第177話「最後の文化祭(準備編)」
11月になった。面接に次ぐ面接を受けてしばらくが経ち、あっという間に文化祭のシーズンだ。4年生の下半期ということで大学の教室棟や部活棟に足を運ぶ機会も大幅に減ったから、いよいよ文化祭の時期かということを把握したのは、鍋島からその話をされた時だ。
鍋島「―という訳で、今年の部の展示では去年同様に写真展示と皆さんが普段使っているカメラの展示を行います。それでいい方は拍手をお願いします。」
(部員たちの拍手)
今年の写真部ではいつものように写真の展示に加え、普段使っているカメラも展示するというイベントが開催されることとなった。
その話し合いを終えた後の事。
「斎藤君。」
「黒藤さん。」
黒藤さんが俺に話しかけてきた。そんな彼女は今、彼女が幼稚園の頃夢中だった変身ヒロインアニメの続編的なやつに夢中だ。主人公たちが大人に成長した物語を描いているという。
「斎藤君もあのカメラ展示するんでしょ?」
「ああ。あの一眼レフ使うのしばらくぶりだなぁ…」
俺も一眼レフカメラを使ってはいるが、最近使ったのは夏合宿の時で、部活の時以外では家含めて全く使っていないという状態だ。あんな高価なものを部活以外の場で使うなんて、俺からするといささか抵抗がある。
迎えた展示準備の日。俺は一眼レフカメラを持ってきた。写真部では普段の活動ではカメラを使っている人と普段使いのスマホを使っている人が大体半々といった具合だ。俺が小学生の頃好きだった通りすがりのヒーローが使っているようなカメラを使っている人はいなかった。
「鍋島?」
「何?斎藤?」
「何この模造紙は?」
「ああこれ?合宿で行った場所についてまとめた発表資料。」
「いつの間にこんなのが。」
「まあ斎藤就活やら卒論やらで忙しかったもんな。」
「ああ… 全くこういうの参加できてなかったなぁ…」
先日の夏合宿で行った場所についてまとめた発表資料が書かれた模造紙が教室に掲示される。俺としては、草津温泉の「鬼の相撲場碑」の写真のところに小さくデザインされていたカラオケマイクと太鼓のイラストが気になった。北条さんが書いたやつだろう。あと岩宿遺跡を説明する文章の中の「我が推しも子どもの頃に訪れていたのでしょうか。」という一文は亘理によるものだろう。
(そういやあのスクラップブック今どうなってるんだろうなあ…)
展示準備が始まる。カメラを展示スペースに置く俺たち。「展示物に手を触れないでください」というラミネート処理された紙もちゃんと置く。向こうでは展示する写真を設置する作業も行われている。
(笑いを堪える部員数名)
笑いを堪えている部員数名。その部員たちが見ていたのが北条さんの選んだ写真だったことは言うまでもない。
~回想・文化祭の展示に出す写真を決める時~
鍋島「北条さんはこの写真だけど、タイトルは?」
兎愛「はい。『カラダが草津の歴史になる』です。」
(笑いを堪える複数の部員)
~回想終わり~
牧野「ほぼパクりじゃねえかよくそのタイトルで通したな部長…w」
新納「確かに合宿行ったの夏だったけどさぁ…w」
牧野「あれ確かバレーボールのCMにも使われてたよな?」
俺はカメラを展示する作業の作業場に戻る。作業をすること30分ほどで部員が集まり、展示するカメラが全部揃った。
すると…
「あの、部長。」
「何?黒藤さん?」
「これ、当日ブースに置いてもいいですか?」
「なにこれ?ぬいぐるみ?」
黒藤さんはぬいぐるみを持ってきていた。群○テレビのキャラクターのぬいぐるみだ。
「何のぬいぐるみそれ?俺は初めて見るやつだな。体に『ポ○っ○○ん』って書いてあるけど、それがぬいぐるみの名前?」
「はい。群○テレビのキャラクターなんです。」
「そうなんだ。それを展示したいの?黒藤さん去年長野のテレビ局のキャラクターのイラスト貼ってたけど、それに似たような感じ?」
「はい!ホントにそんな感じで。今回を見越してネットで買ったんです。」
「これわざわざ買ったの?」
「はい!」
黒藤さんはこの展示のためにポ○っ○○んのぬいぐるみを買ったという。群○テレビのホームページを見てみたところ、ポ○っ○○んのぬいぐるみがオンラインショップで売られていることが分かった。注文から発送まで1~2週間はかかるようで、いつ家に着いたかは分からないが逆算して買ったことが窺える。
「まあ群馬に関係あるやつならいいかな。」
「本当ですか!?ありがとうございます!実は、こんなのも用意してきたんです。」
「何?」
鍋島が黒藤さんにそう聞くと、黒藤さんは一枚のラミネート処理された紙を出してきた。吹き出しっぽい形をしている。
「なになに?―」
その紙に書かれている内容を見る鍋島。俺も内容が気になったので、鍋島のところに行くことにした。
「おう。斎藤どうしたん?」
「いやあ黒藤さんが何書いてきたのかが気になって。黒藤さん、俺も見ていい?」
「いいよ。」
黒藤さんが鍋島に見せた紙を見せてもらう俺。
「『ポ○っ○○ん』群馬県のテレビ局『群○テレビ』のマスコットキャラクターで…」
その吹き出しっぽい形をしたラミネート処理された紙に書いてあったのは、ポ○っ○○んを簡単に説明した紙だった。
良哉「キャラクターを説明する紙まで持ってきたのか。」
紘深「うん。わざわざぬいぐるみ置くならそれくらいの説明はあった方がいいかなって思って。これでも結構言葉絞った方だよ。」
良哉「まあまあ文章量あるけどね…(苦笑)」
そういうと黒藤さんはポ○っ○○んのぬいぐるみを設置してあるところに、まるでポ○っ○○んがしゃべっているかのようにそのラミネート処理された紙を壁にマスキングテープで貼り付けた。
それからしばらくが経ち、写真部の展示スペースが完成した。
鍋島「みんなお疲れ。じゃあ明日から2日間頑張って行こう!」
部員たち「はい!」
解散する部員たち。すると黒藤さんが俺のところに歩み寄ってきた。
「ねえ斎藤君。」
「黒藤さん。」
「群○テレビはね、実は関東で一番最初の独立局なんだ。」
「へー。いつ開局したの?」
「1971年。4月の中旬でね、その少し後にチ○テ○が開局したんだ。」
その後もしばらく黒藤さんは、群○テレビについていろいろ語るのだった。
さあ、明日から文化祭だ。
<作者より>
実はこの話の執筆中、群馬テレビの労働組合の件のニュースが流れました。
確かに少し前に群馬テレビの夜のニュース番組の放送時間が突然30分になるということがあって私も「一体どうしたんだろう」と思っていたのですが、こんな背景があったのかと驚きに似たものを感じました。
群馬県内の一部の市長からも苦言を呈する声が上がっているこの騒動。一体どうなっちゃうの?遺恨の残らない解決になることを、一地方局マニアとして願っています。