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4◇ノーム


 森の中、大きな木が生えている。

 その木の根本に20センチくらいの小さな扉がついている。

 その扉が開いて中からなにか出てくる。


「お、来たかの」

「今度は小人か?」


 身長15センチくらいの立派な髭の小さなじーさんだ。


「ポケッとしとらんで、ほれ、中に入ってこい」

「どうやって? サイズが違い過ぎるだろ」

「小さくなりゃいいじゃろ」

「無茶言う……な?」


 あれ? 目の前には木の扉が、だけど大きさが普通、髭のじーさんも俺より頭ひとつ小さいくらいで。

 お? 俺が縮められた? 小さくなった?


「突っ立っとらんで中にお入り。開けっぱなしじゃ寒いじゃろ」

「あ、あぁ。これ、あとでもとに戻してくれるのか?」

「オベロンから聞いとるわい。話が終わったらもとに戻してやるから安心せい」

「じゃ、おじゃまします」


 これは魔法か? いきなり俺の身長を小さくするとか。妖精の世界はなんでもありか?


 扉を開けて中に入ると暖かい。


「ほれ、座れ。今、茶を淹れるからの」

「あ、どうも」


 椅子に座って部屋の中を見る。木の根本の中の妖精の家。ファンタジーというか、童話というか。なんか奥の方にでっかいネズミがいる。俺が小さくなってるからなんだろうけれど、馬みたいに背中に乗れそうなネズミだ。


「あれはペットじゃよ」

「ネズミをペットにしてんのか?」

「レミングじゃよ」


 髭のじーさんはドングリを手に持つ。小人だからドングリも俺の頭ぐらいある大きさだ。じーさんはドングリをポイと投げるとレミングは器用に前足でキャッチして、かじり始める。慣れてる。随分とデカイけどペットなのか。


 お茶を持ってきてテーブルを挟んで座るじーさんを見る。

 赤くて長い三角の帽子に鮮やかな青い服。立派な白い髭がある。モッサモサだ。

 目を細めた人の良さそうなニコニコ笑顔。


「錬金術師パラケルススの四大精霊のひとつ。地の精霊。ワシがノームじゃよ」

「ノームって小人なのか」

「地の小人とも言われとる」

「四大精霊って、パラケルススが造ったのか?」

「四元素説はギリシアの哲学者エムペドクレースが言い出したもんじゃな。これがヨーロッパの科学者たちに伝わり、16世紀にスイスの錬金術師パラケルススは四元素説から四大精霊に辿り着くのじゃ」

「ということは、四大精霊って16世紀からか」


「地水火風なんて言うがな、小ネタになるが西洋魔術だと火風地水と言うたりする」

「順番が違うだけじゃ無いのか?」

「その順序が大事なこともある。これは軽い順に並べとるのじゃ」

「火が1番軽くて水が地より重いのか?」

「炎が燃える様子、煙の昇る様から火は風より軽い。水は地に染み込み地の下に潜るから、水は地より重い。実際の重量では無く、イメージの重さの順じゃな。現代人が重力を見つけて、重力を地に結びつける考え方で、地は昔より重くなっとるのかの?」

「なんか納得してきた。ファンタジー的な重量感か、それ、なんかいいな」

「ウンディーネって重い女じゃろ?」

「恋愛ではヤンデレらしいけれど、性格の軽さとか重さにも繋がるのか? それだと火って軽くてチャラい奴になるのか?」

「それはそれでおもしろいじゃろ」


 髭のじーさんはホッホッホと目を細めて笑う。


「ノームはウンディーネと同じで、今の扱いに不満は無いのか?」

「ノームは人気で活躍しとるからのう。あー、でも疑問に思うところはあるのう」

「なんだ?」

「同じ学園の生徒で、ノームだけはクリティカルヒット無効ってのはなんじゃ?」

「ダンジョン探索RPG! エクスー!!」

「ワシらをなんだと思っとるのじゃろうの?」 

「あれは確か、ノームは半霊体で首切り瞬殺できないって設定だったような」

「あれのなべのフタを錬金術で盾にするのとか好きなんじゃよ」

「あー、村正作るの苦労したなぁ……」

「足装備に、ウサギのあんよ、とかあったのー」


 このノームのじーさん、ずいぶんとマニアックなゲーム知ってやがる。いや、自分が出てる作品をチェックしてるだけなのか? エゴサーチ?

 もしかしてテレビゲーム好きなのかじーさん?

 ふむ、じーさん。


「なぁ、なんでじーさんなんだ?」

「ん?」

「ウンディーネは美女というか、若い女の姿だったけど、ノームはなんでじーさんの姿?」

「この姿がノームとして知られるようになったのは絵本がもとになっとるんじゃよ」

「絵本?」

「オランダのヴィル・ヒュイゲンと画家リーン・ボールトフリートが書いた絵本。これがヒットしてのう、その絵本にわしらのことが書かれておるんじゃ」

「へー、ギリシャ人の哲学者が思いついて、スイス人の錬金術師が考えて、オランダ人が書いた絵本で広まったのか。なんかすごいな」


「ただしこの本の原題は『Leven en werken van de Kabouter』というもので、カバウテルという単語が英語で出版するときにノームと翻訳されているんじゃよ。カバウテルはオランダに伝わる地の精で、オランダでは有名なんじゃな」

「ん? ていうことはその姿はオランダの地の精の姿ってことなのか?」

「カバウテルもノームも地の精で地の小人で似たようなもんじゃから、大きな違いは無いがの」

「なんかいいかげんだ」

「ホブゴブリンみたいな扱いだったら、ムッとするとこじゃがのー。あとは地の精霊として、地下に眠る財宝の在りかを知るとか、地下に隠された秘密の知識の守り手となっとる。いろいろと古いことを知ってるのは年寄りじゃろ?」

「そういうことでじーさんなのか?」

「リーン・ボールトフリートの絵でワシらのビジュアルが広まったというのが大きいの。赤い三角帽子、青い上着、黒いブーツ、白い髭、つやつやほっぺ、上着の色以外はサンタクロースに似とるかの?」


 確かに円らな瞳の優しいおじーさんという感じで、白い髭も立派だ。小人じゃ無ければサンタっぽい。


「焼き物のガーデンノームを庭に飾るのはイギリスであるが、最近は他の国でもあったりするしの」

「絵本のお陰でノームのじーさんイメージが広まって定着したと」

「もとの絵本の絵じゃと、中年のおばちゃんもおるがの。あとはノームの名前のもとになっとるのがギリシャ語の『地に住むもの』ゲーノモスとか、『知識』グノーシスとかじゃからの。ふむ、そうなると今の科学で言うところの遺伝子、ゲノムにもノームが潜んでおる、ということになるのかの?」

「まさかそんな設定でノームはSFにも進出するつもりなのか?」

「SFならとっくにノームは進出済みじゃわい。わしらの一族は宇宙に行っとるぞ」

「ノーム凄いな。いつの間に宇宙に」

「あれじゃよ、あれ。戦闘機がロボットに変形するやつで、歌姫やっとる、髪がピンクの」

「シェ〇ル=ノームは銀河の妖精だけど、絶対にノームの仲間じゃ()え!!」


 上機嫌に笑いお茶を飲む小人のじーさん。ノーム繋がりで歌姫まで一族に加えようとは、なんてじーさんだ。

 



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