第141話「姉ちゃんの東京探訪(瑞寿司編)」
「―それでね、結局今年も黒藤さんと文化祭デートしたんだよ。」
「えーマジで!?2年連続で文化祭デートとか本当に凄いよ!」
ある夜、俺は姉ちゃんと電話をしていた。話の内容は案の定とも言うべきか、この間の黒藤さんとの2度目の文化祭デートのことだ。
「あ、あはは… 黒藤さんね、大学OBOGの大分県人会の集まりに参加してね、それで大分のテレビネタ繰り出しまくったんやお。」
「マジで!?紘深ちゃんとても楽しそうだったやつじゃん!だってあれでしょ?大分県にあるテレビ○分ってテレビ局、『クロスネット』とかいって2つの系列掛け持ちしているやつなんでしょ?私調べたよ。」
「その通りやお。何でも1993年の秋ごろまではテ○朝とも掛け持ちしててね、確か初代の仮○○○ダーが日曜の朝9時って言っとった人がおったよ。」
「日曜朝9時に仮○○○ダーって今じゃんwww」
「チャンネルも作風も今と違うけどね(苦笑)」
しばらく姉ちゃんと話が続く。姉ちゃんは相変わらずと言うべきか、黒藤さんのことで俺をからかってくる。
「そうだ良哉。」
「どうしたの姉ちゃん?」
「今度の週末私仕事空いてるんだけど、なんだったら東京来てもいい?良哉、今度の土日バイトある?」
「別にどっちもないでええけど… 用件は?俺の誕生日まではまだ間あるけど。」
「紘深ちゃんの家のお店に行くの!もう今しかチャンスないじゃん!良哉来年就活だから来年もしかしたら文化祭どころじゃないかもしれないし。」
「なるほどね… それにしても急だね…」
「思い立ったが吉日ってやつ!」
というわけで、今度の週末姉ちゃんが東京に来ることが決まった。
そしてその土曜日。お昼ごろ。
(インターホンのチャイム音)
(おっ。姉ちゃん来たな…)
姉ちゃんが来たようだ。俺はインターホンに出る。
「良哉。」
「姉ちゃんか。で、この後どうするの?」
「家に荷物置いたらお店に直行するよ。再度確認だけど、お店の名前『瑞寿司』って言うんでしょ?良哉が案内してよ。」
「ああ。」
それからしばらくして家に姉ちゃんが来て荷物を置いた後、俺が姉ちゃんを瑞寿司まで案内する。
良哉「こんにちはー。」
大智「おう斎藤君!こんにちは。」
昼食時ということもあってか、店の中にはお客さんがそこそこいる。
大智「斎藤君。その人は?」
良哉「はい。俺の姉ちゃんです。」
市華「はじめまして。良哉の姉の斎藤市華です。」
大智「あなたが斎藤君のお姉さんでしたか。はじめまして。店主の黒藤大智です。岐阜からはるばるありがとうございます。」
市華「いえいえ。紘深ちゃんにも会いたいので。」
大智「紘深目当てだったんですか。ちょうど良かった。紘深今家にいるんで呼んできましょうか?」
市華「お願いします!」
大智「ではお2人はこちらへ。」
俺たちはおじさんに案内された席に着く。おじさんは黒藤さんを呼んでくるよう、おばさんに頼んでいるのが見えた。
~回想・金曜日の夜のLINE~
「ねえ黒藤さん、土曜日のお昼の時間帯って家にいる?」
「いるけど、どうかしたの?」
「なんか姉ちゃんが『瑞寿司に行く』とか言い出してね…」
「本当!?お姉さん家に来てくれるの!?」
~回想終わり~
(4人掛けの席に着く2人)
「いやー良哉に確認させた甲斐があったわ…」
「姉ちゃん… まあ黒藤さん、すごく喜んでる様子だったよ。」
「良かった。」
~一方その頃、居住スペースにて~
侑梨「紘深ー。紘深ー。」
紘深「んー。お母さんなーにー。」
侑梨「斎藤君のお姉さんが来たわよ。」
紘深「本当!?今行く!」
それからしばらくして…
紘深「斎藤君!あいたいた!」
良哉「黒藤さん。」
市華「紘深ちゃん。やっほ。」
紘深「市華さん!お久しぶりです。」
市華「良哉が帰ってきた時以来だね。会いたかったよー。ここにも来たかったよー。」
メニューを見る俺たち。
市華「良哉はいつも何食べてるの?」
良哉「『リーズナブルセット・松』だね、値段も量もちょうどいいからね。俺も今日はそれにする。」
市華「じゃあ私も。すいませーん。」
大智「はーい。」
市華「『リーズナブルセット・松』、お願いします。良哉も同じので。」
良哉「お願いします。」
大智「あいよ。」
注文したものが来るのを待つ間、姉ちゃんは黒藤さんとのおしゃべりに夢中だ。東京に戻った後の大学生活のことやら、文化祭のことやら。
「―良哉から聞いたよ。紘深ちゃん、大分県人会の集まりに顔出したんだってね。」
「はい!長い時間ではなかったですが、大分のテレビのあるある的な話でいっぱい盛り上がりました!」
するとそこへ、
大智「へい。『リーズナブルセット・松』お待ち。」
良哉・市華「ありがとうございます。」
注文したものが俺たちの元に来た。
市華「じゃあ食べようか。」
良哉「そうだな。じゃ、いただきます。」
市華「いただきます。」
「リーズナブルセット・松」の内容は、いくら・サーモン・中トロ・エビ・鉄火巻き・アジ・エンガワ・鯛・玉子・コハダの10貫。俺も姉ちゃんも一緒だ。
(寿司を食べながら)
市華「で、どうだった岐阜は?」
紘深「はい!とっても楽しかったです!」
市華「よかった。私も紘深ちゃんのお見送りしたかったなぁ~。」
良哉「姉ちゃん仕事だったからね。」
市華「そうだったのよ~2人で一緒に寝るまでしたのに~。」
良哉「一緒に寝るっていったって、姉ちゃんの部屋が黒藤さんが使える唯一の部屋だったからなだけじゃん。」
市華「そりゃ確かにそうだけど。でも紘深ちゃんの寝顔めちゃくちゃ可愛かったんだからね。」
紘深「市華さん何言ってるんですか~!」
良哉「ほら黒藤さんもそう言ってるよ…(苦笑)」
市華「でも良哉、紘深ちゃんの寝顔まだ一度も見たことないじゃん。興味あったりする?」
良哉「何言ってんだよ姉ちゃん…」
紘深「市華さんまたまた何言ってるんですか~!」
突然なことを言われて戸惑う一幕もあったが、食事は続く。
すると、姉ちゃんはこんなことを黒藤さんに聞いてきた。
「ねえ紘深ちゃん、紘深ちゃんってバイトしてる?」
「はい。『Delizioso』ってイタリア料理のお店でバイトしています。」
「あーそのお店私の職場近くにもあるよ。同僚とも行ったことあるよ。」
「そうなんですか!?市華さん確か名古屋の献血ルームの方でお仕事されていると聞いているんですが。近くにあるんですか?」
「そうだよ。本当にその献血ルームのすぐ近くなの!」
姉ちゃんはそう言って黒藤さんにスマホを見せる。
「わー本当だ!本当にすぐ近くですね!」
「でしょ?同僚にめっちゃDeliziosoマニアがいるのよ。」
「そうなんですか。なんだかバイトとして誇らしい限りです。」
「えへへ。紘深ちゃんが作ったパスタとかも食べてみたいな。」
「お待ちしてます。(笑)」
「明日はどうなの?」
「明日ですか?昼前からバイトです。」
「やったあ。」
その後も姉ちゃんと黒藤さんの話が続くが、そうこうしている間に食事は終わった。お会計を済ませ、お店を後にする俺たち。
紘深「次東京に来た時はぜひまたうちに食事に来て下さい。」
市華「うん!またね紘深ちゃん。」
紘深「はい!」
その後は家に戻る俺たち。姉ちゃんは他の東京のスポットは巡らず、後はうちで過ごすようだ。
そこで俺はふと、気になったことがある。
「ところでさ姉ちゃん、さっき黒藤さんが明日バイトに行くかどうかとか聞いとったけど、それがどうかしたの?」
「それって?当たり前じゃん。行くんだよ。」
「行くって、まさかDeliziosoに?黒藤さんがいる時間狙って?」
「そうだよ。」
「マジかよ。」
てなわけで、明日は姉ちゃんとDeliziosoに行くことになった。俺は藤堂と一緒に初めてDeliziosoに行った時のことを思い出していた。
(スーツ指定じゃないだけ、まあいいか。)