所の寿司屋から出前してくれた寿司だけでなく、家から車で10分ほどのところにある魚屋で買ったものもあった。それもあってか上京前最後の晩ご飯の時よりも豪華ただでさえネタの数が多いだけでなく、明らかに高級そうなものがいくつもある。
「あんたが帰ってくるちゅうで、お店の方も奮発してくれたみたい。」
「そうだそうだ。ぎょうさん食べな。」
「マジか…!ありがとう!」
俺からしたらすごいサプライズだった。
俺はテーブルの上に広がる豪華な寿司を写真に撮り、保存する。
「そうだ。黒藤さんにも送ろう。」と思った俺は、LINEを立ち上げ寿司の写真を送る。
「『昼飯はお寿司だったよ。見てよこのクオリティ!』…と。」
「良哉。もしかして東京でできた友達に写真送ったの?」
「ああ。」
「やっぱそうか。まさかその人って黒藤さんとかいう子?市華から聞いとるよ。」
「ああ… 分かってまった?(苦笑)」
「そうやよ!だってお前、黒藤さんとよう遊びに行ったりとかしたんやろ? 市華も行った誕生日パーティーでも一緒やったやん。」
「みんな姉ちゃんから話聞いてたんだ…」
黒藤さんのことは今や家族みんなが知っていることだった。なんだか恥ずかしい気持ちもする中で食事は続く。話題はもちろん俺と黒藤さんのことだ。出会って早々岐阜のテレビ事情についていろいろ話したこと、アンテナショップ巡りや東京支社巡りをした時のこと、誕生日パーティーのこと、北条さんや藤堂とも一緒に遊園地に行ったこと…
「そうよ!だってお前、一緒に銀座行って東京支社巡りのデートまでしとったんやろ?」
「うん。まあでも別に彼女ってわけやないんだけど…」
「でもお前、こんなに豪華なお寿司を見て写真撮って送るやなんて、『何か嬉しいことがあったらすぐにそれを教える』っちゅうことは、黒藤さんはもうお前の彼女ってことやよ。」
「そうかな…?(苦笑)」
「そうだよ。そろそろ返信来とるやろうで、LINE見てみ!」
父さんに言われるがままに俺はスマホを開く。見ると黒藤さんからのLINEの返信が来ていた。時間は今から15分ほど前で、俺がお寿司の写真を送った数分後くらいだった。
「わあすごい!これみんな斎藤君がそっちにいた頃出前してもらったお店の?」
「うん。あとはこっちにある魚屋で買ってきていたやつもあるよ。」
「そうなんだ。とっても美味しそう!同じ寿司屋として負けられない!」
会話を一通り終えた俺は、スマホを閉じて食事に戻る。
「どうやった。黒藤さんなんて言っとった?」
父さんは楽しそうな感じで聞いてきた。
「ああ。『とっても美味しそう!同じ寿司屋として負けられない!』って言っとったよ。」
「そうかそうか。黒藤さんの家お寿司屋さんだからな。お前、いい彼女持ったな!」
「そう?あ、ありがとう…(苦笑)」
「お前に彼女が出来て嬉しいよ!ほら、これあげる!」
「私からも、ほら。」
「私もー!」
そう言われるがままに、俺は3人からウニや大トロの鉄火巻きやら子持ち昆布やら高級なネタを5貫ももらった。これを全部瑞寿司で食べるなら単品でも2,000円はくらいは必要なほどだ。
完全に、栄でモーニングセットを堪能した話をする余地はなくなっていた。
「こんなに貰っちゃった…」
3人のノリに、俺は黒藤さんの父さんに似たものを感じた。
「今日は良哉に彼女ができたお祝いでもあるな!でかしたぞ市華!」
「えへへ。」
「そうね。今思えば、市華と一緒に東京であんたの誕生日お祝いすればよかったわね。」
「なんとも言えねえよ…」
「父さんも母さんも、俺が東京で楽しく過ごせていることに安心している様子だしまあいいか。」恥ずかしい気持ちになりながらも、俺はそう思っていた。この様子、食事終わったら黒藤さんにも教えてあげようかな。
-今回初登場のキャラクター-
斎藤庄治
良哉と市華の父親。豪放で細かいことは気にしない性格でノリがいい。40代中盤。
あおなみ線沿線某所のスポーツジムで働いている。
誕生日は7月30日。
趣味はツーリング。
好きな食べ物はステーキとシーフードカレー。
斎藤未緒
良哉と市華の母親。温厚な性格だがノリのよさは庄治と一緒。庄治とは1歳年下。
誕生日は10月2日。
趣味は裁縫。
好きな食べ物はツナサンド。
2人とも岐阜生まれ岐阜育ちだが、出会いは三重県の大学。




