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眠れぬ龍の夢  作者: 森 彗子
第8章
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祈り続ける巫女 1

この世のあらゆるもの達は

母なる大地から生まれてきた。


産声を上げたその時から

みんな自分の足で立ち上がり

自力で生きるために進歩を始めた。


魂の歌声からあなたは

やがて自分本来の道を思い出すだろう。


だけど運命は決して、あなたを縛ってなどいない。



 ◇◇◇



子守唄を歌いましょう。

安らかな気分になれるまで何度でも。


あなたの中にありあまる感情を

全てここに吐き出してごらん。


大丈夫、私が最後まで傍にいる。


たった一人で体験した恐怖も私に預けて。

あなたはもうこの閉ざされた世界から自由になれる。


私が力になるわ。

だからどうかお願い、もうこれ以上自分を責めないで。



あなたは私。

私はあなた。



境界線は消えて自由に行き来しましょう。


あなたが眠たくなるまで私はずっと歌い続ける。

もうあなたから離れないから、どうか信じて全てを預けてごらん。




痛みや恐怖という嵐が去った後は無残な荒れ地になるけれど、

何度目かの朝には季節の野花が咲いて美しさを見せてくれるようになるわ。


失ったものを取り戻そうとしなくても、もういいのよ。


あなたはなにも失ってなどいない。


あなたはずっとそのままであなただから―――――。




月が遠くで呼んでいる。

暗闇の中でぽつりと浮かぶ月が、あなたを見守っている。



よく目を凝らせばきっと



冴え渡る夜空には昴が無限に広がり



私たちのゆりかごの歌を共に聞きながら



眠りなさいと優しく誘うでしょう。




たったひとつの尊い光を感じるために

この一見終わりのなかった闇はそばにあった。



でもどんな闇の中にあっても

あなたという光は失われずにここにある。


大丈夫よ、私がもう見つけている。

私が最後まで見つめている。



あなたは一人じゃない。



一人になんてさせない。



いつまでもそばに居る。



あなたが眠れるまで ――――



 吹き荒れる風の中で自分が塵になっていくようで、本当は怖いけれど。


 弱音を吐こうとすればすぐに砕けて消えてしまうから、私は自分自身にも励ましと癒しの声を上げ、そして聞いていた。


 むき出しの傷から沢山の苦悶が溢れ出せばやがて治癒が始まるように、時間をかければどんな人も快方に向かい出す。


 今はそのことだけに集中する。


 小さな赤ちゃんはお母さんを探してあげる。

 お母さんもまた、失った赤ちゃんを探して探してクタクタになるまで探していて、漸く再会できた時の喜びと安らぎはとても大きくて、諦めなければ必ず帰るべき愛しい人の元へと導くことの重要さを実感した。


 死者の世界に時間の流れはあまり関係がない。


 彼らは何度も繰り返していた。


 理不尽な出来事の中で、自分はどうすべきだったのか正解を考えるために何度も地獄を再現しては自問自答をしていた。


 それをやめることは彼らにとっては大きな決断だから、励ますしかない。


 少しでも自分が今どこでどんな状況なのかを落ち着いた気持ちで見つめるためにも、私は会話を続けた。


 会話が彼らのパターンを解除する。


 他愛無い言葉が、彼らの心にわずかな変化を与えていく。


 生前好きだった歌を歌ったり、遠い記憶の中で聞いた子守歌を思い出したり。


 人は誰かとのふれあいの中で感じた安らかさを思い出すと、急速に自分に還ることができることも、私はこの時初めて知った。


 幼い頃、迷った時に私に声をかけ涙と共に不安を拭ってくれた野々花さんの存在が、私の孤独を癒してくれていたのだと気付いた。


 私は、一人じゃなかった。そう決めつけて自分の殻の中の世界に浸っていただけだった。


 このお勤めが終わったら、皆に会いたい。



 ―――― 晴馬に会いたい!



 心の支えがあるから頑張れる。



 帰る場所があるから頑張って乗り越える。



 どんなボロボロに変わり果てても、きっと晴馬なら私を抱き締めてくれる。



 その時を楽しみに夢見ながら、私は自分の体の変化に気付かない振りをしてしまっていた。



 強い想いを受け止めている間、思えば一度も水さえも口にしていなかった。睡眠も取っていないし、冷たい水に浸るような中にじっとしていて、全身が痺れていた。



 どれ程長い時間同じ姿勢でいたかな。



 わからない。



 感覚が、




 ない。






 痛みは愚か、暑さや寒さもわからなくなっていた。



 私はいまどうなっているんだろう?




 時々、我に返るけれど。


 すぐに掻き消されていく。



 私は生きているの?




 死んでないよね?



 

 応えの出ない問いかけは、




 虚しい





 私を撫でる手は百以上に思われた。


 無条件に手を取り、負の感情を吐き出して貰ってから天へと登るよう祈るだけ。まだまだ始まったばかりで、終わりが見えない仕事に感じられた。


 辛いと思った途端に自分が自分じゃなくなってしまう気がする。


 私の皮膚の下に彼らが忍び込もうとする。



 そんなことしなくても大丈夫だよ、と。

 いくら言い聞かせてもわかってくれない人もいた。



 疲労を感じるのも、危険。



 私が気を緩めたらあっという間に体の内側に入られてしまう。それは私の死が始まるということ。



 死が内側から私の魂を食べてしまう。



 それは絶対に防がなければ。



 私が消えた私の体を抱く晴馬の気持ちを想像するだけで、気狂いになりそうなぐらい悲しいから。




 だから、まだ。




 弱気になどなってられない!

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