双玉の龍
『10年後の初恋』の主人公二人が挑む、伝奇ミステリー。
預言の力だけではなかった―――
秘伝の力を手に入れる時、忌まわしい過去の歴史に心を黒く塗りつぶされる。
◇◇◇◇◇
白木の三方の上には白い和紙と短刀。その柄と鞘は豪華絢爛といった言葉がふさわしいほど手の込んだ刺繍が一面に施されている。描かれているのは、白い龍と黒い龍。互い違いに長い体を張りつかせ、蜷局を巻き、鼻先を付け合わせ、同じ表情で見つめ合っている。良く見れば、目の色、手の大きさや配置、長い爪に握られた珠玉までもが全くもって同じもののようだ。二頭の龍の周りでは吹き出されたような白雲がたなびいており、空高く飛び回る様子を描いている。短刀の刺繍は金糸によって黄金色に輝き、正に宝物といった風情だ。
これは事実、この家に代々伝わりし家宝。
直接肌に触れて良いとは思えない妖気を感じ取り、私は自前のハンカチ越しにその短刀を掴み持ち上げた。その瞬間、細い縫い針が血管の中を遡るかのような鋭い痛みを感じた。赤く生々しい薄い膜の中を、まるで流れるように突き進んでいく光景が浮かび、白く焼き尽くす光が目の前で破裂。と、同時に意識を失いかける。
―――まさか、本当に、本物の呪いがあるだなんて、信じられない!
実物に触れた途端、私の内側へと流れ込む沢山の記憶、遺物に封じ込められた誰かの思念が一斉に襲い掛かってきた。内なる世界と外側にある世界の境界線は、その衝撃によって脆くなった砂糖菓子のようにボロボロと崩れ落ちていく。
「嗚呼……、晴馬」
ここにいない愛する人の名を唱えながら、私は昏倒に身を任せ、抗うことも出来ずに意識を手放した。