第111話「検索が早すぎる」
もうすぐ大学のテストだ。藤堂の誕生日からしばらくが経ったそんなある日のこと。
良哉「お待たせー。」
幸太郎「おい遅えよ斎藤。」
紘深「待ってたよー。」
良哉「いやー感想用紙出すのに時間かかっちゃって。」
兎愛「よろしくお願いします。」
今日は4人で勉強会だ。
「じゃあ始めるか。」
勉強を始める俺たち。勉強会とは言っても、みんなそれぞれ取っている科目が違うから(学部が違う藤堂や北条さんはなおさら)やることはそれぞれ別で、何かヘルプがあったら自分ができそうなことを教えるという形を取る。
「あの、斎藤さん。これ取ってました?長束先生の生涯学習の科目なんですが…」
北条さんが俺に質問してきた。
「どれどれ?ああこれ俺も取ってたよ。」
「このくだりはどういうことなんでしょう…?」
「ちょっと見せて。」
俺は北条さんから渡されたノートを見せる。
「ああ。これはもしかしたら、生涯学習において博物館が果たす役割ってことだから、こういうことなんじゃない?」
俺は付箋に北条さんから聞かれたことの答えを書いてノートに貼り、北条さんに返した。
「分かりました。ありがとうございます。そういう役割もあるんですか…」
「どういたしまして。俺博物館の授業も今までに取ってるから。」
「そうなんですか。私気づかなかった…」
「家の近くに博物館あるのにね。まあ、俺も博物館は良く行く方だけどそれ習うまでは気づかなかったよ…」
「案外気づかないものですね…」
それからまたしばらくすると…
「ねえ黒藤。」
「どうしたの藤堂君?」
「学部違うから分からないとは思うけど、これってどういうこと?」
藤堂は黒藤さんにノートを見せてきた。経済学部の三好先生の科目であることは俺も分かったが、なにせ経済学部だ。文学部の俺にはさっぱりな内容だ。
「これかー。もしかしたら…」
黒藤さんはスマホを取り出し、なにか検索を始めた。
「これはこういうことなんじゃない?」
黒藤さんは検索結果が表示されたスマホを藤堂に見せた。それまでにかかった時間、20秒足らず。
「ああこれだよこれ!やっと謎が解けた!ありがとう黒藤!」
藤堂はその情報が欲しかったようで、黒藤さんに感謝していた。
良哉「黒藤さん… たった短時間で検索を… す、すごいね…」
紘深「そうかな?たまたま検索できるワードが多かっただけなんだけど?」
良哉「だとしたらなおさら凄いよ。俺も検索ヤスマホ入力は早いかなって思う方だけど、20秒足らずでそこまでできるってのは初めてだよ。」
紘深「だったら検索ワード見てみる?」
良哉「うん。見せて。」
黒藤さんはスマホを見せてきた。検索サイトの検索入力欄には3つもキーワードが入力されていた。回線状況とかのコンディションにもよるけど、俺ではとてもじゃないけど20秒弱では検索結果表示までできない。
「す… すごい…」
「えへへ。そこまで褒められたの初めてだな。」
「家族の手伝いで検索とかはするの?」
「うーん… 頻繁じゃないけど検索はよくするよ。」
「例えば?」
「魚の水揚げ状況とか。」
「お寿司屋さんらしいや。」
「えへへ。」
すると、北条さんが口を開いた。
「じゃあ、ここのこれはどういう意味だか検索して頂けますか?」
北条さんはそう言って黒藤さんにノートを見せてきた。
「任せて。」
と黒藤さんは言う。
「そんなの自分で検索できるだろ…」と俺が心の中で北条さんに突っ込んだのも束の間。
「はい。これでどう?」
黒藤さんはスマホを北条さんに見せた。
「ちょっとお借りします。」
北条さんは黒藤さんからスマホを借りると画面を少しスクロールして、こう言った。
「ああこれです私が欲しかった情報!ありがとうございます!」
「ふふっ。どういたしまして兎愛ちゃん。」
それからしばらくは勉強が続く。
すると、藤堂が口を開いた。
「なあ斎藤。さっきから思ってたけど、黒藤って検索早くね?」
「ああ。キーワード1つ程度とかはっきり分かっているものなら俺も早くできるけど、キーワード3つくらいで20秒弱は凄いよ…」
「そうだな… はっきりしてないのだと時間かかっちゃうよな…(苦笑)」
藤堂はそう言うと、何か検索を始めた。
「どうした藤堂?」
「ああ。今思ってみたら意味よく分からない語句があってね…」
「そうなんだ。」
すると…
「ねえ藤堂君。」
「どうした黒藤?」
「今藤堂君が検索してる言葉ってこれだったりする?」
「どれ?」
藤堂は黒藤さんのスマホを見る。
「ああこれこれ!黒藤お前マジですげえな。」
「えへへ。ありがとう。」
「人の検索勝手に見るなってツッコミはしないでおくよ。」
藤堂よりも早く検索結果を引き出した黒藤さん。黒藤さんは凄いと俺は思った。
「紘深さん。じゃあちょっと、大分のクロスネット?のテレビ局の前やってた番組一覧ってどうすれば見られますか?」
「分かった。ちょっと待っててね。あとスマホ貸して。」
「はい。」
黒藤さんは北条さんからスマホを受け取ると、それを操作して検索を始める。俺はまた「それくらい自分で検索しなよ」と突っ込んだ。
それからわずか15秒ほどのことだった。
「はい。」
黒藤さんは北条さんにスマホを返した。
「上から3段目にいろいろ書いてあるよ。」
「そうなんですね!ありがとうございます!」
北条さんはウキウキでそのページを見始めた。
「相変わらず検索早いな黒藤。どこのデータ人間だよ。」
そう突っ込んだ藤堂。「あ、藤堂もそれ見てたんだ。」と俺は思った。
また何か検索を始めた黒藤さん。俺は失礼を承知でスマホの画面に注目した。
(あ、そういうことなんだ。)と俺は思った。なぜなら、黒藤さんは高速で画面をタップしていた。その速さはなんと1秒につき大体10回ほど。
(素早い入力速度だなぁ…)と俺は思った。
思えば俺のスマホはタップとフリックの二刀流で、どっちの割合が多いかは気にしたことがないから分からない。
でも黒藤さんの検索が早いのは、この高速タップが大きいのかなと、俺は思った。
「ねえ黒藤さん。」
「ん?なに?斎藤君。」
「前にパソコン入力が早いねって褒められたことある?」
「あ。あるよ。中学の頃、技術の先生から。」
「やっぱり。(笑)」
この特技、もしかしたら黒藤さんは履歴書に書けるのではないか。俺はそんな気がする。
ちなみにスマホの入力について、幸太郎と兎愛はタップとフリックの併用で割合は半々です。
自分は専らタップ派ですが、たまに、というか稀にフリック入力を使うことがあります。




