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第10話「東京支社の楽園」

紘深の父親、大智に促されるまま、紘深をテレビ局の東京支社巡りという名のデートに誘った良哉。


新橋・銀座を舞台とした、良哉と紘深の大冒険の始まりです!

寿司屋の一件から数日。俺は今新橋駅の蒸気機関車のところにいる。

理由は言うまでもない。俺は今から黒藤さんとデートをするからだ。

誘った時のことは今でも覚えている。それは3日前、ゼミの授業の終わりのこと。

「ねえ、黒藤さん…」

「あ、斎藤君!この間はうちに来てくれてありがとう!!」

「あ、あぁ… それでなんだけどさ…」

「なに?」

「今度一緒にさ、新橋と銀座行かない?」

「マジで!?私新橋と銀座一度行ってみたかったの!いいよー!」

「ちょ、声が大きい声が大きい…」


女子とお付き合いした経験のない俺にとって相当勇気がいることだ。しかもデート先は銀座だ。ゼミの授業の直後ということもあってその後の別の講義では、たまたま同じ講義を取っているそこそこ仲の良いゼミ生のやつに少しイジられてしまった。

(まだ連絡先交換していなかったとはいえあれは完全にタイミング間違えたな… あーなにやってんだよ俺…)

と思っていると…


(スマホの着信音)

黒藤さんからのLINE通知だ。

「着いたよー!」

そして黒藤さんがこっちに来るまで時間はそう何分もかからなかった。

黒藤さんは気が付いていなかったが、午前中大学で彼女を見かけた時なんだか凄く楽しそうな雰囲気だった。服装もかなり気合いが入っているように見える。よほど今日が楽しみだったんだろう。


「おはよー!」

「おお。おはよ。」

「見てみて。私今日ファッションに凄く気合入れちゃった!可愛い?」

明らかに彼氏に自分の服のチョイスを見て欲しい彼女のノリだ。

「ああ。とても明るいし似合ってるよ。」

デートの時の服装の褒め方を調べておいた甲斐があった。

「ありがとうー!じゃあ早速行こう!」


黒藤さんはかなりご機嫌な様子だ。自分も新橋・銀座周辺にあるテレビ局の東京支社の位置関係は大体調べたから道に迷う心配はない。


「で今日はどうするの?」

「この辺にあるテレビ局の東京支社に行けるだけ行っちゃう!タイムテーブルとかもらえるなら貰っていくよ!」

黒藤さんは本当にご機嫌だ。


俺たちがまず最初に訪れたのは、新橋駅のすぐ近くにあるちょっと変わった形のビルだ。そこには静○放送と山○○送、それぞれの東京支社が入っているという。

「なんかすごい形のビルだなー。」

とつぶやいている脇で、黒藤さんは夢中に写真を撮っていた。ビルの全体、そこかしこに掲げられている放送局のロゴマーク…

(怪しまれやしないかな俺たち…)

と思っていたのも束の間。黒藤さんがいない。

「あれ?」

と思っていると、彼女が警備員の人と話をしているのが見えた。

「ちょちょちょ…」

俺は慌ててそこに駆け寄る。

「あ、お連れさん?」

警備員の人が俺にも反応する。

「すいませんちょっと話に割って入るようで。ちょっと何してんだよ?」

「ん?タイムテーブルが欲しいから、許可取ってるの。」

「本社のロビーとかならわかるけど、さすがにそれは…」

誰でも自由に入れるロビーとは訳が違うんだ。言ってみれば単なるオフィスビルも同然のところ。就活でもない部外者がそうそう入れるところではないし、許可も下りないだろうと思っていると…

「分かりました。タイムテーブルをもらってすぐ帰るというのであれば大丈夫です。」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

なんともらったらすぐに帰るという条件付きではあるが、入っていいと言われた。

「ありがとうございます…いやマジか…」


そういって俺たちは放送局のタイムテーブルをもらった。それだけで終わるかと思いきや新聞まで買えた。親会社の新聞社の東京支社が併設されているからだという。山梨側でも黒藤さんは俺を脇に同じように許可を取っては、タイムテーブルをもらって新聞を買っていく。

「1回で2社分ももらっちゃったー!しかも新聞も!私こういうの初めて!」

「だな…まさか入れちゃうなんてな…」

「でしょ?ラジオだと駅のフリーペーパーに交じってタイムテーブルが自由にもらえるパターンもあるけどね。」

「あ、それなら見たことがあるわ俺も。」


支社とはいえ放送局のオフィスに入れてしまった。俺は今も実感がわかない。黒藤さんはご満悦の様子だったが。

と思っている間に次のところについた。KB○京○。その名の通り京都の放送局だ。やることはさっきと一緒。さっきと同じく新聞も置いている。そうこうするうちに新橋駅周辺に東京支社を置くところは全てコンプリートしてしまった。

「にしても新橋駅のまわりだけでもこんなにあったとはな…」

「ふふーん。まだまだ行くよー!」


俺たちは銀座方面へと向かう。その間にも富山・徳島・埼玉のテレビ局の東京支社に立ち寄ってはタイムテーブルをもらっていく。

気がつけば銀座の時計台が見えてきた。岐阜にいた頃もニュース番組のインタビューなどでテレビではよく見ていたが、生で見るのは初めてだ。

「これが銀座の時計台か…」

と写真を撮ろうとしたところ…

「斎藤君、行くよ行くよ!」

写真を撮る間もなく黒藤さんは、このすぐ側にある広島のテレビ局の東京支社へと俺を連れて行く。

「後でちゃんと撮らしてよね!この道通るんだし!」


またいくつか回って東銀座にたどり着いた。銀座駅からは500mも離れていない場所だ。

「うおおおお東銀座キター!」

東銀座駅の看板を目にした黒藤さんの目は輝いていた。無理もない。

「東銀座にはね、地方のテレビ局の東京支社がたっくさんあるんだよ!」

そう言って黒藤さんは印刷された東銀座駅周辺の地図を見せてきた。東銀座駅のすぐ側、歌舞伎座のすぐ周りだけを見ても5つものテレビ局の東京支社がある。

「言うなれば、『東京支社の楽園』!」

「お、おお…」


その5つの東京支社に全部訪れて、写真を撮ったりタイムテーブルを貰っていったことは言うまでもなかった。黒藤さんの歩みは止まらない。北海道、山陰、福島、宮城、青森、広島、新潟、鹿児島、熊本、長崎…


そうこうしている間に俺たちは築地市場駅のところまで来てしまった。新橋駅で見た高いビルが見える。このあたりには福岡と北海道のテレビ局の東京支社がある。

「じゃ、これでラストかな。」

福岡のテレビ局のタイムテーブルをゲットした黒藤さん。達成感に満ち溢れた顔だ。


帰りの地下鉄の電車の中。お互いのカバンはもらったタイムテーブルでいっぱいだ。スマホの歩数計を見たらなんと40,000歩を越えている。こんなに歩いたのは高校時代のウォーキング行事の時以来な気がする。


電車の中で黒藤さんは、俺にこんなことを言ってきた。

「ねえ斎藤君…」

「ん、なに?」

「今日は、つきあってくれて本当にありがとう。」

「ああ。この間のレポートの課題はもう出しちゃったし。俺は大丈夫だよ。」

「楽しかった…かな?斎藤君も。」

俺は黒藤さんに言われてみて気づいた。20以上のテレビ局の東京支社を巡ってきた中で、内心俺も「次はどこのテレビ局の東京支社なんだろう。」と楽しみになっていたんだということを。

「うん。なんか俺も楽しめちゃったな。新橋や銀座の周りにこんなにたくさんのテレビ局の東京支社があるのも初めて知ったし、それをたくさん巡る機会なんて一人でも早々ないかもしれないからね。」

「よかった。本当にありがとう。私も…すっごく嬉しい!」

黒藤さんの笑顔はまぶしかった。ただでさえかわいい黒藤さん。でも今の黒藤さんは、一段とかわいく思える。


「黒藤さんは、いつか自分の『地方のテレビ局が好き』という趣味を分かってくれる人と銀座で地方のテレビ局の東京支社巡りをしたかったのかもしれない。今日はそんな黒藤さんの願いが叶った日なんだなって。」

瑞寿司で黒藤さんと別れる時、俺はそう感じていた。

「今日は本当にありがとう!また明日ね!」

「ああ。また明日な。」



「あれ…?ど、どうしたんだろ。私…なんで…涙が…」

私は東京支社巡りはしたことはないんですが、地方に旅行した際にそのテレビ局の本社を訪れた事ならあります。


紘深と同じように、タイムテーブルを貰って行ったり写真を撮ったりしたものです。

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