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第14話「黒藤ラミネート王国」

瑞寿司で食事をする良哉。そこで良哉は店内にある紘深手作りのマグネットに関する話を耳にします。

その流れから突然、良哉は紘深の部屋に足を踏み入れる事になり…

「いやーこの間は本当にありがとう。紘深、すごく楽しかったって言ってたよ。」

「あ、ど、どういたしまして…」

東京支社巡りから1週間と少しが経ったある休みの日。俺は瑞寿司で食事をしていた。


例の東京支社巡りのことを黒藤さんのお父さんから感謝されまくっていた俺は、俺が頼んだ1,000円ちょっとのセットにいろいろおまけしてくれた。おまけしてくれたものはどれも1貫で300円~500円くらいはするものであり、全部頼もうものなら4,000円も超えかねないレベルだ。

「せっかくの娘の彼氏さんだ。お礼しなくちゃね!ほら、食べな食べな!」

「あ、ありがとうございます… 」


昼食時ということもあってか他のお客さんも何人かいて、その中には親子連れもいる。そんな中で彼氏さんだおまけだ言われているのが、俺には少し恥ずかしかった。

岐阜にいた頃も一度しか食べたことのないちょっと高価なネタの寿司を味わって恥ずかしさを紛らわしている中、他のお客さんの声が聞こえてきた。


「すいませーん。」

声の主は後ろの2人掛けの席に座っていた、30代前半くらいの2人組の女性の一人だった。

「はい。」

おじさんはその席へ向かう。


その人はおすすめメニューのチラシを貼り付けているマグネットにつけられた、ラミネート加工した紙に描かれているキャラクターのことをおじさんに聞いてきた。かわいいので興味を持ったんだという。

「それですか?沖縄の方のテレビ局のキャラクターでね、それうちの娘手作りのなんですよ。」

「そうなんですか。娘さん沖縄がお好きなんですか?」

「ああ…どちらかというと、地方のテレビ局とかが好きで…」

「なるほど… 娘さん、面白い趣味をお持ちなんですね。」


2人の話を聞いている側で俺は思った。「面白い趣味…本当にそうだな。」と。俺は初めてのゼミの授業を終えた後のことを思い出す。


~回想~

「黒藤さんって、岐阜に親戚とかがいるの?」

「ううん。親戚もみんな関東だよ。」

「えっ?」

「実は私、地方のテレビ局とか好きなんだ!」

(地方のテレビ局が好き!?俺聞いたことないなぁ…)

~回想終わり~


2人の女性が会計を済ませて店を後にすると、おじさんは突然俺にこう言ってきた。

「そうだ。今紘深がうちにいるから遊びに行きなよ。今日バイトないんだし。」

「と、突然…」

「紘深、喜ぶと思うよ。」

「は、はぁ…」


今まで女子の家に遊びに行ったことが一度もない俺。はっきり言って心の準備がつかない。

しかしおじさんは黒藤さんのお母さんにそのことを伝えてしまったという。

俺は会計を済ませて、店の出入り口を出た後角を右に曲がってすぐの路地沿いのところにある玄関へ向かう。

玄関のドアの側には「黒藤」と書かれた表札がある。心臓の鼓動が高鳴っていくのが感じ取れる。

深呼吸をして、俺はドアのインターホンを押す。


(インターホンが鳴る音)

それから15秒も立たない間に、女の人が出た。

「はい。」

「あ、斎藤です… 先ほどお父さんから…」

と言いかけたところで…

「え、マジで!?マジで!?斎藤くん!早速入って!!」


それは明らかに黒藤さんの声だった。俺は彼女に言われるがままに玄関を開ける。

初めての黒藤さんの家。まるで全く別の世界に来たような気分だ。

家は2階建て。階段から走って降りてくる黒藤さんの足音が聞こえてくる。


「斎藤君!」

明らかに部屋着の黒藤さん。スポーツウェアとブラウスを足して2で割ったような感じのシャツで、テニスのスコートみたいな黒いミニスカートを履いている。その黒藤さんの目は輝いていた。

「ああ。お邪魔します…」


黒藤さんに促されるまま階段を上がって2階へ行く。

「あ、斎藤君いらっしゃーい。」

「お邪魔してます…(苦笑)」

おばさんにあいさつをし、心の準備もできないまま俺は黒藤さんの部屋へと入る。

同級生女子の部屋に入るなんて初めてだ。岐阜の実家にいた頃、姉ちゃんの部屋に入ったことも数えるほどしかなかったのに。


黒藤さんの部屋はドアを開けていればリビングのテレビの音声がはっきり聞き取れるほどのところにあり、広さは大体8畳くらい。岐阜の実家の俺の部屋より少し広い感じだ。大きめの窓が2つあるため明るい。


その部屋の中には、ベッドやそこそこ大きめの勉強机の他、本棚が2つある。そのうち片方はテレビ局のタイムテーブルや地方の新聞が入っているのも察しがつく。この間の東京支社巡りで貰ってきたものも確認できた。ダンボール箱もいくつかあり、黒藤さんによると今までに買ってきた地方の新聞を入れてあるという。小さいがテレビもある。

おばさんからガラスのコップ2つとリンゴジュースのボトルが乗ったお盆を渡される。


何とも微妙な空気。黒藤さんの服がいくつか干してあるため、俺は目のやり場に困る。

すると、壁に貼ってあるキャラクターかなんかのイラストが描かれた小さな紙に目が行く。それも一つ二つではなく部屋中にある。壁のみならず、予定を書いておくために壁にかけているのであろうホワイトボードにもいくつか貼ってある。ざっと15個くらいか。


「黒藤さん。」

「ん?なあに?」

「壁にたくさん貼ってあるこれって、何?」

「ん?ラミネート。」


やはりラミネートだ。貼ってあるのは店で見たような地方のテレビ局のマスコットキャラクターだろうか。確かにその中に一つ、岐阜にいた頃には見たことがある名古屋のテレビ局のマスコットキャラクターのものがある。

「もしかして、それも地方のテレビ局のキャラクター?」

「そう!」


黒藤さんはすごく喜んでいた。

「ああ。さっきお店で1つおじさんに見せてもらってね…」

「お店にあるやつって、マグネットの?」

「そうそれ。」

「わーい!」

黒藤さんはかなり喜んでいる様子だ。


「そうだ。」

黒藤さんはべッドの下から機械を出してきた。


「なにこれ?」

「これ。ラミネーター。」

いつか見たアニメに出てきた銃みたいな名前の機械。名前からして「ラミネート」とやらを作る機械であることは理解できた。


「斎藤君も作ってみる?」

そう言って黒藤さんは、部屋にあるミニテーブルの上でパソコンを立ち上げた。


その様子を俺は後ろで見る。


インターネットにアクセスする黒藤さん。

アクセスしたのはなんと、民○連という民放テレビのいわゆる「業界団体」のホームページだった。そこには全国各地のテレビ・ラジオ局のマスコットキャラクターがいっぱい並んでいる。


「好きなの選んでいいよ。」

「ああ。じゃあ…」

俺はページをスクロールして、東海3県の放送局のマスコットキャラクターを探す。そこにたどり着くと、たしかに岐阜にいた頃にテレビで見たことのあるキャラクターがいくつかある。

「懐かしいな…」

と思わず呟くと、黒藤さんの微笑む声が聞こえてくる。


「じゃあ、これ。」

俺は名古屋のテレビ局のキャラクターを一つ選び、黒藤さんのパソコンの写真フォルダにダウンロードする。

黒藤さんはそれをワープロソフトに二つ貼り付けた。マスコットの数はその後も増えていき、A4サイズのスペースにさながら10個くらいというところか。

立ち上げたコピー機でそれをプリントアウトすると、黒藤さんはクリアファイルにも似たプラスチックのシートを出してきた。


「これは?」

「これ?ラミネートフィルム。さっきプリントアウトしたやつを挟んで、ラミネーターにかけるんだ。」

黒藤さんは楽しそうな雰囲気だ。


その彼女に言われるがままにさっきプリントアウトした紙をラミネートフィルムに挟む。床に置いてあるラミネーターの温度が一定に達したことを示すランプがついたのを確認しフィルムがずれないよう気をつけながらラミネーターの入口に入れようとする。


「どうしたの?」

「分かったからさ…ちょっと座り方変えてくれない?」

黒藤さんはラミネーターの出口の方でしゃがんでいた。ミニスカートだから俺はうかつに前を向くことができない状態だった。


「いい?」

「うん。」

黒藤さんが座り方を変えたのを確認すると、俺はフィルムに挟んだ紙をラミネーターに差し込む。

すると紙はどんどんラミネーターに巻き込まれていき、出口からフィルムでコーティングされた状態で出てくる。


「これがラミネートか…」

「そう。楽しい?」

「ああ。」


黒藤さんはラミネート処理された紙にハサミを入れる。壁に貼り付けてあるものの状態になった。

その後彼女は、大学近くの100均で買ったであろうマグネットシートを切り、それをさっきのラミネートのうち俺が選んだ名古屋のテレビ局のキャラクターが描かれているものに貼り付け、俺にあげてきた。

「はい。私とおそろい!」

「おそろいのラミネート…しかも地方のテレビ局の…」

「いいのいいの!斎藤君の地元のなんだし!」


黒藤さんは非常に満足そうな様子だ。

「そうだ。」

ふと思った俺は、そう言って黒藤さんの部屋を出る。向かう先はキッチン。黒藤さんもついてくる。

俺は冷蔵庫に貼ってあるマグネットに指を指す。さっきお店でおじさんに見せてもらったのと似たようなやつだ。

「これも黒藤さんが作ったの?」

「そう。かわいいでしょ。」

「ああ。俺にあげたのってこういうやつでしょ?」

「そう!」


気づいたら俺が黒藤さんと話したい気持ちになっていた。暇つぶしの次元を遥かに超えているようにも思える。黒藤さんも本当に満足そうな様子だった。


部屋に貼ってあるラミネートがどこの地域の放送局のものなのか一つずつ話を聞いたあと、俺は家に帰る。家に帰った俺は、さっきの黒藤さんからもらったマグネットを冷蔵庫に貼りつける。

「黒藤さん、東京支社巡りの時と同じくらい楽しそうな雰囲気だったな。」俺はそのマグネットを見ながらそう感じていた。


俺もラミネート作り、始めてみようかな。

紘深の家の特徴

2階:居住空間。紘深の家もそこにある。

1階:店舗空間と玄関。仕込み場なども1階にある。


次回はなんと紘深が良哉の家にお邪魔しちゃいます!

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