第143話「最近よく来るお客が怪しい?」
姉ちゃんが東京に来て数日が経った。俺はいつものように、黒藤さんと一緒に瑞寿司で食事をしている。
「来月の日本代表の試合ね、T○S、O○○!○潰してでも同時放送するんだ。」
黒藤さんは、今度のサッカーの国際大会の大分宮崎の編成対応の話題で大盛り上がりだ。
すると…
(引き戸が開く音)
大智「いらっしゃいませー。」
お客さんが来た。黒藤さんは入口の方が見える席に座っているから、そのお客さんの特徴が1回で分かるのだが…
大智「おっ。また来たね。」
客「あ、こんばんは。」
というおじさんとお客さんのやり取りを聞くと、黒藤さんは小声で、
「このお客さん、何日か前くらいからここのお店来るようになったんだ。連日来てるんだよ。」
と言った。
「はーん… なんだか顔を隠しているみたいだね…」
そのお客さんの特徴は、前見てたアニメのキャラクターみたいに帽子を深く被って顔を目立たないようにしていて、体にはコートを身につけていて、ズボンを履いている。コートはここ最近寒くなってきたから着たくなる気持ちも分かるが。
「あのお客さん、いつもあの格好なの?」
「うーん。コート着てこない日もあるけど、帽子で顔を隠してるのは同じなんだ。」
「なるほどねえ… 人に顔みせるのが恥ずかしい人なんじゃないのかなあ。」
「うん。それでいつも『リーズナブルセット・松』を食べて帰るんだ。」
「同じメニューなの?」
「うん。」
と黒藤さんが言った矢先…
大智「ご注文はどうしますか?」
客「いつものやつで。『リーズナブルセット・松』。」
大智「あいよ。」
その人は黒藤さんと言った通り、『リーズナブルセット・松』を頼んだ。
「あ。『リーズナブルセット・松』じゃん。」
「でしょ?」
その人はリーズナブルセット・松を食べた後、代金を払い、
「ごちそうさまでした。」
「はい!またおいで!」
店を後にした。
「さっきの人、おじさんとは話さないの?」
「うん… でもさっきのあの声の感じ、どっかで聞いたことがあるんだよね…」
次の日。
(うー寒い寒い。)
と思いながら夜の街を歩く俺。瑞寿司近くに差し掛かったところで…
(あ、またあの人だ。)
また例の最近よく瑞寿司に来るお客さんを見かけた。その人は俺の思った通り、瑞寿司に入っていった。
家に着いた俺は、早速黒藤さんにLINEでそのことを話す。
「ねえ黒藤さん、さっきいつものお客さんが店に来なかった?」
しばらくして黒藤さんから返信が来た。
「うん。いつもの同じ帽子被ってたでしょ?」
「ああ。コートは着てなかったけどね。カーキ色のセーターを着てたよ。」
「そうそう。新しい常連さんかな?」
「だといいんだけど… 言っちゃ悪いけどなんかちょっと怪しい雰囲気がするんだよね…」
「でもお寿司食べて帰ってるだけなんでしょ?余計な心配はしなくていいと思うけど…」
「ああ…」
そしてさらに次の日。夕方家に帰る途中俺はまたいつものお客さんを瑞寿司の近くで見かけ、瑞寿司の中へ入っていった。
(時間は一定していないのか… でもこれで1週間くらい連続で来ることになるよな…)
と俺は思った。
そしてまた更に次の日。俺は黒藤さんからLINEで夜8時頃にまたあのお客さんが来たことを告げられた。いつもの帽子にオリーブグリーンのセーター、グレーのズボンといういで立ちで、おじさんもそのお客さんの話したがっているようで、なんとかその人と話せないか黒藤さんにも頼んでいたそうだ。
そしてさらに次の日。夜7時頃、俺は瑞寿司を訪れる。
(引き戸を開ける音)
良哉「こんばんはー。」
大智「斎藤君、いらっしゃい。」
紘深「斎藤君。」
良哉「よう。ねえ黒藤さん、例のお客さん来た?」
紘深「ううん。今日はまだ来てないよ。もうすぐ来るんじゃないかな?斎藤君ももしかしてその人目当て?」
良哉「ああまあぶっちゃけそれもある。ちょっと俺も気になっちゃってね。」
俺もいつの間にか、その最近よく来る謎のお客さんが気になっていた。
黒藤さんといろいろしゃべること5分。
紘深「斎藤君、とりあえず注文しなよ。」
良哉「そうだな。食べて待ってりゃ来るだろ。」
黒藤さんに言われるがままに俺はおじさんに注文を出した。頼んだものはいつも通り、『リーズナブルセット・松』だ。
大智「ごゆっくり。」
良哉「じゃ、いただきます。」
おじさんが運んできてくれたお寿司を食べ始める俺。
すると…
(引き戸が開く音)
店の引き戸が開く音がした。俺は(まさか!?)と思いながらその方を見る。
するとやっぱりだ。あの例のお客さんだ。いつもの深く被った帽子に、今日はこげ茶色のカーディガンに見た感じ厚めのジーンズというスタイルだ。
「来たね。」
「ああ。」
俺たちは感じ取られない程度に、そのお客さんの方を見ていた。
そしてそのお客さんは、いつも通り『リーズナブルセット・松』を頼んだ。
大智「へい。『リーズナブルセット・松』お待ち。」
客「ありがとうございます。いただきます。」
そのお客さんはお寿司を食べ始めた。すると…
(?)
おじさんが黒藤さんの方を見て頷く仕草をした。黒藤さんもそれに返事をするように頷く。
そして…
「ねえお客さん。食べている最中すまないんですが…」
「はい。」
「かれこれ1週間以上毎日ここに来てくれてるようでありがたいけど、いい加減顔見せたらどうですか?悪い意味じゃないんだけど自分も娘もあなたのこと気になっているんですよ。」
と、おじさんはそのお客さんに言った。
(おじさん結構思い切ったなー。)
と思う俺。すると、
「じゃあ… 帽子脱ぎますね…」
お客さんは帽子を脱いだ。
すると黒藤さんはそれを見るや否や、
「あ!小西君!」
と大声で言った。
客(小西)「あ… 黒藤さん…」
良哉「何黒藤さん、この人知り合い?」
紘深「うん!小3~小5までクラス一緒だったの!」
良哉「じゃあ、この人は実は黒藤さんのクラスメイトだった人ってこと?」
紘深「そうそう!でも小学校卒業と同時に遠くに引っ越しちゃったんだ。」
小西「ああ。岡山だよ。黒藤さん、その人は?」
紘深「斎藤君、私の大学の友達。」
良哉「はじめまして。斎藤良哉です。」
小西「こちらこそはじめまして。小西です。よろしくお願いします。」
大智「いやー声でなんとなく察しはついてたけどまさか本当に小西君だったとはねえ。それにしても、なんで帽子で顔隠したりしてたの?」
小西「だって、そのまま来たら角が立つんじゃないかなって思って…」
大智「あああれあったからなあ。でもわざわざそんなことする必要もなかったのに。」
小西「なんか、すいません。」
紘深「そこまで気使わなくてもいいのに小西君。」
小西「だって…」
良哉「え何?何かあったの?あれって?」
紘深「ああ斎藤君。小西君実はプレッシャーに弱くて、それが原因で私が大変なことになっちゃったことが1度あったの。」
良哉「なるほど。」
小西「えへへ…」
プレッシャーに弱い性格の小西さん。それが元である時黒藤さんの身に大変なことが起きたようで、小西さんは黒藤さんに対してどこか後ろめたいというか申し訳ない気持ちがあったのだという。
その大変なことの詳細が何なのかは、俺からは聞かないでおいた。黒藤さんの言い方が何だか、何か触れられたくないことを伏せているような感じだったから。
「おじさん、ここのお寿司、やっぱりとても美味しいです。」
「ありがとう小西君。そう言ってもらえて、おじさんとても嬉しいよ。」
「いえいえそんな… で、ちょっとお願いしたいことがあるんですが…」
「お願い?なんだいいきなり。」
小西さんは、おじさんに一つお願いしたいことがあるみたいだ。
「実は、ついこの間まで働いていたバイト先のお寿司屋さんが潰れちゃって…」
小西さんは実はついこの間まで働いていたバイト先の大学近くのお寿司屋さん(ちなみにチェーン店のうちの1店)が潰れてしまい、新しいバイト先を探しているようだ。
「それでなんですが…」
「何?」
「俺を… ここで働かせて下さい!」
おじさんは少し黙った。そして…
「いいよ。」
「本当ですか!?」
「ああ。君がお寿司好きなのはおじさんよーく知っているし、この店も2人で回していくには限界かなと思うところがあったんだ。もう少し早く言ってくれてもよかったのに。」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
「ああ。レジでの会計の仕事、やってもらおうかな。操作方法はおじさんが教えるから。」
「よろしくお願いいたします!」
「よかったね小西君!これからよろしくね!」
「ああ!」
というわけで小西さんは、ここ瑞寿司で新しくバイトとして雇われた。黒藤さんもとても嬉しそうだ。
そしてそれから4日後のこと。
(LINEの着信音)
紘深からのLINE「小西君、楽しそうにお店で働いてるよ。」
(小西が店で働いている様子の写真)
小西さんは、瑞寿司で楽しく働いているようだ。
-新しい設定付き登場人物-
小西
紘深の小学校時代のクラスメイト。名字が1回変わっており現在の小西姓になったのは母親が再婚した小5の春。
小学校の頃はプレッシャーにかなり弱い性格だったようで、それが遠因で紘深の身に大変なことが降りかかったことがあった。
小学校卒業と同時に家族とともに岡山に引っ越しており、大学進学を機に一人東京に戻ってきた。
趣味は電車に乗ることと路線図を見ること。
特技は関東近郊であれば路線図を見ずに行き先までのルートをすぐに組み立てることができること。
好きな食べ物は寿司(特にタコとエビ)