第15話「斎藤さん家」
家でレポート課題を進めていた良哉。するとマンションのインターホンが鳴る音が。
ついに紘深が、良哉の家にお邪魔しちゃいます!
先日のラミネートの件から2日。俺は藤堂を家に誘って一緒にゲームをした後、彼に誘われ瑞寿司で食事をした。食事の間、俺がおととい黒藤さんの部屋に入ったことをさんざんイジられたことは言うまでもない。
その次の日のことだった。俺が家でレポート課題を進めていると…
(インターホンのチャイム音)
「なんだ?」
藤堂が家になにか忘れ物でもしてたのか?そう思ってインターホンに出ると…
「斎藤君!」
その声の主はなんと黒藤さんだった。
「く、黒藤さん?」
「いひひ。遊びに来ちゃった。」
近くに住んでいるとはいえ、俺は黒藤さんに家の場所を教えた覚えはない。
俺は昨日の食事後のことを思い出す。
会計の時、藤堂がお札ではない何かの紙をおじさんに渡しているのが一瞬見えた。俺はその時気には留めていなかったが、あれが実は、家の場所が書かれた地図だったのか?
「てか、なんで俺の家の場所知ってるの?」
「お父さんから地図をもらったの。」
やっぱりか。「いくら近所同士かつ、藤堂と黒藤さんが中学からの同級生同士な間柄だからって、これさすがに一線超えてるだろ…」と俺は思った。
しかしせっかく来てくれたんだ。追い返してしまうのもかわいそうだしそもそも俺の方が先に黒藤さんの家に行ったんだ。これでおあいこだと割り切って入れることにした。
「ああ…まあ、入っていいよ。」
「やったー!じゃあ今から行くね。」
黒藤さんがそう言うと、ロビーのドアが開く音が少ししたと同時にインターホンが切れた。
それから5分弱が経ってドアのチャイムが鳴る。
俺の部屋は7階のエレベーターホールから中間くらいの場所にある。エレベーターの待ち時間はそんなに長くなかったのだろう。
「来たか。」
そう言って俺は玄関へ向かい、鍵を開けてやる。
「やっほー。」
黒藤さんがいた。グレーのショートパンツにベージュっぽい色のシャツで、近所のコンビニに行くかのようなスタイルだった。
「よお。」
「お邪魔しまーす。」
「まあ、俺しか住んでないんだけどね…」
俺の部屋は2LDKで、男一人が暮らすにはやや広すぎるかもしれないところだ。防音対策もしっかりしている。家賃は駅に比較的近い2LDKの割には他のそれと比べて安い方である。壁に掛けてあるのはせいぜい時計や温度計くらいで装飾や写真と言ったものはなく、良く言えばシンプル、悪く言えば殺風景なところだ。
黒藤さんは興味深々に家の中を見渡す。
「モデルルームの見学かよ…」と思っていると…
「あ!」
彼女は冷蔵庫のところに駆け寄る。
「ど、どうしたんだよ?」
「この間あげたやつだ!」
それはこの間黒藤さんが俺にくれた、名古屋のテレビ局のマスコットキャラクターが描かれたラミネート紙を貼り付けたマグネットだ。恥ずかしながら、パンの製造会社が行っているキャンペーンに応募するための、シールを貼り付けた懸賞ハガキをとめてある。
「ここで使ってるんだ~。」
「ああ。便利だねこれ。」
「ありがとう。」
「ちなみにこれ(キャンペーン)お母さんもやってるんだ。」
「そうなんだ(苦笑)」
「テレビつけていい?」
「ああ。いいけど。」
黒藤さんはテレビをつける。大画面のテレビ。東京で買ったもので、学生生活応援キャンペーンの対象商品だったために割引されていたものだ。俺が買うには大きすぎたかなと今でも思っている。
「こんな大画面のテレビ初めて。」
「そうか。じゃあ俺、コンビニで飲み物買ってくるわ。」
ジュースや炭酸飲料を備蓄する習慣のない俺は今特にこれといった飲み物を用意していなかったので、近くのコンビニで何かジュースを買いに外に出ようとする。その脇で黒藤さんはリモコンを操作する。すると…
「わぁー!」
黒藤さんは興奮するような歓声を上げる。
「!?」
びっくりした俺はテレビの方へ戻る。見たことのないチャンネルが映っている。
「黒藤さん…どこ…押したの?」
「3を…4回押した…」
「ちょっと貸して。」
何のチャンネルなのか確認したい俺は、黒藤さんからリモコンを一旦返してもらい、画面表示のボタンを押す。
「!」
それは群○テレビ。その名の通り群馬のテレビ局だった。
「このマンション…群馬のテレビ局が映るんだ…」
このマンションに住んで半年。俺も初めて知ったことだ。
テレビにあまり執着がない俺。このマンションがケーブルテレビに加入したことは知ってはいるものの、チャンネル設定をした時も「地上波は東京で映るやつだけで十分かな。」と、リモコンの「3」に割り当てられた4つの放送局…いわゆる「枝番」とかいうやつをそこまで深くは確認しなかったのを思い出す。実際問題、深夜のアニメも○Xなど東京の放送局さえあれば録画失敗した時や見逃したりしない限りはそれで事足りるわけだし。
黒藤さんは目をキラキラしている。
「一応聞くけど…黒藤さんの家って、群○テレビは映らないよね。」
「うん。」
当然の返事だ。
黒藤さんの家もケーブルテレビに入ってはいてCSもそこそこ多くのチャンネル数が映るが、さすがに群○テレビまでは映らないという。
「斎藤君のテレビ本当に凄い!管理人さんマジありがとうー!」
黒藤さんは本当に嬉しそうな様子だった。それほど群馬のテレビが映ったのが嬉しかったのだろう。
放送されているのは通販番組だが、彼女は群○テレビ局に目が釘付けだ。
俺は近くのコンビニでジュースを買って、戻ってくる。
「ただいまー。」
やはり黒藤さんは群馬のテレビ局に夢中だ。データ放送をいじっている。
「私、たまにここに来ちゃおっかな。」
(遠い地域のテレビ局目当てで友達の家に行くって発想する奴はそうそういねぇぞ…)
と思っていると、
「私、斎藤君の部屋も見てみたいな。」
「ああいいぜ。」
俺の部屋を見たがっている黒藤さん。部屋へ案内する。
ごく普通の2段のパソコンデスクとベッド、それに岐阜の実家から持ってきた漫画やゲームソフト、それに大学の講義の課題図書として使う本がしまってある本棚があるだけの部屋だ。ついこの間東京支社巡りでもらってきたタイムテーブルはファスナー式のホルダーに入れて本棚の上にのせてある。
黒藤さんと同じ一人ベッドではある。黒藤さんはそのベッドを見ている。
「どうかした?」
俺は黒藤さんに尋ねる。
「斎藤君…」
数秒溜めてこう続けた。
「まさか、ベッドの下に変な物隠してないよね?エッチな本とか。」
「んなもんねぇよ…」
黒藤さんからいきなりこんなことを言われて、俺は動揺した。変な物を隠していないのは事実だが。
「あ、そうだ。」
黒藤さんはリビングへと戻っていった。1分ほどが経って、また部屋に戻ってくる。
「はいこれ。あげる。」
黒藤さんが渡してきたもの。それはそこそこ値段が張りそうな茶葉の缶だった。
「あ、ありがとう。」
「お店のあがりに使っているんだ。」
俺は黒藤さんから、瑞寿司のあがり、つまり店で出している緑茶に使っているものと同じ茶葉をもらった。
黒藤さんが家に来てから、かれこれ1時間近くが経った。黒藤さんはやはりテレビに興味津々だ。群○テレビは時代劇をやっている。画面右上の透明なロゴマークを写真に撮っているほどだ。
楽しげな背中を見ていて、「黒藤さん、地方に旅行した時に部屋でテレビをつけた時もこんな感じだったのかな。」俺はそう感じていた。
さっき買ってきたジュースを飲みながら、俺に群馬のテレビやラジオに関する話をしてくれた黒藤さん。その後彼女は家に帰っていった。
藤堂に黒藤さん。俺しかいないこの家も賑やかになりそうだ。なんだかそんな感じがした。
チバテレとtvk、アナログ時代は私の家も映ったのに…
主要キャラ4人の好きな飲み物
良哉:カロリーゼロのコーラ・メロンソーダ・リンゴジュース
紘深:ぶどうジュース・茶葉から入れた緑茶・砂糖をそこそこ入れたコーヒー
幸太郎:ジンジャーエール・メロンソーダ
兎愛:カロリーゼロのコーラ・レモネード・サイダー