第195話「過去を語ってみたら2」
(幸太郎の部屋のドアを叩く音)
幸太郎「ん?誰ー?」
良哉「ああ。俺だけど。」
幸太郎「どうした急に?珍しい。」
良哉「ちょっとお前と話したくて。」
幸太郎「ああじゃあ入っていいよ。」
良哉「じゃあ失礼。」
俺は藤堂の部屋に入った。藤堂は部屋で一人ラジオを聴いていた。前に俺も一緒に見に行っていた、ラジオの電波が拾えるスマホを使っている。
良哉「藤堂ラジオ聴いているのか。」
幸太郎「ああ(笑)やっぱり黒藤の影響からか、地方行ったらラジオ聴いてみたい感じがあってね。」
良哉「そうなんだ(笑)」
幸太郎「うん。前に岩手で聞いたあれは面白かったなあ。」
良哉「岩手っていうともしかして、ラジオやテレビの放送技術について扱ってる番組?」
幸太郎「そうそう!あれ放送の裏側が知れるから珍しい番組な上に面白いんだよね。お前それ黒藤に布教されて知ったやつ?」
良哉「当たり(苦笑)」
岩手で放送されている放送技術についての番組の話題が出た。すると藤堂はこう言い出した。
幸太郎「(笑)やっぱりなんかやっぱりお前、黒藤や地方の番組について話してる時が一番楽しそうな感じがするよ。」
良哉「え… あ… そ… そう…?」
幸太郎「そうだよそうだよ。俺が言うのも変かもしれないけど、なんか輝いてる感じする。」
良哉「そ… そんなに?」
俺は突然藤堂から、「黒藤さんの話をしている時が輝いている感じがする」と言われてびっくりした。
良哉「でも今、俺と黒藤さんケンカ中だよ。まだ状況ははっきりと解決していないのに。」
幸太郎「まあそれは分かる。でもまあ、お前としてはこの状況をどうにかしたいと思ってるんだろ?」
良哉「それはそうだが…」
藤堂から言われた通り、「黒藤さんとのケンカが(明確に)解決していない今のこの状況をどうにかしたい」これが今の俺の本題だ。
幸太郎「まあとりあえず、黒藤の話でもする?」
良哉「え?この流れで?」
幸太郎「ああ。あくまで俺個人の考えかもしれないけど、2人で黒藤の話しておいた方がお前の中での黒藤の見方が軟化するんじゃないかと思ってね。なんか今のお前見てると、あれだけ仲良かった黒藤の見方が硬化している。そんな感じがするんだよ。」
良哉「態度というか見方が硬化ね… 言われてみればケンカしたしばらくはそうだったかもしれない… 今もなんだか気まずい感じがしてさ。」
幸太郎「じゃあなおさらそうした方がいいよ。ぶっちゃけ俺、黒藤のことで気になっていることがあってさ。」
良哉「え?お前も黒藤さんのこと気になってるの?」
幸太郎「いやそういう意味じゃなくてね。俺が中2の頃の黒藤の話。」
良哉「ああなんかクラス違かった年?」
幸太郎「そうそのこと。」
この流れで、黒藤さんの過去のことについての話が始まった。
幸太郎「なんか斎藤さ、黒藤の中3からの友達のとこに黒藤と行ったんだって?」
良哉「ああ明智さんのとこ?山口か。行ったよ。」
幸太郎「そうそう明智。あいつ山口にいるんだ今。」
良哉「お前明智さんのこと知ってるの?」
幸太郎「ああ。中3の時クラスが一緒でね。黒藤とも一緒だったんだけど。2人めっちゃ仲良さそうだったのは覚えてる。」
良哉「そうか。実はさその明智さんなんだけどね…」
幸太郎「なに?」
良哉「実は明智さんね、2年の合唱コンクールの後他の…いやクラスの他の人からいじめられるようになって、黒藤さんが明智さんを助けたって話を聞いたんだよ。」
幸太郎「マジかそんなこと起きてたの?」
良哉「うん。藤堂なんか知ってることある?」
幸太郎「まあそれと関係あるのかどうかは分からないけど、心当たりはある。」
良哉「どんな話?」
幸太郎「確かにその2年の合唱コンの少し後だったか、部活終わりにたまたま黒藤が保健室から出てくるのを窓越しに見たなあ。なんかちょっと不自然な格好だった。」
良哉「不自然ってどんな格好?」
幸太郎「上が制服なんだけど下はジャージだった。」
良哉「あっ…」
幸太郎「どうした斎藤?」
良哉「いや… なんでもない。話を続けて。」
幸太郎「分かった。それでそのさらに少し後に黒藤の家の店のドアに学校の先生たち全員出禁にするっていう注意書き貼ってあったのを見たなあ。」
良哉「マジか… 学校の先生をお店出禁にするまでしてたの?」
幸太郎「ああ… まあ俺も黒藤のクラスでなんか起きてるっぽいのと、先生たちが情報操作してたっぽい雰囲気は薄々感じてたが、あれいじめだったんだ…」
良哉「そうそう。」
幸太郎「まあ俺のクラスも2年の合唱コンではいろいろあってね、あの後クラスの雰囲気が悪くなったんだよ。そもそも学年全体で、ふざけてというか気を抜いてなかなか歌わない奴がいたりとか、音楽の先生が今思うと滅茶苦茶な完璧主義者だったからなのか『声が小さい』だの『小節をきかせて歌うんじゃない』とか怒ってやり直しさせて学年練習が長引いたりとかあって、みんなイライラしてたんだよ。明智が黒藤のクラスのパートリーダーだったのは俺も知ってたから大変そうだったのは薄々感じてた。」
良哉「そうだったんだ… 大変だったね…。」
幸太郎「俺も結構イラついてたよ。少なくともあの先生には。」
良哉「ああ…。」
幸太郎「そもそも俺のいた中学、2年の時はなおさらクセのあるというか、真面目に生徒に向き合ってないだろって感じの先生が多くてね学校全体通して。」
良哉「先生というそもそもの問題だったって訳ね…」
幸太郎「ああ。特に2年の時の黒藤のクラスの担任はクッソ評判悪かったって聞いてる。」
良哉「そうだったんだ… こりゃ明智さんがされたいじめがなかなか治まらなかったのも納得だ。」
幸太郎「うん。『東川』って言うんだけどこれまた滅茶苦茶な事なかれ主義だったからか、何かあっても生徒の言い分を聞かないで自分だけで物事進めるとかね。枚挙に暇がないとはこのことだよホント。春に2年のクラスの担任発表された時に『うわ秋山めっちゃかわいそう』って感じたよ。」
良哉「ちょっと待って。秋山って誰?」
幸太郎「ああ。1年でクラス一緒だった男子。今でもよく会うんだ。」
良哉「なるほど。こりゃ秋山さん然り黒藤さん然り明智さん然りかわいそう。」
幸太郎「だな。実際東川が(担任)受け持ったクラスはとにかくトラブルが絶えなかったって聞いてる。」
良哉「ああ。明智さんが受けたいじめは起こるべくして起こったんだなって言えるよ。ふと思ったんだけど、そのお前や黒藤さんが(中学)2年の頃の合唱コンクールで賞取ったクラスってどこだった?」
幸太郎「ああ。どこかは覚えてないけど、最優秀賞は3年のクラスで、2年の学年賞は少なくとも俺や黒藤明智がいたクラスではなかったな。」
良哉「なるほど。多分賞取れなかったのを明智さんのせいにされていじめが起こった可能性も0じゃなさそうだ。」
幸太郎「その通りだよホント。それはそうとちなみにその東川なんだが、もう死んだぜ。」
良哉「えマジで?どこで聞いたその話?」
幸太郎「成人式で聞いた。なんでも成人式の少し前にバイクで事故って死んだんだと。」
良哉「マジか…」
幸太郎「うん。1年の時の体育の先生から聞いた。その後黒藤と明智が近くで別の先生と話してたところに通りがかったんだけど、その話を聞いた瞬間を目撃してね。」
良哉「藤堂お前奇跡じゃん。結構有名な話だったっぽいね。」
幸太郎「悪名は無名に勝るとはこのことだよ。2人ねその話が出た時、なんかニヤッとした顔してたのが見えた。今の感覚で言うならスパ○ファミ○ーの○ーニャみたいな顔って言えば分かるかな?」
良哉「そんな顔してたの?悪意あるわー2人とも(苦笑)」
幸太郎「しょうがないよ(苦笑)ある意味嫌な思い出の元凶なんだから。」
良哉「そうだな(苦笑)」
幸太郎「実際黒藤、2年の頃学校にいた先生からはまあまあ嫌われていたみたい。そこはなんとなく把握してる。成人式に来てくれた(当時)2年を受け持っていた先生のうちの1人が、黒藤の話題が出た時明らかに嫌な顔していたのを見たもん実際。」
良哉「まあそりゃそうだよなぁ… 家の店出禁にまでされたんだから。」
幸太郎「うん。」
藤堂はさらにこう続ける。
幸太郎「あと3年の頃に、2年に関わってた先生のほとんどが別の学校に異動になったんだよ。今になって思えば、黒藤が明智のことで無双したことで、そのいじめの責任を取らされたのかなって思うよ。」
良哉「あり得なくはないかもそれ。」
幸太郎「だな。実際合唱コンからしばらく経ったある日、放課後用があって職員室に行ったんだけど、その時教育委員会の人が職員室にいるのを見たよ。校長先生や教頭先生が普段の雰囲気からは思えないくらいめっちゃ頭下げてたもん。俺も『何このめっちゃ重い空気!?』って一瞬で感じた。」
~当時の幸太郎の回想~
幸太郎「あの… この人たちは誰なんですか?」
男性教師A「ああ…。教育委員会の人だよ。」
~回想終わり~
良哉「ねえ、もしかしてそれ…」
幸太郎「ああ。黒藤がそれを教育委員会にまで持ち込んだってことだろ?俺もその辺は分からないままだけど可能性は十分にあるね。」
良哉「仮にそれがホントなら黒藤さん凄いよ。」
ひょんなことから藤堂と、黒藤さんが中2の時の話を共有したこの時間。4年前に藤堂と初めて話した時、彼は中2の頃の黒藤さんについて「中2はクラス違かったからよく分からない」と言っていたような覚えがあるが、よく分からないという認識ではありつつもそれなりに知っていることはあったのかと感じた。
まあそんなことは抜きにして、少なくとも黒藤さんの正義感という一面を感じ取ることのできた時間であったと思う。黒藤さんの過去に関する話をして、自分の中の黒藤さんに対する見方というか態度が軟化したのは確かに感じている。
良哉「まあ何か話をしてて、黒藤さんの意外な一面を感じることはできたと思う。」
幸太郎「そうかそうか(笑)まあ、これから先どうするかはお前次第だし、それもお前に全部委ねるよ。」
良哉「ああ。ありがとう。藤堂。この後じっくり考えることにするよ。」
俺は藤堂の部屋を後にし、自分の部屋に戻った。
時刻は、夜8時に近づいている。
-新しい設定付き登場人物-
東川
紘深たちが中2の頃の担任教師。男性。
結構な事なかれ主義であるため何かあっても生徒の言い分を聞かず自分の認識だけで物事を解決しようとする面が強く、それもあってさくらに対するいじめを招いた。
また生徒に対する好き嫌いも激しい性格だったのもあって、これまで担任や教科を受け持ってきた生徒やその親からの評判は滅茶苦茶悪かった。
紘深たちが3年に進級すると同時に別の学校に異動になった。明確な理由は明かされていないものの、さくらの件を知る人たちからはさくらが受けたいじめの責任を取らされて異動になったと認識されていた。
3年前、成人式の少し前の大晦日の外出中にバイクが転倒する事故に見舞われ死亡。享年51。