第163話「良哉びっくり(秘)報告 ~資格編~」
市華「えー今回も紘深ちゃん来んの?」
良哉「ああ… 黒藤さんもいろいろあるみたいでね、今回は予定が合わなんだって。」
市華「もったいないね4月からは就活でもっと忙しなるのに。」
神戸合宿からしばらくが経って、岐阜の実家に帰った俺。今回も年末年始に続き、黒藤さんは一緒じゃない。そういえば黒藤さん、合宿の少し前あたりから何か忙しそうにしてたっけ。
市華「もしかしたら紘深ちゃん、今からもう就活に向けていろいろ動いとるとか?」
良哉「その可能性もあるのかなぁ…」
それから数日、東京に戻った俺。今日は就活関係のセミナーだ。春休みに入ってからというもの、就活関係のセミナーやら講座のペースが増えた。合宿の少し前には複数の就活サイトの登録をさせられたっけ。
その後、
「斎藤君。」
「黒藤さん。」
「お疲れ。連日セミナーやら講座は少し疲れるね。斎藤君は岐阜から戻ってきたばかりなんでしょ?」
「ああ… 予定調整するの大変だったよ。」
「そうだよね… ああー私も今度こそは行きたかったなぁ…」
時間は昼過ぎだ。俺たちは学食に行く。俺も黒藤さんも盛岡冷麺を注文する。その盛岡冷麺、もともと2月末から3月中旬までの限定メニューだったのが東北出身の人たちからの反響が強く、つい数日前にレギュラーメニューとして復活した経緯がある。
2人「いただきます。」
盛岡冷麺を食べる俺たち。黒藤さんは見るからにとても美味しそうに食べている。きっと岩手のローカル番組のことを考えながら食べているのだろう。そういえば少し前、あるお昼の番組で岩手のローカル番組が紹介されたことがあったっけ。
黒藤さんが何か話をしてくるのだろうかと思いながら、俺は食事を続ける。しかし特に何も話しかけてくることもなく、食事は終わった。
紘深「ごちそうさまでした。」
良哉「ごちそうさまでした。」
黒藤さんは特に何も話しかけてこなかった。食べるものがどこかの地方が絡んだものだった場合、その地域のローカル番組や昔のテレビ事情をなどを語ることがほとんどなのに。初めて黒藤さんと学食で食事をした時、それが山形のラーメンだったものだから彼女が山形のラーメンの番組などを語ったのが良い例だ。
食事を終えた少し後…
「ねえ斎藤君…」
黒藤さんが口を開いた。
「私ね…」
「何?」
言いたいことを溜めている様子の黒藤さん。彼女は少し置いて…
「チャイルドカウンセラーの資格取ったんだ!」
と言った。
「マ、マジで!?」
俺は驚くことしかできなかった。確かに「カウンセラー」と一口にいってもいろいろあるし、俺の通っていた中学校や高校にもそれぞれスクールカウンセラーという人がいたから、その辺のことはなんとなくではあるが分かる。
でも黒藤さんがその「チャイルドカウンセラー」なる資格を取ったなんて、急すぎていまいち想像もつかない。まあ名前からして子どもを相手とするカウンセラーの資格であることは確かに分かるのだが…
「チャイルドカウンセラー?ちょっと調べさせて…」
俺は「チャイルドカウンセラー」について検索する。不登校やいじめ・校内暴力など、学校内でのさまざまな問題等に対応できる専門的な心理学の知識を備えているカウンセラーの資格であると書いてある。
一見するととても難しそうで、心理学科の人が取るイメージが強く、歴史学科の俺たちには無縁とも言っていい資格だ。
「黒藤さん、なんでその資格取ろうと思ったの?」
「うん。私フリースクールの職員になろうと思ってて、それにあたって何か必要な資格があるかなと思って調べてみたら、チャイルドカウンセラーの資格を取るのがいいって見たんだ。」
「フリースクールって、あの不登校の子たちが通うと言われているとこ?なんか随分前に東北から引っ越してきた子がクラスメートから高額のお金取られたとかでいじめられて学校に通えなくなった末、そのフリースクールとかいうところに通い始めたって、ニュースで聞いたような覚えがあるんだけど…」
「うんまさにそのフリースクール。去年の夏に斎藤君の実家行った時、市華さんにカウンセラーの仕事薦められてそれで最初に興味持ったの。でいろいろ考える中で、学校とか… まあその子どもに関わる問題にまつわるカウンセラーになりたいって思うようになったんだ。」
「マジかよ姉ちゃんに言われて興味持ったんだ…」
~その時の回想~
市華「そうかな?なんか誰かの役に立った経験とかない?」
紘深「ああ… いじめられていた同級生を助けて友達になったことがあります。」
市華「ならカウンセラーとかいいかもよ。」
紘深「カウンセラー…ですか?」
市華「うん。その子からいろいろ話聞いたりとか相談に乗ってあげたりとかしてたわけでしょ?友達になれちゃったほど。」
紘深「はい… でも私カウンセラーとかの資格持ってないし…」
市華「大丈夫だよ。私も誰かの役に立つ仕事に就きたいと思ってたけどこれといった免許や資格持ってないしで悩んでた時、通ってた大学のキャリアセンターの職員さんにたまたま献血ルームでの仕事薦められて、結果今の仕事就いてる。」
紘深「そうなんですか。」
~回想終わり~
黒藤さんと学校・子どもの問題。確かに心当たりがある。彼女は中2の頃に明智さんという当時いじめを受けていたクラスメートを助けて友達になり、今でも定期的に会うほど仲が良いということを。俺も実際明智さん本人に会ったこともある。
「それにね、2人で滋賀旅行した少し前にさくらに会う機会があって、チャイルドカウンセラーの資格取りたいってこと相談するのも含めていろいろ話したのね。そしたらさくらが後押ししてくれたのが、そのチャイルドカウンセラーの資格に挑戦する最後の一押しになったんだ。」
~その時の回想~
さくら「紘深が学校のカウンセラー…?」
紘深「どうかな?さくら…?」
さくら「いいじゃんそれ!だってあの時ずっと私に親身になって相談に乗ってくれたんだから、紘深ならきっとなれるって!」
~回想終わり~
「明智さんが最後の背中を押してくれたって訳だったのか。」
「うん!よかったよさくらにも相談して。」
「その通りだな… でも、どうやってどの資格取ったの?」
「うん。偶然にも滋賀旅行した少し後からチャイルドカウンセラーの資格取得の集中講座があって、旅行行く何日か前に申し込んだんだ。」
「マジで!?あの招待写真展に俺の写真出すて会議で決めた時とか、後合宿の行き先決める会議とかやってたタイミングで、黒藤さんそのチャイルドカウンセラーの資格取得の集中講座を受けてたってこと?」
「まさにそう。いや~忙しかったー!」
「よかったね資格受かって。道理で黒藤さん、今回も岐阜に行けなかった訳だ。」
「うんそうだよ~。どうしても集中講義と被ってたから。まあでもあんなに報われた感じ、大学受かった時以来だよ。」
「そうだね。おめでとう。」
「ありがとう斎藤君!」
黒藤さんはとても嬉しそうな顔をしている。
でも、俺は気になったことがある。
「でもちょっと待ってよ…」
俺はフリースクールの職員のなり方について調べる。黒藤さんはフリースクールの職員になるためにチャイルドカウンセラーの資格を取得した訳だが、そのフリースクールの職員になるにはどうればいいかについて、俺は調べた。
(おいちょっとこれ大丈夫か…?)
と思った俺。
フリースクールの職員になるには、教育学や教員養成の知識が必要であると書いている。
「ねえ黒藤さん。」
「何?」
「ちょっと言いづらいんだけど、フリースクールの職員になるには教育学とかの学びが必要って書いてあったけど…」
「それだよまさに!よかったよ~教育学概論が必修で… 実際集中講義受けるにあたって、しまってあった授業ノートやプリント発掘して見返したもん。」
「ああそういえばあったね教育学概論。よかったね黒藤さん。」
教育学概論の講義が必修であること。その辺も黒藤さんが引き寄せた幸運なのではないかと、俺は思った。俺も1年の頃取っていた教育学概論の講義。めちゃくちゃ難しかった記憶がある。
「いやー難しかったよ教育学概論(苦笑)。黒藤さんもあれどうだった?」
「私も難しかったなああれ…(苦笑)ノートやプリント見返してもやっぱり難しかったもん。」
「やっぱりそうだったか…(苦笑)まあでもなれるといいね。フリースクールの先生。」
「うん!応援してくれてありがとう!斎藤君!」
黒藤さんはとても自信に満ちている顔をしていた。
週明けには新年度が始まり、就活も本格化する。黒藤さんは自分の夢のために頑張っていたのではないかと、俺は思った。
(俺もしかして、のんきに岐阜に帰ってる場合じゃなかったやつか…?)
なんてことを俺は思った。就活の足しになりそうな資格、俺は一応MOSのPowerPointの資格を夏休み期間中の講座で取得してはいるものの。
ちなみに紘深が、中2時代にさくらが受けていたいじめをどのようにして大方終わらせたのかというと…
①ボイスレコーダーを学校に持ち込み、録音している状態でさくらの机に忍ばせる。
②ボイスレコーダーでカバーしきれない内容を詳しくノートに書き出す。
③学校の教職員を一括で瑞寿司出入り禁止にする。
④さらに大智を通して「動かない場合は証拠を全部教育委員会とかに突き出す」と先生たちを脅す。
⑤3年へのクラス替えの際、大智を通して「さくらをいじめていた奴と一人でもクラスに同じだった場合、証拠を全て教育委員会とかに突き出す他、場合によってはマスコミや週刊誌にも売る」と学校を脅す。
などという、普段の紘深からは想像もつかない容赦ないやり方でした。
ちなみにさくらをいじめていたクラスメートのうちの数名は、紘深が「暗躍」していたことに最後まで気づかなかったという。