第179話「最後の文化祭(展示編)」
文化祭2日目。今日は写真部の展示室の仕事だ。今日も昨日と同様に10時から17時までの文化祭。俺も黒藤さんも、シフトがある時間とない時間は半分半分というところだ。
鍋島「それじゃあ皆さん、文化祭2日目頑張っていきましょう!」
展示室の部員たち「はい!」
なんだかスポーツの重要な試合が始まるかのような空気を俺は感じていた。
「それにしても藤堂、今の昨日もやってたの?」
「ああ。なんかサッカーとか野球とかの日本代表の試合が始まる前みたいな空気を俺は感じていたよ。」
「マジか俺もそう思ってたよ。」
10時になって何分かが経ち、写真部の展示室にも次々人が入ってくる。10時半頃にもなると10人以上の人が入っている状態にまでなった。カメラを展示しているブースには、カメラマニアらしき人が展示されているカメラを吟味するように見ている。自分のカメラが吟味されるように見ている人も複数いて、なんだか自分のカメラが品評されているかのような緊張感も時折感じていた。
今川「おい。おい。」
すると、今川が俺に話しかけてきた。
良哉「どうしたんだよ今川?なんか良さげな女子でも見かけたの?」
今川「ちげーよ。これだよこれ。」
そう言って今川が見せてきたのは、来場者アンケートの記録だった。
今川「なんか16番の写真に凄く感想が来てるんだよ。」
良哉「16番って北条さんの写真じゃん。」
今川「そうなんだよ。見てみろよ。」
俺は今川に言われるがまま、アンケート記録が表示されたタブレット端末を見せてくる。アンケートの内容は「印象に残った写真の番号と、可能ならその理由を記入してください」というものだ。
書いてある内容を見る俺。
「16 タイトルがとても面白かった」
「16番 知っているネタで親しみを感じた」
「16 題名で笑ってしまった」
「16 タイトルにクスッとしてしまった」
「16 タイトルが狙っていると感じた」
などといった具合だ。北条さんの写真のタイトルについての感想が、ぱっと見60件くらい寄せられていた。まあ写真に対する感想が全くなかった訳ではなかったのだが。(ちなみに10件くらいあった)
良哉「ほとんど写真の題名に対する意見じゃん。」
今川「『カラダが草津の歴史になる』でしょ?完全に狙いにかかってるよなwww」
良哉「ああ。ネットでもマネしている人いっぱいいたし、あれバレーボールのCMにも使われてたしな。」
今川「それだからネタ知ってる人めっちゃいたんじゃないか?www」
良哉「後で北条さんに教えてあげよ。」
今川「どんな反応するんだろうなw まあでも実際昨日北条のやつ写真見た女子高生に話しかけられて、『タイトルがめっちゃツボりました』とか言われて笑ってたぜwww」
良哉「マジでかwww」
時間が経って時刻は11時半過ぎ。
竹中「斎藤。お前休憩入ってきていいよ。」
良哉「了解。じゃあ俺ちょっと飯食ってくるわ。」
俺は外に昼食を探しに行った。昨日焼きそばとたこ焼き、それに黒藤さんから貰ったサンドイッチを食べた俺。昨日食べなかったものにしたいと思っていた。
(これにするか。)
俺は塩焼きそばを買った。理由は簡単。手軽に食べられそうなのと、たまたま行列が短めだったからだ。
塩焼きそばを展示室近くの休憩スペースで食べる俺。時折写真を印刷したポストカードの収入を数えるので座る時間があるとはいえ、立っていると腹が減る。俺の買った塩焼きそばの量は昨日の焼きそばと比べて多めだったが、いまいち物足りない感じもする。
塩焼きそばを食べ終えた頃には、時間は昼の12時を過ぎていた。展示室に戻る俺。
良哉「ただいまー。」
お昼時というのに、展示室は賑わいを見せている。カメラの展示の方も、子どもがカメラを見て「これなに?」っていう反応を見せている一幕もあった。
男の子「デ○ケ○ドが持ってるっぽいカメラはないね。」
ポストカードの販売対応も時折やりながら、アンケートのQRコードの紙を見せてあげたりとかいろいろする俺。俺が戻ってきてからさらに時間は経って時間は午後1時半過ぎ。メイン広場はそろそろ午後のヒーローショーの時間だ。
すると、北条さんが展示室にやってきた。そういえば北条さんは昨日が展示室のメイン当番だったっけ。
「斎藤さん斎藤さん!私の写真とても評判でした!」
「ああ。今川にアンケート見せてもらったよ。まあでも言っちゃうと写真本体ってよりかはそのタイトルの方が評判というか反響大きかったけどね…(苦笑)」
「それ言わないで下さいよ~。」
そこで俺はふと思った。会議でみんながどんな写真を出すかは把握しているが、それらの写真が額縁に入った状態のものはまだ見ていないということに。
せっかく展示室にいるのだから、見てみることにした。
順々に見ていく。俺のは合宿からは選ばず、9月の終わりあたりの時期に原宿の会社に面接をしに行った時、ついでに立ち寄った明治神宮の参道から見た空の写真を出品した。タイトルは「明暗・参道の空」だ。
黒藤さんの出品した写真は海の写真。8月の終わり頃、海水浴シーズンが終わった後の時期に行った千葉の方の海だと彼女は言っていた。
藤堂の出品した写真は通天閣の写真だ。9月、彼が内定を決めた際に親からお祝い金が出たようで、それを使って1泊2日で行ったという。藤堂が大阪旅行をしたことは彼が写真部のみんなにお土産を配っていたから部員みんなが知っていることだから、黒藤さんは羨ましがっていたのを覚えている。しかも藤堂は奇しくもアレの当日夜に大阪にいたというのだから、あの特番を見たかったとか言ってたっけ。
~回想・お土産を配った日~
紘深「―で藤堂君、大阪にはいつ行ってたの?」
幸太郎「14日~15日。いやあアレがあったから大阪夜以降凄かったよ。」
紘深「マジで!?てことはアレの特番見た?」
幸太郎「まあ少しね。」
紘深「え~私も見たかったー!羨ましいー!」
~回想終わり~
時刻は午後3時。ここで俺と黒藤さんは一旦休憩の時間だ。
すると、藤堂が俺たちのところにやってきた。そういえば藤堂もこの時間休憩だっけ。
「なあ斎藤に黒藤。お前ら昨日ここ行った?」
「なに?」
そう言うと藤堂は1枚のチラシを見せてきた。それは恋愛相談のチラシだった。相性診断も受け付けているという。
「行こうよ斎藤君!」
黒藤さんは凄い乗り気だ。黒藤さんと俺が恋愛相談や相性診断をしようものなら、そのオチは確実だ。
「藤堂また俺たちをイジろうとしているな… まあでも黒藤さんは乗り気なんだし、行ってみるか。」
「うん!行こう行こう!私たちまだこういう相性診断とか受けたことなかったし!」
「まあそうだな。行くか。」
「やったあ!」
黒藤さんと一緒に恋愛相談を行っている教室に行く俺。文化祭終了まであとおよそ2時間だからか何人かしか並んでいなかったが、12時頃にはかなり長い行列ができていたと藤堂は言っていた。
俺たちの番になる。
相談員「こんにちは。どういったご相談でしょうか?」
紘深「はい。私たち2人の相性を診断して欲しくて。」
相談員「分かりました。ではそれにあたって、これからする私からの質問に答えて頂きます。」
良哉「分かりました。」
相談員「ではまず最初に、お2人の前にある紙に名前を書いて下さい。」
良哉・紘深「はい。」
俺たちは相談員の人に言われるがまま、テーブルの上に置いてある紙に名前を書いた。名前の画数で相性を診断するやつなのだろう。
良哉「書けました。」
紘深「書けました。」
相談員「では診断しますので、しばらくお待ちください。」
1分後。
相談員「相性は良いと言えます。しかし今まで黒藤さんの方から斎藤さんに働きかけ、つまりお誘いをすることがとても多かったから、斎藤さんからの積極的な働き掛け…まあお誘いがあると、上手く行くと思います。」
紘深「そうなんですか…(苦笑)いやもうホントにその通りでしかなくて…」
良哉「確かに… 俺たち今までいろんなところに出かけたことがあるんですが、俺から誘ったことは2回くらいしかなかったですね…(苦笑)」
相談員「そうなんですか?」
紘深「はい。泊まりがけでも何度も行ったことがあって。今年2月に滋賀に行きました。」
良哉「その滋賀は俺の発案でした。まあでも泊まりがけの旅行も黒藤さんが誘ってきてプランというか旅程も黒藤さんが立てたことが多かったですね…(苦笑)」
相談員「そうだったんですか!泊まりがけでの旅行に何度も出かけてるなら、関係はかなり育まれていると考えることができます。でもやっぱり、斎藤さんの方からも積極的な働き掛けなりお誘いがあれば、お2人の関係性はさらに発展が見込めると思います!」
良哉「わ、分かりました…」
それからは名前の画数の関係性などの説明をしばらく受け、診断が終わった俺は教室を後にした。
その教室の近くの階段では藤堂が待っていた。診断の結果が気になってわざわざ来たのだという。
幸太郎「で、どうだった?」
紘深「『相性は良いと言えます。』って言われちゃった!」
幸太郎「そりゃそうだよなあ(笑)だってお前ら2人でどこか出かけたり、泊まりがけの旅行したことも複数あったしなあ!」
紘深「うん!でも斎藤君からの積極的な働き掛け…お誘いがあると、2人の関係性はさらに発展が見込めるって言われちゃった。」
良哉「いや耳が痛かったよ…(苦笑)」
幸太郎「見抜かれていたってやつか?お前ももっと積極的になれよ!俺前に言ったじゃん。『もし悩みとかあったら俺に話しな』って。」
良哉「あ、ああ。」
俺は返す言葉が見当たらなかった。
恋愛相談から戻って来た俺たち。時刻は4時を過ぎていた。どんな気持ちでこの後のシフトをこなせばいいか、俺には分からない。
それからしばらくすると、
兎愛「紘深さん。紘深さん。」
紘深「兎愛ちゃんなーに?」
兎愛「呼ばれてますよー。なんか亘理君が『このぬいぐるみについて詳しい部員がいる』って。」
紘深「分かった。今行く。」
黒藤さんが置いたポ○っ○○んのぬいぐるみのところに女子高生の2人組がいた。彼女はその2人組の女子高生のところに行き、ポ○っ○○んが何なのかについて説明していた。いやむしろ「説明していた」というより、「深く語っていた」と言っていレベルであるだろう。
女子高生B「ポ○っ○○ん思い出した!私おじいちゃんが群馬にいるんですが、そこのテレビで見たことがあります!」
紘深「そうだったんですか!?」
女子高生B「はい!」
女子高生A「面白いこと知ってるんですね。」
紘深「面白いっていうか、珍しいこと知ってるねって言われたことあります(笑)」
そして時間は経ち、夕方の5時を迎えた。文化祭終わりの時間だ。それとともに展示室の撤収作業が始まる。黒藤さんはポ○っ○○んのぬいぐるみを大事そうにバッグにしまう。その撤収作業は夜7時過ぎまで続いた。
紘深「ポ○っ○○ん、すっごく人気だったみたい!」
こうして正真正銘、俺たち最後の文化祭が幕を閉じた。
鍋島「来週の新しい部長を決める会議を以て、俺たち4年生は引退です。一気に8人が抜けて人数が大幅に減ることになるけど、春になったら新しい部員を集めて新しい風を入れること。じゃあ、皆さんお疲れ様でした!」
部員一同「お疲れ様でした!」
帰ろうとする俺たち。時刻は夜の7時半を過ぎている。3人で帰ろうとするとするとそこへ、藤堂がやってきた。
幸太郎「なあ斎藤に黒藤、新しい部長決まったらさ、俺たちで文化祭の打ち上げ兼俺たち3人の写真部引退記念パーティーやろうぜ。」
良哉「いいね。場所はどこにする?」
幸太郎「黒藤の家でだよ!」
紘深「いいの!?」
幸太郎「ああ。せっかく家が店やってるんだしさ。てか斎藤前にお前黒藤の家で2人だけで打ち上げしたじゃん。」
紘深「ああやったね2年の時。」
幸太郎「それもあるから今年は俺たちでやろってこと!
兎愛「いいですね!私も参加していいですか?」
幸太郎「もちろん!予約は俺がしておくからさ。」
良哉「予約もしてくれるの?マジありがとう藤堂。」
こうして、瑞寿司での文化祭の打ち上げ兼俺たちの写真部引退記念パーティーをやることが決まったのだった。
このメンバーでいられるのもあと半年くらいかという思いがふと浮かびはしたが、最後の文化祭を楽しめたことが、俺は何よりも一番嬉しい。