表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/247

第105話「ガクショク放送部」

(へー明日リニューアルオープンか…)


俺たちの通っている大学には、タワーのカフェやいつもの学食とは別にもう1か所、「第二学食」と呼ばれる学食がある。

その第二学食は俺が入学する少し前から今まで建て替え工事を行っていて、ついに明日リニューアルオープンを迎えるのだ。


(ちょっと見てみるか)

俺はリニューアルオープン告知のポスターについていたQRコードを写真に撮り、大学の学食のページにアクセスした。


エビフライのセットにアジフライのセット、ラーメン、カツカレーといった、俺がいつも使っている学食に負けないラインナップをしている。

(どれもこれも旨そうだな…)

と思っていると、俺はふと一つの項目に目が行った。


「第二学食 放送部ランチタイム放送リクエスト受付中!」

という項目だ。俺はその項目をタップする。


「―ジャンル・年代に関係なく受け付けます!生徒の皆さんも職員の皆さんも奮ってご参加下さい!」

どうやら第二学食では12時台に「ランチタイム放送」なる放送を大学の放送部が担当していて、その中で流す曲を学生や職員からリクエストしているという。リクエストの受付フォームに飛ぶリンクもあった。


(面白いことやってんなー。)

小学生~高校までの昼食の時間のお昼の放送を思い出す。俺も何度かリクエストしたことがあったっけ。


(明日はそこで食事するか。きっと混むんだろうなあ…)


次の日。

「よっ。」

「藤堂。お前も来てたのか。」

第二学食に来た俺。藤堂も来ていたようで、俺は第二学食の入口前で藤堂にバッタリ会った。

「ああ。せっかくのリニューアルオープン当日じゃん?お前も?」

「あ、ああ…(苦笑)」


リニューアルオープン当日とあって、第二学食は人でいっぱいだ。藤堂はさっきいつもの学食の様子を見に行ったのだが、そっちは今日はあまり人が来ていなかったという。


良哉「いやみんな分かりやすすぎるだろ…w」


並ぶことおよそ5分。俺たちはやっと第二学食に入れた。

(めっちゃ腹減ったー。)


と思いながらエビフライセットの食券を買った俺。料理の受け取り口はどこも学食の列としては長蛇の列と言えるレベルで並んでいた。


そこに並ぶことさらにおよそ5分。俺はやっとエビフライセットを受け取って藤堂と合流し、上の階に移動する。


「藤堂は醤油ラーメンか。お前醤油ラーメンはあっち(いつもの学食)の方のは好きだよな。」

「こっちのも試してみようかと思って。いやあラーメンの列もすごく並んでたよ。」

「ああ。俺も列見てたけど、藤堂が全然見えなかったよ。」

(はた)からみたらそんな感じだった?」

「うん。」


上の階の食事スペースに着いた俺たち。俺は藤堂と隣同士の席に着く。

幸太郎「じゃあ食うか。」

良哉「ああ。よかったな上の階にも席があって。」


俺たちは食事を始めた。すると、近くのスピーカーから音楽が流れ始めた。

良哉(おっ、始まったか。)


放送部員A「突然ですが第二学食で食事中の皆さんこんにちは!本日リニューアルオープンした第二学食ですが、ここでは毎日お昼の時間にお食事中の皆さんに向けて我々放送部が楽しいランチタイム放送をお届けしてまいります!」


放送部によるランチタイム放送が始まった。あたりを見渡すと、たしかに放送に耳を傾けている人もいる。


幸太郎「へー。ここの学食お昼の放送なんかやってるんだ。」

と藤堂は言った。

良哉「ああ。俺昨日学食のホームページ見たんだけど、曲のリクエスト受け付けてたぜ。」

幸太郎「マジかお前知ってたんだ。」

良哉「たまたまだけどね。」

幸太郎「お前何かリクエストした?」

良哉「いや。」


放送部員B「それではまずリクエストを1曲おかけしましょう。」


放送部員によるトークが一段落し、リクエスト曲をかけるという。


放送部員B「それではまずは3年生のペンネーム『グリーンウィステリア』さんからのリクエストです。グリーンウィステリアさんは2曲リクエストしてくれているんですね。時間もあるので2曲とも流そうと思います。」


その曲が始まった。

(曲)

良哉「!!」

流れ始めた曲はなんと、俺も黒藤さんからその存在を教えてもらった、関西では(ドラマの時間を変えてまでやっているほどの)大人気の長寿バラエティー番組の主題歌だ。(俺の地元や首都圏でも流れているんだけど)


「藤堂。」

「ん?どうかした斎藤?」

「藤堂、今かかってる曲知ってる?」

「いや俺は知らないなあ…」


藤堂はその曲を知らないという。まあ俺だってその番組の存在を本格的に知ったのは黒藤さんに教えられてからだけど。


俺は確信した。「この曲をリクエストしたのは黒藤さんかもしれない…」ということを。ペンネームの『グリーンウィステリア』も黒藤さん説を大きく裏付ける。だって、「ウィステリア」(Wisteria)は、英語で「藤の花」を意味するのだから。


すると、司会の放送部員たちがこんなことを言い出した。

放送部員A「調べたところこの曲って、関西で人気のテレビ番組の主題歌みたいなんですよ。」

放送部員B「とすると、このリクエストをした人は関西出身の方でしょうか?」

放送部員A「そうでしょうね。」


俺は心の中で突っ込んだ。「いや、多分違うと思います。生まれも育ちも首都圏な、地方のテレビ局が好きな人です。」と。


曲が流れ続ける中、俺は藤堂に話しかけた。

「なあ藤堂。」

「どうした?斎藤?」

「今かかってる曲、リクエストしたの黒藤さんだよ。」

「ああ。ぶっちゃけお前もそう思ってた?俺もペンネームに『ウィステリア』ってある時点でそう思ってはいたけど…」

「それだけじゃないよ。この曲ね、関西では有名な番組の主題歌なんだよ。黒藤さんから教えられたんだけど。」

「じゃあなおさら黒藤がリクエストした可能性高いやつじゃんなw」

「ああ…w」


すると曲が終わり、放送部員たちのトークが始まる。


放送部員A「いやー関西出身の人にとっては懐かしさも感じられる曲だと思いますね。」

放送部員B「そうですね。自分母の実家が関西なんですが、その番組見たことあるんですよ。」

放送部員A「そうなんですか。きっとこれリクエストされた方も関西出身の方なんでしょうね。」


その一人目の放送部員の『リクエストされた方も関西出身の方なんでしょうね。』という一言に…

(良哉と幸太郎が笑いを堪えている)

俺たちは笑いを堪えるしかなかった。


「まあみんなそう思うよなあ…w なあ斎藤…www」

「実際は違うんだけどな…w」


放送部員A「それでは次の曲にいきましょう。次もまたグリーンウィステリアさんからのリクエストです。」


そして次の曲が流れ始めた。

(曲が流れ始める)

藤堂が

「これも関西の番組の主題歌なんじゃないの?」

と言うと…

放送部員A「―えーとこの曲は、関西の朝の情報番組だそうで―」


その放送部員の一言に俺たちはまた笑いを堪えることしかできなかった。


「お前当たりじゃんwww」

「図星だよ図星www まあ黒藤にもこういうしっかり?したところあるんだなwww」

「しっかりしたとことか言うなよwww まあでも別の地域の番組の主題歌にしたら放送部の人混乱しちゃうかもな。」

「多分『親戚の住んでいるところ』って処理…ってかされるんじゃないの?」

「それもそうか。」


俺は思った。「これ絶対に『懐かしい』と思っている関西出身の人も複数いるんだろうなぁ。」ということを。そう思うと余計にこの出来事が面白いと思えてくる。ある種のドッキリな気もしてきた。


放送部員B「ちなみにこのランチタイム放送は皆さんから愛称を募集します。近日応募フォームを公開しますので、学食のホームページをご確認下さい!」

放送部員A・B「それではまた明日お会いしましょう!さようなら!」

そしてそうこうしている間にランチタイム放送は終わった。


そしてその日の夕方…


「あ!斎藤君!」

「黒藤さん。」


俺は大学の図書館で黒藤さんに遭遇した。その黒藤さんはなんだか何かいいことがあったかのような雰囲気だ。まあ俺にはなんとなく察せるが。


「黒藤さん、今日なんかいいことあったの?」

「うん。―」

黒藤さんはこう続ける。

「第二学食の放送のリクエストが採用されたんだ。」

「ああ…(苦笑)それ実は俺も藤堂と一緒に聞いてたよ。」

「そう?ありがとう斎藤君!」

記念すべき初回のリクエストを飾った黒藤さん。その黒藤さんの表情はとても嬉しそうなものだった。はっきり言って可愛い。


「ちなみにだけど、黒藤さんはどこの席にいたの?俺たちは2階の席にいたんだけど。」

「1階の隅っこの方の席だよ。」


俺はついでに、何を食べたか聞いてみることにした。

「ちなみにだけど、黒藤さん何食べた?」

「釜玉うどん。斎藤君は?」

「マジか。俺はエビフライセットにした。旨かったよ。」

「本当?じゃあ明日食べてみようかな。エビフライしばらくぶりだなぁ…」



次の日。今日は藤堂は夕方から授業だから食事は俺一人。

(じゃあ今日はこれにするか。)

俺は釜玉うどんの食券を買い、そば・うどんの列に並ぶのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ