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上京男子と地方局マニアの女子  作者: 白石あみの
~夏休み・良哉帰郷編~
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第125話「黒藤紘深の喫茶店観察日記」

名古屋に着いた俺たち。

「よっし名古屋着いたー!」

「うん!」


さて次はここから東海道線に乗って岐阜…

と言いたいところだが、俺たちにはその前に寄るところがある。


「で斎藤君。その前に寄るところがあるんでしょ?」

「ああ。朝飯だ。」


岐阜の前に寄る場所、それは俺が帰省の度に毎回寄るようになった、栄にある喫茶店だ。

新幹線の改札を出て、コンコースを歩く俺。途中の電光掲示板やらこの後使う東海道線の乗り換え改札を見るたびに、「やっぱり懐かしい」という気持ちになる。


「どう斎藤君?やっぱり懐かしい気持ちになる?」

「ああ。この感じだよこの感じ。『名古屋に来たんだなぁ』って。」

「うふふ。」


そう話しながら歩くこと数分。

「出入口 9」「地下鉄東山線」

と書かれた看板が見えた。俺は地下に続く階段を下りて地下鉄東山線の改札に着いた。世間は普通の平日ゆえ今回も通勤時間帯だから、改札口の写真を撮ることはできなかった。


ICカードをタッチし改札に入る俺たち。

「黒藤さん名古屋の地下鉄は初めて?」

「うん。」

黒藤さんは名古屋の地下鉄は初めてなようだ。キャリーケースを転がして、俺たちはホームに着く。


「あ!これ東○ラジオの!」

黒藤さんは、ホームに掲出されていた東海ローカルのラジオ番組の広告を見つけた。

「これか。黒藤さんよく見つけたねこんな混雑した状況で。」

「へへーん。」


すると、

(接近メロディーの音)

「東山公園方面。藤が丘行きが参ります。ホーム柵から離れてお待ちください。女性専用車両は―」

これまた懐かしい感じになれる接近メロディーとアナウンスが流れる。そして電車がホームに入線してきた。


「栄ってここから何駅だっけ?」

「2駅だよ。」


俺たちは電車に乗り、栄に向かう。通勤時間帯ということもあって、俺たちの周りはほとんど仕事や学校に行く人だ。


電車に乗ること5分ほど。

「まもなく、栄、栄。お出口は、右側です。―」


栄駅に着いた。ここから地上に出る。

「ここが中日ビル…」

と黒藤さんが言っていた。


邪魔にならないところで目的地のカフェの場所を検索する俺。黒藤さんもスマホの地図を見ている。

「あっちに東○テレビと東○ラジオがあって、向こうにC○Cがあって… N○Kは反対側だったっけね。」

と言っていた。


「あっちだ。」

「あっち?」

「うん。」

「東○テレビの方向じゃん。すぐ近くかな?」

「そんなすぐ近くって訳でもないけどね…」

俺は黒藤さんをカフェまで案内する。そのカフェはここから久屋大通公園とは反対方向に歩いて10分弱のところにある。黒藤さんが言っているテレビ局のすぐ近く…という訳ではないが。


「よし。ここだ。」

「これが斎藤君の言っているカフェ。 なんだか家庭的でいいね。」

「黒藤さんもそう思った?俺もそう思って、最初に帰省した時ここを選んだんだ。」

「あー写真見た見た!」


店に入る俺たち。

「いらっしゃいませ。あら。お久しぶり。」

「お久しぶりです。」

マスターの奥さんは俺を覚えてくれていたようだ。覚えてくれるのは嬉しい。


「斎藤君、お店の人に顔覚えられてたね。」

「まあ帰省の度に毎回寄ってるからね。じゃあ、席に着こう。」

「うん。あそこの隅の窓際の席なんてどうかな?」

「じゃあそうするか。」


俺たちは席に着く。メニューが席に常備されているのも相変わらずだ。


「ねえねえどれにする?」

「ここはやっぱり小倉トーストにブラックコーヒーでしょ。」


「小倉トーストセット ドリンク自由に選択可」を選んだ俺。値段も480円のまま変わってないのが嬉しい。


「すいませーん。」

「はーい。」

マスターの奥さんがこっちに来た。

「ご注文は?」

「小倉トーストセット。ドリンクはブラックコーヒーで。」

「私も同じので。」

「分かりました。しばらくお待ちください。」


店の奥に行ったマスターの奥さん。店の中はサイフォンでコーヒーを沸かす音が聞こえている。


「黒藤さん、大学以外のカフェで食事するのって初めて?」

「うん。それも朝ご飯だからなんだか新鮮だなぁ…」

「そりゃそうでしょ。どう?この新鮮な感じ?」

「不思議な感じもする。」


するとしばらくして、

「お待たせいたしました。」

マスターの奥さんがこっちに来た。

「こちら、ご注文の小倉トーストセットとブラックコーヒーになります。」

良哉「ありがとうございます。」

紘深「いただきます。」

「ごゆっくりどうぞ。」


さあ、朝食の始まりだ。


「これでしょ?斎藤君が1年の頃の年末に岐阜に帰った時、私に写真送ってくれたのって。」

「そうだよ。」

黒藤さんはそう言って、トーストとコーヒーを写真に収める。


「じゃ、いただきます。」

俺も席に常備されていたガムシロップを1つ取りコーヒーに入れて、一口飲む。


(これこれこの感じだよこの感じ…)

サイフォンで沸かしたコーヒーの味が、早起きと旅の疲れを一気にリフレッシュさせてくれる。


「どう?」

「うん。コーヒー、とてもコクがあって美味しい。」

「サイフォンで沸かしてるからね。そりゃそうでしょ。」

「だね。」


黒藤さんはトーストの方にも興味津々な様子だ。


俺は次は小倉トーストを一口食べる。初めて来た時と変わらない、トーストの香ばしい味とあんこの甘味が口いっぱいに広がる。


(そうそうそうだよこの感じこの感じ…!)

本場のモーニングの小倉トーストの味はとても美味しい。


黒藤さんもとても満足そうな顔をしている。はっきり言って、可愛い。

「どう黒藤さん?トーストの味は?」

「うん!トーストはとても香ばしいし、あんこも甘くて美味しい!これが名古屋の本場の朝の味ってやつ?」

「ああ。岐阜にいた時もなんどか喫茶店で朝ごはん食べたことはあったんだけど、やっぱり名古屋の喫茶店で朝ごはんは違うね。初めてここ寄った時は感動しちゃったよ。」

「そうなんだ。」


するとそこに…

(交通情報の音楽が流れる)

岐阜にいた時よく聞いた、交通情報の音楽が流れる。

黒藤さんが

「あ!この店C○C流してるんだ!」

と反応したのは、

「C○C交通情報です。」

とパーソナリティーの人が言う、少し前のことだった。


「黒藤さん。よく分かったね最初の数秒で。」

「うん。YouTubeでよく聴いてたから。」


ラジオの交通情報や気象情報では聴き慣れた東海3県の地名がポンポン飛び出す。これも俺が名古屋の喫茶店で朝食を食べる時の醍醐味というやつだ。


食事は進む。黒藤さんは喫茶店に興味津々な様子だ。

「店の中涼しくていいね。」

と黒藤さんは言う。

「ああ。じゃないとあんな外が暑い中でホットコーヒーが飲めるかってんだよ。」

「それもそうだね。」


すると…

「お客さん。」

マスターの奥さんがこっちに来た。

「マスターの奥さん。」

「また来てくれてありがとうございます。」

「いえいえ。今回も帰省ですので。」

「こちらの方は?」

「あ、友達の黒藤さんです。」

「はじめまして。トーストとコーヒー、とても美味しいです!」

「ありがとうございます。嬉しい限りです。」

マスターの奥さんはとても嬉しそうな顔をしている。


「そうだ。このお店、C○Cラジオかけてましたね。」

「あら分かっちゃいました?」

「はい!」

「もしかしてあなたも岐阜であった人?」

良哉「そうじゃなくて… 実は前話した、『東京で会った地方のテレビやラジオが好きな友達』、実は彼女のことなんですよ。」

紘深「えへへ…」


俺はマスターの奥さんと話を続ける中で、初めてここに来た時のことをいろいろ思い出していた。


「あらそうだったんですか?とても面白い趣味をお持ちですね。」

紘深「ああそれ、たまに言われます(苦笑)」

「やっぱりそうですか。」

良哉「ついさっきも交通情報の音楽の頭の部分だけで、ここでかかってるのがC○Cってことを見抜いてたんですよ。」

「それはとても凄いですね。」


黒藤さんはとても得意そうな顔をしている。

「それで斎藤さん、趣味のカフェ巡りの方はどうですか?」

「まあ、ぼちぼち行けてます。」

「そうですかそうですか。大学の授業の方は?」

「ああ… 俺も黒藤さんも、卒論に向けていろいろ考えているところです。東京に戻ったらまた国会図書館に行ってみようかなって思ってます。」

「来年は卒論だ就活だあるから、今年中思いっきり楽しんじゃおうと思って。斎藤君が実家帰るのについて来ようと思ったのも、その一環?なんです。」

「そうなんですか。斎藤さんのご実家、楽しめるといいですね。」

「はい。」


そうしてマスターの奥さんはバックヤードに戻ろうとした時だった。

「そうだ。あの、すいません。」

「はい。なんでしょう?」

「ちょっとトイレに行きたいんですが、トイレってどこにありますか?」

「トイレですか。あちらにあります。」

「ありがとうございます。斎藤君、荷物見てて。」

「了解。」


黒藤さんは席を立ってトイレに行った。

そしてトイレから出てきた黒藤さんは、カフェのあちこちを(他のお客さんの邪魔にならない程度に)観察するように見て回っている。天井のシーリングファンを写真に収める一幕もあった。


席に戻ってきた黒藤さん。

「ラジオの受信機も見てみたかったなあ…」

なんてことも言っていた。

「それは普通バックヤード?の方にあるからダメでしょ(苦笑)まあ、それはそうと、名古屋の朝の喫茶店がどのようなものか分かった?」

「うん。朝がやっぱりいいね。」

「そうでしょ?」


こうして食事を終えた俺たちは、お金を払って店を後にする。

「またおいでください。」

「はい。」


栄駅まで戻る俺たち。すると、

「ねえ斎藤君。」

「なに?黒藤さん。」

黒藤さんが口を開いた。

「さっき私の事『東京で会った友達』とか言ってたけどさ。」

「うん。」

「そこは堂々と『彼女』って言っちゃえばよかったのに(笑)」

「奥さん相手にそんなウソつけるかよ…」


まあ何はともあれ、次はいよいよ、岐阜の実家だ。


(接近メロディーの音)

「2番ホームに、名古屋方面、高畑(たかばた)行きが参ります。ホーム柵から、離れて、お待ちください―」

さあ次回はいよいよ2人がついに岐阜の地に足を踏み入れます!

お楽しみに!

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