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第17話「バイト先の黒藤紘深」

ある日、良哉は幸太郎から食事に誘われます。

しかしその店は紘深のバイト先。しかも幸太郎はあることを良哉に指定するのです。

「いやー聞いたよー。紘深写真部に入ったんだって?」

「あ、は、はぁ…」


黒藤さんが写真部に入り、その後彼女と藤堂と俺の3人で神社とその周りで写真を撮りに行ってから数日。俺は藤堂に誘われて瑞寿司で食事をしていた。


まるでなにかのドッキリかのように俺だけには知らされていなかった黒藤さんの写真部入部。その上で藤堂に瑞寿司に誘われるだなんて、あいつ完全にやりにいっているだろと感じている。


「写真部ってあの子以外みんな男子であることは俺も知っているからさ、おじさんも心配なところはあったんだ。でも、斎藤君や藤堂君がいるなら大丈夫かな。よろしくね2人とも。」

「あ、ありがとうございます。」

「いえいえ。こちらこそ、よろしくお願いいたします。」


俺はおじさんから更なる期待をかけられていることは、もう今更言うまでもないだろう。

「そのことなんですがね、実は藤堂のやつ、娘さんが写真部に入るってこと知ってたのに俺に全く言ってなくて…」

「おいお前いきなり何言ってんだよ(笑)」

「はははそうかそうか。藤堂君も面白いことを考えつくねー。」

「いやそれほどでも。」

「こういうサプライズ的なの、おじさんは好きだな。」


何てノリのよすぎるおじさんだ。この父親にしてあのむすめありということなのだろうか。


なんだかんだ言って、今回もいろいろとおまけしてくれた。あと黒藤さんは今日はバイトで家にはいないんだとか。


そして家に帰る途中… 藤堂がこんなことを言い出した。

「そうだ。俺あいつのバイト先知ってるんだけどさ。今度一緒に行こうよ。」

「え?」

「結構評判の良いパスタの店なんだよ。」

俺は突然、黒藤さんがバイトしている店での食事に誘われた。

「黒藤があっちから部活に入って来たんだぜ。家はもうお互いクリアしてるわけだし、今度はバイト先に行っちゃえばお前もこれでおあいこだろ?また俺がおごるからさ。」

「そういう問題じゃねぇだろ… それ考えたら、黒藤さんまだ俺のバイト先来てないんだしさ…」


黒藤さんがまたバイト先に来ていない以上、先にこっちが彼女のバイト先に行くことに俺は後ろめたさがあった。俺が先に黒藤さんの家に行ったのは瑞寿司が黒藤さんの家だと知らずに最初に入ったにがきっかけなのであって、それとは全く訳が違うんだ。


まあでもせっかく誘ってくれてるんだし、評判の店ならきっと美味しいに違いない。大学に入学して半年と少し。現状学食など大学の中にある飲食店的なところと瑞寿司しか選択肢のない俺にとっては新しい店の開拓になるだろうと思った俺は、誘いを受けることにした。

「マジか、ありがとう!」

「でもさお前、黒藤さんがいる時間知ってるの?」

「ああ。昨日黒藤の母さんから電話で聞きだした。」

「ご近所さんパワー半端ねぇな…」


それから3日後の夕方5時過ぎ。

黒藤さんのバイト先のパスタ屋は、大学の最寄り駅に乗り入れている地下鉄に乗って6駅のところ。その駅に直結しているビルの3階にある。

お互いがとっている授業の関係で駅の出入り口で現地集合だ。俺も名古屋の地下鉄には用事で何度か乗ったことがあるため、目的地ごとに出口が違うことなどといった地下鉄の特徴は分かる。「地下鉄の経験値があってよかった。」と思いながら、俺は藤堂が待つ地上の出入り口へと急ぐ。


「おお。いたいたお待たせー。」

「よお。てかなんだよその格好はよお(爆笑)」

「お前が指定したんじゃん…」


実は今日黒藤さんの店で食事をするにあたり、藤堂は服装を指定してきたのだ。それは入学式の時に着たスーツで来いということだ。授業のコマの関係で一時帰宅する時間的余裕がなかった俺は、今日一日スーツで過ごす羽目になった。まだ1年だから目立ったこと目立ったこと。周りの視線がとても痛かった。一方あいつは直前の授業コマが空いていたため、スーツに着替えるために一時帰宅することができたという。


「じゃあまあ行こうか。」

「まあそうだな。晩飯時も近くなるし。」

周りのみんなが普通の服装の中一人スーツ姿ゆえに人目が気になりすぎたから、俺は今最高に腹が減っている。


ビルのエスカレーターを上り、3階へたどり着く俺。

「ここか…」

「そう。ここ。」


店の名前は「Delizioso(デリジオッゾ)」。イタリア語で「美味しい」という意味だ。

東京をはじめとした大都市を中心にチェーン展開していて、そんな高すぎるわけでもない値段の割に味のクオリティーが高いことが評判なんだとか。日本で暮らすイタリア人からの評判も良いという。看板メニューは10種類ものチーズを使ったカルボナーラスパゲッティーと、エビと8種類ものイタリア産チーズをふんだんに使ったピザだ。


「なるほどね。メニュー見てたら余計に腹減ったよ…」

評判サイトや運営会社のホームページに載っていた料理の画像に加え、ウィンドウのサンプル。駅に着いた時点で相当腹が減っている俺からしたら、今の俺はオーバーキルとも言えるくらいの飯テロ攻撃を立て続けに受けている状態だ。


「だろ?さっさと入ろうぜ。」

「ああ…」


俺たちはカウンター席からやや離れた、3人掛けの席を取る。

「いらっしゃいませー。」

夕方5時過ぎということもあって店の中にはそこそこ人がいる。

席に着いて2分弱。

「いらっしゃいませ。こちらお水とメニューです。」

俺たちの席に水とメニューを持ってきた、茶色と黒を基調とした制服に身を包んだ俺たちと同い年くらいの女性。

それが黒藤さんであることが俺たちにはすぐわかった。だが彼女は俺たちが俺たちであることに気づいていない様子だ。


「いいか。今日の俺たちの目的はただの食事じゃない。バイト先の黒藤の観察だ。」

「観察って…いいのかよそんなことして。まあ食事もするけどさ。」

「いいんだよ仲の良い奴同士なんだし。いいサプライズ返しにもなるだろ。」

「サプライズって… 俺がやるにしてもそれは俺がお前にやるのの方が先決だろ。」

「まあ、さっさと頼もうぜ。」

「まあそうだな。」


藤堂に言いたいことはいろいろあるが空腹には勝てない。俺はあいつに促されるまま、黒藤さんが持ってきてくれたメニューを開く。


「へー。いろいろあるんだなー。」

実はパスタ屋で食事をするのは初めてな俺。パスタやピザの他にも様々な種類のイタリア料理がある。パスタ・ピザ以外はほとんど初めて見るやつがほとんどだ。

「じゃあこれにするか。」

「俺も。ピザとドリンクはお前選んでいいよ。」


藤堂も俺と同じタイミングで決めたようだ。

「じゃせっかくだからお前押せよ。黒藤がまた来てくれるかも!」

「あのなぁ…」


藤堂に言われるがままに俺は店員の呼び出しボタンを押す。

それから1分も経たない間に俺たちの席に店員さんが来る。黒藤さんだ。

「ご注文をお伺いします。」


藤堂が「やったな。」とも言わんばかりにほくそ笑んでいるのにややうんざりしながら、俺は選んだメニューを言う。

「『10種類のチーズを使った濃厚カルボナーラ』と、『博多明太子クリームチーズパスタ』。2つともフォカッチャ付きで。」

「『10種類のチーズを使った濃厚カルボナーラ』と『博多明太子クリームチーズパスタ』。いずれもフォカッチャ付き。」

「あとイタリアンサラミのピザを。サイズは…Mで。」

「イタリアンサラミのMサイズ…ドリンクはどうされますか?ピザとセットだとお安くなります。」

「じゃあ…ジンジャーエールで。」

「俺も同じので。」

「分かりました。しばらくお待ちください。」


メニューを取り終えた黒藤さんが厨房へと戻っていく。だいぶ慣れたような印象だった。ここでバイトを始めたのはそうつい最近でもないのだろう。


「なんだよお前ジンジャーエールって(笑)カッコつけちゃってさ(笑)」

「そんなつもりじゃねぇよ…(汗)あまり飲む機会ないからせっかくだからと思って選んだだけだよ。」

「にしてもあいつ、結構慣れた感じだったよな。」

「まあそんな感じはしたよ。」

「結構上達してると思うだろ。何度かここに来た、この俺が保証する!」

「お、おおぅ… でもさ、気づかないもんなん?」

「ああ気づかれたことないよ。毎回変装して来てたからさ。」

「お前すげぇな…(苦笑)」


藤堂は俺と初めて瑞寿司で食事をした時、おじさんから教えられたことで知ったという。

~幸太郎の回想~

「ああとそうだ藤堂君。紘深実はこの店でアルバイトしてるんだよ。斎藤君も連れて一度食事でも行ったらどう?」

「おお。わざわざありがとうございます。」

~回想終わり~


注文を取ってからだいたい5分と少し。料理を運んでいる女性が俺たちの席に近づいてくる。また黒藤さんだ。

「お待ちどうさまでした。こちら『10種類のチーズを使った濃厚カルボナーラ』と、『博多明太子クリームチーズパスタ』。それぞれフォカッチャ付き。それに『イタリアンサラミ Mサイズ』にジンジャーエール2つでございます。お間違いはありませんか?」

「大丈夫です。ありがとうございます。」

「ごゆっくりどうぞ。」


そう言って黒藤さんはまた厨房へと戻っていく。

美味しそうなカルボナーラスパゲッティに目を奪われかけていると…

「ん?」

「どうした?斎藤。」

「なんか、黒藤さんがこっちに少し気にしているような感じがした…」

俺は黒藤さんがこっちを少し気にしているような素振りをしているのに気づいた。

「すげえじゃん!やっと気づいてくれたか!」

「いやちょっといろいろヤバい気がするよ。ストーカーみたいな印象持たれてたらどうすんだよ…」

「大丈夫だって(笑)お前と黒藤の仲なんだし最も俺もいるわけだからさ。」

「びっくりしてたらどうするよ…」


気づかれたかもしれない以上下手な真似はできない。怪しまれないにしても黒藤さんに今後からかわれる可能性すらある。


いろいろ心配なところはあるが、俺は食事を始める。

「うおおこれは旨い!」

散々腹が減っていたというのもあるとはいえ、高級店のものかと思うほど旨い。濃厚なチーズの感じが口いっぱいに広がる。

「だろ?黒藤のやつ、すごくいいとこでバイトしてると思わないか?」

「そうだな。」


シェアする用のピザもサラミの塩味とチーズの塩味が丁度いい。生地ももちもちしている。

「だろ?やっぱりこういう旨いのは、誰かと一緒に食べた方が楽しいよな。」

「分からんでもないな(苦笑)それにしても俺ピザ食べるのなんて何年ぶりだろう。」

「マジか。よかったなぁ久しぶりのピザが黒藤のバイト先の店ので!」

藤堂は満面の笑みでそう言った。

藤堂はなにかと黒藤さんにかこつけてくる。興ざめという感じはしないからいいものの。


食事を続ける中で俺は気になったことがある。

それは黒藤さんのバイト上がりが何時ごろなのかという事だ。時間によっては藤堂がそれに合わせてくる可能性があることだって容易だ。


「ところで藤堂。気になったことがあるんだけど…」

「どうした?」

「あのさ…黒藤さんのバイト上がりって、大体何時ごろか知ってる?」

聞いたところで余計それに乗ってくる可能性もあったが、何も知らない状態で鉢合わせになってしまうよりかはマシだろう。


「あ?バイト上がり。大体6時過ぎって聞いてる。」

「6時過ぎ!?」

「そう。まさかお前黒藤に会いたくなったとか?」

「そんなつもりじゃないんだけど…」

店の時計は5時半過ぎ。しゃべりながらの食事だし炭酸を飲みながらだから、学食や家で一人食事をしている時と比べて進行は遅めだ。パスタもあと半分弱残っているし、フォカッチャとピザも残っている。その上藤堂といろいろ話しながらでなら、大体完食もそのくらいになるのではないか。俺はそう感じていた。


「お前まさか、待ち合わせを5時にしたのって…」

「そういうこと!」


今更ながら全てが繋がった気がした。


「そうだお前、フォカッチャの食べ方って知ってるか?」

藤堂は話を逸らせていると思わんばかりに話を振ってくる。初めてとはいえメニューに書いてあったから知ってはいる。皿に残ったパスタのクリームを拭きとるようにしてつけて味わう。

フォカッチャのもちもち感。パスタとは違った食感が楽しめていい。

「今度来るときは藤堂が頼んだやつ頼もうかな。」俺はそう感じていた。


「おい。おい。」

藤堂に呼ばれた。

「どした?」

「斎藤、後ろ!」

俺は不自然にならない範囲で後ろを振り向く。

すると、黒藤さんが俺たちの席の方に向かっていく。後ろの方の席の人の注文を取り終えてまた厨房に行くところだ。


「ごちそうさまでした。いやーこんなに食ったのは久しぶりだなー。」

なんだかんだ言って、時計はもう6時を過ぎたかどうかというところ。黒藤さんのバイト上がりに合わせて店を出る藤堂の思惑通りにはなってしまった。でも高級店並みのカルボナーラとピザ、それにフォカッチャを食べることができたことは満足だ。もうお腹いっぱいであることは言うまでもない。


「じゃあ、会計しようか。」

店の出入り口で会計を済ませ、店を出る。全額藤堂のおごりであるから、申し訳ない気がする。

「なんか悪いなぁ…」

「いいっていいって。せっかくの黒藤のバイト先デビューなんだから。心配すんなって!」

会計を終えて俺は店を出る。


店を出て俺はスマホの時計を見る。

「18:03」

黒藤さんがバイトのシフトを終えて、店を出てくるであろう時間だ。

俺は時計を見て苦笑いしかできなった。

下りのエスカレーターは店の出入り口の反対側にある。俺たちはぐるって回ってそこへ向かう。

すると、「関係者以外立ち入り禁止」とゴシック体の文字が書かれたドアが開くのが見えた。

そして…


「ねえ。2人とももしかして!」

聞き覚えのある声だ。

俺は振り向く。遅れて藤堂も。

「やっぱり!」


その声の主は黒藤さんだった。

「ああ…俺だけど…」

「ありがとう!お店来てくれたんだ!一緒にいる人は藤堂君?」

「バレちゃ仕方ねえか。」

「ふふふ。カルボナーラとピザ、あとフォカッチャ!美味しかった!?」

「ああ。みんなもちもちしてていい味だったよ。」

「ありがとうー!」


黒藤さんは、俺が店に来てくれたことが凄く嬉しいようだ。藤堂はその様子を笑ってみている。

「わざわざスーツも着てきて!」

「藤堂がそれで来いって…」

「そうなんだ(笑)」


続けて黒藤さんは、こんなことを言ってきた。

「実はあのフォカッチャ焼いたの、私だったんだ!」

「マジか!」

「よかったな斎藤!黒藤の手作りフォカッチャ食べることができて!今度行く時は厨房近くの席を取ろうか!」

「ははは…(汗)」

藤堂は得意げに言ってきた。また近いうちに藤堂と一緒にこの店に来るだろう。俺はそう感じていた。



言わないでおいたが、バイト先の黒藤さんは真面目かつ楽しそうに働いていた。それが大きな印象だった。

簡単に言うなら、大体いつも通りというところだった。

俺もピザはもう何年も食べてないです…

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