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眠れぬ龍の夢  作者: 森 彗子
第7章
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眠れぬ龍の夢 1

 もしもまた生まれ変わるなら

 愛する人と生きる人生が良い


 人という生き方に疲れて

 一度は捨てた夢を再び掴みたい


 それはきっと君に出会えたおかげかな―――



 ◇◇◇



 ――― 燿馬と恵鈴と別れてから、ずっと感じるこの嫌な視線は何だ?


 俺には霊感という類のものは一斉ないが、ここに来た時からおかしい場所ってことぐらいはしっかりと感じていた。


 山の中にあるにしては酷く凝った屋敷の作り方は、短い期間で築き上げたものじゃないことぐらいわかる。正面入り口に作られた白い三角の形をした建物に目を奪われがちだが、密集した森林の中に隠されたように建造されたこの奇抜な屋敷は、人が住むためには作られていないことは明白だった。


 何かを隠すために建てられた。


 何か別の目的のためにぐるりと取り囲むような構造になっている。その真ん中にあるものが問題のものなのだろう。まるで墓場のような冷たい空気が下から上に向かって流れている気がする。


 芍薬の家紋を持つ白鷺の屋敷を見に行こうと、例の四つの扉に分かれている空間までやってきた。すると、再び宇都宮さんと遭遇した。



「待ってましたよ。晴馬さん」



 彼は軽やかな空気を纏い、場違いなほどにニコニコと嬉しそうに微笑んでいた。



「お嬢さんも、息子さんもご無事でなによりです」



 そういえば、いつの間にか俺のポケットに地図が入っていた。どういうことか聞かなくちゃと思っていたことを思い出した。



「あの、地図を……」


「そんな細かいことは良いじゃありませんか」



 俺の問いを被せるように彼は笑顔のまま答えた。



「夢中になっていて気付かなかったんですよ。晴馬さん、お嬢さんと二人でいる時は私の存在がまったく目に入ってませんでした」


「え?」



 いつだろうか?



 全く気付かなかった……。



「私は龍の居場所を探すためにこっちに戻って、そういえば他の皆さんがどうされているのか全く見えないので、ついでに探し回っていたんです。千歳さんもお手伝いの斉藤さんも、菱井さんも金田さんもいません。それに、白鷺さんも……梅田原一族まるごともぬけの空ですし、どうなってるんでしょうね?」



「みんな、どこに行ったんだ? あんなに大勢いたのに?」



 言われるまでもなく、それはずっと感じていた。あの狂気の宴から全く見かけていない。梅田原凱彦と西極の爺さんと、力仕事担当のいかつい男二人しか見てない。他にもかなりの人がいたはずなのに、しんと静まり返っていて不気味なぐらいだ。



「ここは時々、人が突然消えるんです。まるで初めから誰も居なかったみたいに……」



 宇都宮さんは寂しそうにつぶやいたが、俺はすぐに言っている意味がわからなかった。そして深く考えようともしなかった。この時は―――。



 ――― それにしても、はやりこの屋敷はおかしい。



 地図を広げると、それぞれの家から地下に入れそうな扉が確認できた。



「どこの同じような造りって言っていたが、このドア。地下に通じてるんだよな?」



 宇都宮さんは覗き込んでから「そうです。波戸崎家は白鷺家と共有してますけどね」と付け加えた。



「そもそもなんで四つの家なんだ?」


「それはきっと、台座には足が四つと決まっているからですよ」


「台座?」


「さっき、梅田原家の書斎で読書してきたんですが、梅田原はその昔大陸から禁断の書物をこっそり持ち込んだんだそうです。それで、強い好奇心に負けて禁断の実験を繰り返していた……。


 江戸初期の頃は、国盗り合戦に負けた猛者達が命だけは絶やすまいと山奥に引っ込んでひっそりと暮らしていたんでしょう。そこに目を付けた梅田原の先祖は、とある呪術をプレゼンしたようです。


 家族を犠牲にして作った呪い箱を、繁栄する敵国の家に献上される品物に忍ばせる。女子供が謎の死を遂げさせるその箱は、特殊な技法で作られた魅力的な箱だったそうです」


「呪いの箱って、そんなに種類があるのか? そんな物騒なもの、どうやって処分すんだよ?」



 聞くに耐えない内容だとはわかったが、そうした呪いはどうすれば解けるのか。その方法さえわかれば良いと思い、俺は縋る気持ちで宇都宮さんの目を覗き込んだ。


 彼は白い顔をくしゃりと満面の笑みに変えた。次の瞬間―――、突然砂の城のようにストンと崩落した。



「うわ!!」



 驚いて後ろに飛びのくと、芍薬の印がついたドアから白くて長い影のようなものがするりと入ってきて、俺を取り囲むように周りを回り始めた。



「な、な、なんだ!!?」



 俺の叫びが方々からこだまする。


 白い影の色が濃くなっていく。


 そして俺はいつの間にか真っ白い空間にポツンと一人で突っ立っていた。




 足元や天井までもが白くて、宙に浮いているような不思議な感覚だ。



 ――― おいおいおい……、何が起きてるんだ……??



 手を伸ばしても何に触れることもできない。


 一体、どうなってるんだ?



 すると、突然ドドドドドっと激しい音がしたと思ったら俺のすぐ真ん前に、見たこともない大きな獣の頭が現れた。



「……………!!」



 驚き過ぎて言葉が出て来ない。



 その獣は鼻先を俺のすぐ前まで寄せてきて、大きな瞳を見開いたと思ったら、爬虫類のような瞳孔を鋭く動かして、何度か瞬きをした。



 ――― 見られている!! 


 

 そう思ったら突然、今度は声が聞こえ始めた。



「お前はだれだ?」



 頭の中に直接語り掛けてくるような不思議な感じだった。



 ――― 目の前の獣が俺に誰かと尋ねているのか?



「……俺は、東海林晴馬だ……」



 正直、かなりビビッていたが名乗るだけ名乗っておこうと思って馬鹿正直に答えてしまう。言った後で後悔した。良くないことが起きたら、と不安になる。



「よい。自分が誰かわかっているならば、それでよいのだ」



 獣は少し左右に頭を揺らしながら顎を動かさずに、ゆっくりとした瞬きを繰り返しながら、俺から一度も目を離すこともなく続けた。

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