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第167話「大改竄!?過去ビフォーアフター」

6月になった。今日俺は就活関係のセミナーで、自分の過去を振り返りそれをグラフみたいなものに

して表す「ライフラインチャート」を書くという課題を出された。


その提出期限日の前日のこと。俺はキャリアセンターを訪れた。


すると、

「黒藤さんと… 日根野?」


キャリアセンターの中の2人掛けの席に黒藤さんと、日根野という俺とゼミが一緒の男子がいた。彼はあまり目立たない奴だ。

そんな日根野が黒藤さんどころか女子、いや席が近くでない人と一緒に話しているのなんて、2年半以上一緒にいる中で初めてのことだ。


良哉「黒藤さん。日根野。」

紘深「ああ。斎藤君。おはよ。」

良哉「おはようと言ってももう11時だけどね… それにしてもどうしたんだよ日根野と一緒にいて。」

紘深「うん。斎藤君、この間のライフラインチャートを書くっていう課題が出たセミナー覚えてる?」

良哉「ああ。黒藤さんも出てたんだ。」

紘深「うん。そのことで日根野君がすごく悩んでてキャリアセンターの職員さんに相談しているところをさっきたまたま見かけて、相談に乗ってあげてるんだ。」


という黒藤さん。確かに今の状態の日根野は、元気がなさそうどころか何か思い詰めてもいるような感じだ。


日根野「ああ… 斎藤か…」

良哉「日根野か?一体どうしたの?」


ライフラインチャートのことで悩む。まあきっと過去にいじめられたりとかで、振り返りたくない過去があるんだろうなということが察することはできたが。


日根野「さっきも黒藤さんが言ってたけど、ライフラインチャートの件だよ。」


という日根野。確かに机の日根野側に置いてある紙には、途中数か所線が途切れ、詳細欄は空白になっているライフラインチャートが書いてある。


良哉「そんなの明日サボればいいだけかとは思うけどね。」

日根野「いや明日俺面接とか授業とかないから、そうである以上は出なきゃって思ってて… それででもどうすればいいか分からなくて…」

良哉「日根野、お前本当に真面目な奴じゃん。」

日根野「ありがとう斎藤。でもいいんだよ。結局は就活に役立つだろうからってろくに調べずにホイホイ出た俺が悪いんだから…」

良哉「ああ… 確かにセミナーのタイトルには『自己分析ワーク』だけで詳細なんて全く書いてなかったもんな…」


日根野はセミナーに出たことについて自分を責めている感じでもあった。


紘深「日根野君、斎藤君にさっきまでの話してもいい?」

日根野「ああいいよ。」


黒藤さんは日根野の過去を語り始めた。

日根野は小学校時代は3年生の頃まではよかったようで、クラスで学級委員を務めたこともよくあったのだが、しかし4年生の頃、クラスでのトラブルの責任を一手に負わされて学級委員を解任され、しかもそれに端を発したいじめに遭い不登校になった末に転校に追い込まれ、しかも転校先の学校でも最後までクラスに馴染めず、臨海学校や修学旅行にも行かなかったという。

中学校は転校前の学校に通っていた小学校の人が進学しない学校に進学したのだが、そこがかなり先生や生徒の治安の悪い学校だったようで、生徒はいじめや暴力、先生は事あるごとの全生徒巻き込んでの公開説教や犯人探しそれに責任転嫁は当たり前で、日根野自身もそれらのしわ寄せをモロに受けた。2年生秋の群馬方面の林間学校も3年の時の京都への修学旅行も、ガラの悪い生徒の悪事とそれによる先生の緊急の説教集会で、予定されていたプログラムはほとんど潰れてしまったのだという。

そんな日根野はそんな学校を少しでもよくしようと、2年生の秋に一念発起して生徒会長に立候補し見事当選を決めた… のだが、生徒会長という立場になったが故日根野への責任転嫁はさらにエスカレートしてしまい、特に運動会や合唱コンクールといった学校行事の時のガラの悪い生徒の態度は酷かったようで、その責任を日根野に押し付けられるのは当たり前になってしまったのだという。彼は生徒会長を辞めようと思ったことも何度もあったというが、無理もないだろう。


~回想・紘深が日根野の話を聞いていた時~

紘深「実は私もね、別の大学に通う友達が合唱コンクールきっかけにいじめられてね、それ終わらせるのに本当に苦労したよ…」

日根野「いや黒藤さんのいた学校はマシな方だと思うよ。少なくとも俺がいじめられなかったのは奇跡かな。はっきり言って、小学校の時にいじめられていたのがマシに思えるくらいだったよ…。」

~回想終わり~


日根野はどんなに努力しても学校の雰囲気がよくなることはなく、日根野は生徒会長を引退してから学校を休むようになり、ついには卒業式の練習でもふざける生徒がいたことがとどめを刺し卒業式も欠席したという。

しかも卒業証書は家族が受け取ってくれた後、少なくとも高校の入学式の前にシュレッダーにかけてしまい、卒業アルバムも買わなかったのだ。


その上…

紘深「日根野君ね、(大学)受験の時に中学の頃に生徒会長をやったことを言わなかった… まあつまりなかったことにしたくらいなんだ。」

良哉「マジかよ…」


無理もないと俺は思った。大学進学を機に独り立ちし今は穴守稲荷に住んでいる日根野だが、独り立ちした理由は彼が飛行機好きで羽田空港の近くに住みたいというのもあったが、ぶっちゃけた話地元にいたくないというのも大きいというほどだ。

しかも大学1年の頃の秋、ちょうど俺が北条さんと出会った頃くらいのタイミングだが、英語の先生が結婚したので結婚式の招待状が実家から転送されてきたのだが、日根野が得意とする声真似で父親を装い、

「息子は今年の8月、旅行先でトラックに轢かれて死んだ。」

という電話を中学校にし、招待状も出席にも欠席にも丸をつけずに処分させたという。


当然ながら、成人式には参加しなかった。


日根野「できる限り中学校時代のものはなかったことにしたね…」

良哉「卒業証書をシュレッダーにかけるとか聞いたことねえなあ…」



高校は都内の中学時代を教訓にあまり目立たないように過ごし、いじめなどに遭うこともなかったのだという。

しかし3年生の頃、日野のお父さんが献血ルームに勤めていることを授業で話した際、ある心無いクラスメートからの『献血ってオタクがするものなんじゃないの?』という発言が引き金になって、ギリギリいじめとまでは言えないレベルの苛烈なイジりに遭い、それはなんだかんだ卒業まで続く。

…とまあ、ほとんどろくでもない過去を過ごしてきたという。


良哉「ああ献血もそんなことあったなあ…。俺の姉ちゃんも献血ルームで仕事しててね、あの時確かに愛知でも献血に来てくれた人が去年の同じ月より増えたけど、献血ルームに何か怒っている感じの迷惑電話が来たとか姉ちゃん言ってたよ。でも献血ルームや血液病院の職員の人以外で実害被った人マジでいたとまでは思わなかったなあ…。」

日根野「ああ。まさに俺がその一人だよ。2年の頃に親の仕事を調べて発表するっていう授業があってその時に『俺の父は献血ルームで仕事をしています―』的なことを発表したんだけど、その時は特にそれで()()()()()()()しなかったんだけどね、まさかそうなるとは思わなかったよホント…。あの時ネットで騒ぎ立てた連中も学校でイジってきた奴らもマジで許さねえって今でも思う。」


日根野は父さんの献血ルームでの仕事を今でも誇りに思っているという。それを()()()()()()()()バカにされたりしたというのだから、相当嫌だったに違いないだろう。


日根野「もういっそいじめに発展した方が清々しいやとまで思えてくるね。一部とはいえ先生までイジってきたんだよそのこと。」

紘深「これは酷いね… 先生が献血をバカにしているようなものじゃん実質…」

日根野「だろ?確かに気分下がっていたけど、こんなことライフラインチャートに書きたくないよ…」


確かにライフラインチャートの記入例には、中学のいじめに遭っていたことを理由に気分が下がっていたとあるが。


すると、黒藤さんが口を開いた。

紘深「じゃあさ、その過去、書き換えちゃえばいいんじゃない?」

日根野「え?」

紘深「そう。ウソを書いちゃえばいいの。セミナーの先生もそこにはいないんだから、どうせウソだってバレやしないよ。」

日根野「ウソを書くって言ったって、どうすればいいんだよ?」

紘深「まあ主に、日根野君がやりたくてもできなかったことをやったことにしちゃえばいいんじゃない?」

日根野「小4~小6にかけてと中学の頃は全体的に気分下がってたし、母さんは『学校以外の事を書けばいいでしょ』とか言ってたけど、ぶっちゃけ、学校以外のことでも良いことなかったんだよ?それをごっそり創作しちゃえばいいってこと?」

紘深「そういうこと!すいませーん。」


そう言うと黒藤さんはキャリアセンターの職員さんを呼んだ。黒藤さんは事情を話すと、その職員さんは、

「まあ『書きたくないほど辛いことがあった』のなら、嘘を書いてもいいかなとは思いますね…」

と言った。

「ありがとうございます。じゃあ…」


日根野はそう言うと、小4の頃から小6の頃にかけてのグラフ線を描く部分には上がっているところに線を書いた。

紘深「いいじゃん!そんな感じそんな感じ!」

日根野「でも理由どうしよう。」

紘深「小4の頃、クラブ活動が楽しかったっていうの書けば?」

日根野「そうだな。まあいじめられるようになるまでは楽しかったっていうのはウソじゃないし。」

紘深「じゃあそれでいいじゃん。」

日根野「そうするよじゃあ。小5の頃の部分は『臨海学校が楽しかった』小6の頃には『初めての修学旅行に行く』って書けばいいの?」

紘深「そういうこと!」


黒藤さんに言われるがまま、日根野は小5と小6の詳細欄にそれぞれ『臨海学校が楽しかった』・『初めての修学旅行に行く』と書いた。


これで小学校の頃は完成となった。

次は中学の頃だ。

中2の頃には『林間学校が楽しかった』、中3の頃には『受験で辛いこともあったが、修学旅行が楽しかった』と書いた。残るは中1の頃だ。

日根野「ちょっと学校以外の事に目を向けてみるか…」

そう呟いた日根野。しかし…


日根野「家庭周りでもいい思い出あまり無いなあ…」

と言った。

紘深「じゃあ、『家族旅行に行った』とか書いちゃえば?」

日根野「そうするか。それくらいの情報量しか書けないし。」

紘深「うん。」


次は高校の頃だ。高1・高2のころは良かったが、さっきもあったように高3の頃が一番のネックだという。

日根野「上がっているだけの人生も何だか不自然に思えてくるよ。」

紘深「言われてみれば… そうだね…(汗)」

日根野「どうするかなあ…『大学受験に四苦八苦』なんてベタすぎるしなあ…」

紘深「とりあえず、幼稚園の頃とかにあった悲しい出来事ってある?」

日根野「ああ… そういや幼稚園の頃にじいちゃんがガンで死んだなあ。」

紘深「じゃあそれを高3の頃のことにしちゃえば?」

日根野「え?」

紘深「おじいちゃん、15年くらい長生きさせちゃえば?」

日根野「黒藤さんナイスアイデア!じゃあそうするか。」


日根野はそう言うと、高3の部分の詳細記入欄に『祖父がガンで亡くなる』と書いた。


こうして、日根野のライフラインチャートは完成した。


日根野「ありがとう。黒藤さんのおかげでなんとかこれ乗り越えることができたよ。」

紘深「どういたしまして。無理に過去を振り返る必要なんてないんじゃないかなって私は思うよ。」


それからしばらくして、俺たちはキャリアセンターを後にした。


そして次の日。ライフラインチャート提出の日。

(ライフラインチャートの紙を提出する日根野)


紙の提出後、講師の人の話が1時間ほど続き、セミナーは終わった。


日根野「黒藤さん。」

紘深「日根野君。」

日根野「今回はありがとう。」

紘深「どういたしまして。」


日根野の表情は昨日とは打って変わって、とても明るいものだった。


良哉「黒藤さん、また人を1人救ったね。」

紘深「うん。まあぶっちゃけ私にも、人に言いたくない過去が1つあるんだよね…(苦笑)」


いじめられていたクラスメートを救い、人に言いたくない過去がある。黒藤さんが自分の過去の振り返りのことで悩む日根野を救ったのは、当然のことだったように思えてきた。

-新しい設定付き登場人物-

日根野かけかず

紘深・良哉たちと同じゼミに所属する大学4年生の男子。埼玉県南部のどこか出身。

正義感と責任感が強い性格で真面目だが、かといって頭が硬い訳ではない。

飛行機が好きで、それが高じて大学進学を機に穴守稲荷に一人引っ越してきた。

小学校時代は4年生の頃のクラスでのトラブルを発端とする学級委員解任に端を発したいじめ、中学校時代は先生の言う事を聞かない生徒とそれによる数多のや責任転嫁、高校時代は3年生の頃に父が献血ルームに勤めていることを理由とした一部の生徒教師からのギリギリいじめとまでは言えないレベルの苛烈なイジりにそれぞれ悩まされるという、ほとんどろくでもない過去を過ごしてきた。

好きな場所:空港

苦手なもの:自己分析・地元

趣味:飛行機観察・写真

特技:パソコン・写真・筋トレ・声真似

備考:彼の通っていた高校でのオタク文化・オタクコンテンツの理解度はどちらかというと比較的低い方だった。

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