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5◇シルフ◇◇◇6◇エアリエル


 白い雲、青い空、緑の草原。

 サザザと草を鳴らして吹きわたる風。

 風が小さく渦を巻いて集まり形になる。

 風の渦の中から現れるのはひとりの少女。


「ハーイ」


 片目をつぶってウインクひとつ。


「四大精霊がひとつ、風の精霊シルフだよー」

 

 歌うように話しかけてくる。


「シルフってやっぱ可愛い女の子なんだ」

「可愛い? えへ、可愛いかぁ」


 目を細めてにへへと笑う女の子。


「改めて面と向かって言われると、当然と分かってても嬉しいねっ」

「ウンディーネがお姉さんぽくて、シルフの方は女の子って感じで、分けてるのか?」

「それは風が自由で気ままってイメージから来てるのかな? だけど昔はシルフが男性形でシルフィードが女性形の呼び方だったり」

「え? そうなのか?」

「今はそういう呼び分け方はしないかな」

「え? じゃあ、もしかして男の娘?」

「あ、それ、ネタとしてありかもー」

「自分でネタって言っちゃうのか」

「精霊には基本、性別は無いんだけどね。パラケルススのシルフだと人間と妖精の中間なんだけど、今じゃすっかり女の子よ。これはバレエ、『ラ・シルフィード』のイメージからかしら?」

「バレエの演目なのか、全然知らない」

「そっちでは人に恋する悲恋の風の精よ」


 言いながら空中を泳ぐように俺の回りを一周する。なんだか気持ち良さそうに翔んでいる。

 長い髪が風の中でふわふわ踊ってる。


「なんか、いいな」

「何が?」

「空を飛ぶっていうのが。空を自由に飛びたいなって歌を思い出す」

「ストレスでもあるの?」

「まぁ、ちょっとは。仕事とか、人間関係とか」

「果ての無い空を、どこまでも遠く、どこまでも高く。大地から離れてどこまでもどこまでも。そんなふうに逃げたくなるくらい?」

「風の精霊ってのはそんな憧れもあるのか。だったらやっぱり少女の姿、がしっくりくるのか」


 自由に、思うままに、元気が溢れるままに、興味が向いたところに、駆けていった子供の頃を思い出して。


「風の向くまま、気の向くままに。風来坊っていうのもいいよなぁ」

「風任せの生き方がお好み?」

「歳をとるとできなくなることだし」

 

「カンシャク持ちの女の子の魂が、死後に天に昇れずにシルフになるっていうのもあるわね」

「それだとシルフって怒りっぽいってことになるのか?」

「そういう面もあるわねー。あとは空を自由に飛ぶところから戦闘機の名前につけられたりとか。スーパーシルフって知ってる?」

「戦闘妖精! 星雲賞!」

「トム・ク〇ーズ主演で実写映画化って実現するのかしら?」

「アメリカの映画会社が権利を持ってるって聞いたことあるなぁ」

「あとはウェブコミック?」

「キュン萌えトキメキー!」

「みんな妖精の名前をつけるの好きなのねー」

「そうなのかも」

「でも、ティッシュペーパーに風の妖精って名前をつけるのはどうなの?」

「エリ〇ール、か? ふんわり軽くて柔らかいってしたかったんじゃないか? あれ? エアリエルってのは大気の精霊? それとも風の精霊?」

「聞いてみよっか。エアリエルー!」


「呼んだー?」


 いきなり出てきたのはちっちゃい妖精。


「これがエアリエル?」

「そうよー。ちっちゃ可愛いでしょ?」

「自分で言っちゃうか」

「エアリエルはシェイクスピアのテンペストで広まったのよ」

「へぇ」

「それで、エアリエルと言えば、身体が小さくて優雅で美しい翼があって、火と水と風の中を自由に飛び回って、姿を消したり、イタズラしたりする陽気な妖精、なのよー」


♪蜂と並んで蜜を吸い

 寝床にするのは草桜

 フクロウの歌が子守唄

 コウモリに乗って空を飛び

 楽しい夏のあとを追う


「その歌がテンペスト?」

「五幕のところねー。でもテンペストだと魔術師プロスペロの使い魔だから、自由って感じでも無いかな? プロスペロに助けられて使い魔になるんだけど、年季が明けるまでは自由に遊べる日を夢見て歌うの」

「なんかせつない話になった?」

「優しくて繊細な女の子なの」

「それ、自分で言うのか? で、風の精霊がシルフで、大気の精霊がエアリエルなのか?」


 シルフとエアリエルがキョトンとした顔で見つめ会う。

 シルフが首を傾げて考える。


「西洋魔術の空火風地水の五元素に対応させると、エアリエルが空、でシルフが風になるのかしら?」

「いや、その辺りがどうなのかって」

「どうって聞かれても、設定とか分類とかするのが好きなのが人でしょ? 私たちにはそれは解らないわよ?」

「あ、そうなのか?」


 エアリエルが翼をパタパタさせる。


「エアリエルもシルフも風の精霊よ。ただ、エアリエルはテンペストの中では魔法使いの使い魔になってたり、ポープの髪盗人の中ではシルフの一団の隊長の名前がエアリエル、だったりするの」

「ん? じゃあシルフという種族の中の、ひとりの個人名がエアリエル、なのか? エアリエルって名前だったのか?」

「ミルトンの失楽園だと、反逆天使ね」

「なんかいきなり強そうなのが来た! 精霊じゃなくて天使なのか?」

「天使なんだか妖精なんだか精霊なんだか?」

「いや、そこを教えて欲しいんだけど?」

「そーゆーのは書いた人に聞いて」

「作者はいつの時代の人なんだよ? もういないだろ」

「じゃあ、原作を読んで学ばないと」

「はいはい、勉強不足ですいませんねぇ」


 とりあえず四大精霊の風がシルフで、大気と風の妖精がエアリエルってことでいいのか? 二人ともその辺、あんまり気にして無さそうだけど。もとが風のように自由だからか、細かいことは気にならないのか。


「風の精霊、風の妖精ってことで可愛くなってるのが多いからね」

「私達、何処でも美少女だもんね」


 楽しげに笑い、ふわふわ、ゆらゆらと、重力とも関係無く宙に浮き、クルクル踊って歌を歌う。


♪枝から垂れた花々の下

 愉快に遊んで暮らすのさ





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