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上京男子と地方局マニアの女子  作者: 白石あみの
〜3年生・夏休み編〜
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第114話「浴衣が似合う人」

(もうあと3日か…)

大学はついに夏休みに入り、黒藤さんと栃木に花火を見に行く日まであと3日になった。


夏休みに入って、今日のバイトは夜から。俺は夜まで暇だ。


(黒藤さん、きっと浴衣着てくるんだろうなあ…)

なんてことを俺はふと考えていた。


しかし…

(待てよ… 俺浴衣持ってたか…?)

俺はタンスの中を調べた。


(やっぱりないか…)

やっぱり俺は浴衣を持っていなかった。花火大会に行くのに浴衣がないというのは風情に欠ける。


(じゃあ買いにでも行くか…)

俺は家の最寄り駅前のショッピングモールに行くことにした。この辺で浴衣といえばそこ一択だからだ。


(えっと浴衣のコーナーは…ここか…)

浴衣のコーナーはイベントスペースにあった。そこに行くのは初めてだ。


(へーいろいろあるんだな…)

俺は浴衣というものを意識したこと自体、今回が初めてだ。俺も地元の花火大会や夏祭りは行ったことがあって浴衣を着たこともあるが、浴衣は母さんが着せてくれるから着ただけだったし、小学校高学年になってからは浴衣ではなく普通の服だった。


するとそこへ…

「お客様?いかがなされました?」

店員さんが俺のところに来た。

「ああ。 今週友達と花火大会に行くんで、それに着て行く浴衣を探していまして。」


すると店員さんは、

「試着することもできますよ。」

と言った。


といってもどれから着ていいか俺は分からない。とりあえず…


「じゃあまずこれにします。」

俺は黒一色にグレーの帯のものを選んだ。

試着室に入り、俺は服を脱いで浴衣を着る。


(えーっとこうやるんだったっけ?)

自分で帯を結ぶのはちょっと難しい。スマホで検索した画像を基になんとか結べはしたが、ちょっと時間がかかってしまった。

(こりゃネクタイの方が断然楽だな。)

と俺はふと思った。


(うーん。我ながらなんか渋くてカッコいいなぁ…)

と俺は思った。


(さあ、店員さんは何を思うか…)

と思い、俺は試着室を出る。自分が試着した服を家族以外の誰かに見てもらうってのは、今回が初めてだ。


店員さんは

「お客さんお似合いですね。この… 黒い色が髪の毛の色と相まってよくマッチしている気がします。」

と言った。初めての自分での浴衣の試着だが、なかなかいい評価が得られた。なんだか自信が出てきた。

(いや待て。まあでも気にしすぎることはない。この人は店員さんだ。黒藤さんや藤堂じゃないんだ。)とも自分に言い聞かせつつ。


「次はどれになさいますか?」

「じゃあこれで。」


俺は次は藍色に白いトンボ柄が入ったものを選んだ。

(よっし。)

試着室に入り、その浴衣を試着する俺。

(おっ。これもいいな。)

と俺は思った。


試着室から出る俺。

「どうですか?」

「こちらもいいですね。とんぼの白い柄が上手く生きている感じがします。」

「ありがとうございます。でもまだ時間あるからもうちょっと試してみようかな。」

「はい。ごゆっくりどうぞ。」


なんだか浴衣選びも楽しくなってきた。


(じゃあ次はどれにしようかな…)


しばらく悩んだ末…

(お、これなんか良さそう)

藍色と黒の中間くらいの色で、白い糸の天の川のような細かい刺繍がされているものを選んだ。


「これにします。」

試着室に入って浴衣を試着する俺。帯を結ぶのも、さすがに3回目なら慣れてくる。


浴衣を着終えて鏡を見る俺。

(お、なんかこれマジでいいな。)

藍色と黒の中間くらいの独特の色に白い刺繍が目立っていて、これはかなり似合っている感じがする。我ながら自信がある。


試着室を出る俺。

「どうでしょう?」

「はい。これもとても似合っています!特に、白い刺繍の模様の対比が特に似合っている感じがします。」


独特の色の布地に白い刺繍が目立っていい対比になっている。俺の思った通りだった。

「じゃあ、これにします。」


俺は即決も同然で、これを選んだ。

「でもお客さん、どれもお似合いでしたよ。」

「ほ、本当ですか?」

「はい。」

店員さんからどれも似合っていたと言われた俺。一見社交辞令とかリップサービスに聞こえるかもしれないが、店員さんのその目つきからその言葉は社交辞令やリップサービスのようなものではないように思えた。


「以上税込で6,600円になります。」

「はい。」

(金を払う良哉)

「またお越しください。」


金を払った俺は買った浴衣を手に店を後にする。

(俺、そんなに浴衣似合うのかな…?)

なんてことを考えながら。


俺は(自分が思っていた以上に)浴衣が似合うようだ。それを知った俺は、どことなく3日後の花火大会に自信が湧いてきた。少々高い買い物ではあったが、満足だ。


(念のため、帯を巻く練習でもしとくか。)

と思い、俺は帯を巻く練習を始めた。

(まあ、藤堂や北条さんが一緒だったら、花火大会のことともども絶対からかわれていただろうな。今日はこれでよかったんだよ。)

なんてことを考えながら。

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