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1◇ホブゴブリン


「まずはこの俺、ホブゴブリンだ」

「いや、いきなり言われても」

「ほら、解りやすくこの愛らしい姿の描写から」

「ええと」


 背丈は子供くらい。服は着ていない。

 上半身は肩から腕にかけては白い毛がフワフワだ。

 下半身は山羊のような2本の足。こちらも白い毛に覆われている。

 足首から先は黒い山羊の蹄のよう。

 頭からは山羊の角が2本ニョッキリ生えている。真っ白の巻き毛はクシャクシャで柔らかそう。イタズラっ子のような大きな目がキラキラしてる。

 肩には木の枝を集めて作ったような木のホウキを担いでいる。

 これがホブゴブリン?


「勝手にゴブリンの兄貴分みたいな扱いしといて、俺の存在全否定かよ。まずは謝れ」

「いや待て。これがホブゴブリンだっていうなら、今、広まってるイメージのホブゴブリンってなんだ?」

「それは俺が聞きたい。なんでだ?」


 目の前にあぐらかいて座るホブゴブリン。その拗ねたような顔を見てると、頭を撫でたくなる。

 ハロウィンでコスプレした可愛い男の子に見えてくる。その肩の毛とかワシャワシャしたい。

 ふーむ、このホブゴブリンについた悪役、ザコ敵のイメージ。


「やっぱりゲーム、かな?」

「ゲーム?」

「昔のテレビゲームは容量も少なくて、同じグラフィックで色違いを違う敵ってしてたんだ。ゴブリンとホブゴブリン以外だと、ケルベロスとオルトロス、他にはクーフーリンとタムリンっていうのも、同じグラフィックで色が違うだけだったり」

「スライムとスライムべスとか?」

「そうそう、なんだ知ってるじゃないか」

「あれってべスはいるのに、エイミーとかジョーはいないのな」

「若草四姉妹か?」


「そんなゲームのイメージが広まったせいでホブゴブリンは可愛くないやられ役になっちまうのかよー」

「でも、ホブゴブリンってゴブリンの仲間なんだろ?」

「じゃあ、ホブって何か説明できんのか?」

「いや……、知らない。ホブって何?」


「ゴブリンってのは子鬼で、まぁ悪役か。悪い子はゴブリンがつれてっちゃうぞー、と脅かす、そんな妖精譚」

「秋田のなまはげみたいなものか」

「こういうのは世界共通なのか? で、ホブっていうのは愛称みたいなもので、ロブとかロバートとかロビンってのと同じ意味合い。ロビンってのは小鳥ちゃんって呼びかけでもある」

「ということは、ホブゴブリンってのは『可愛いゴブリンちゃん』ってことなのか?」

「そーゆーこと。ゴブリンより人の身近にいる家つき妖精、それがホブゴブリンだ」


「家つき妖精って座敷わらしみたいな?」

「日本にも似たようなのがいるか。その家に住んで人が寝静まった夜中に家事とかする妖精だよ」

「家事、得意なのか?」

「肩に担いだホウキは働き者の証、俺のトレードマークだ。あと炉端のロブとか、ロビングッドフェローに、ロビンフッドもホブゴブリンの仲間だ」

「嘘ぉ」

「森から出てきてロブとかロビンって呼ばれる奴は、だいたいみんなホブゴブリンの仲間だ」


 ロビンフッドがホブゴブリン?

 ぜんぜんイメージが違う。


「ホッブって言うのがイタズラ妖精の種族名のひとつ。ホッブメン、ホッブヤー、ホッブスラスト、なんて呼び方もある」

「ホッブ、というのが頭についたゴブリンは、つまりいいゴブリンってことか?」

「ホッブヤーだと黒い犬を怖がる悪いゴブリンだけどな。あと、ホッブメンだとかなり幅が広い。さっきのロビングッドフェローもそうだけど、アイルランドのプーカ、スコットランドのシルキー、マン島のフォノゼリーもホッブメンになる」

「シルキーは、なんか違うんじゃないか?」

「その違うの根拠はなんだよ? ちゃんと俺達のことを知ってから小説のネタにしろよ」

「……まあ、確かに。俺の知ってる妖精知識が、ゲームとマンガばっかりだから、そのもとを調べてみたいとは思ってたけど」


 仕事が忙しい。働かないと生きていけないと、仕事が終わればグッタリして勉強する気力が失せる。そんな日々。

 目の前のホブゴブリンは調子が出てきたのか、イタズラっ子のような目をキラキラさせて語る。


「パックとも同種の妖精って言われる。見た目はギリシャのサテュロスに似てて、ホウキを担いで踊ってる姿で絵に描かれるのがホブゴブリンだ。解ったか?」

「あー、うん。解った。だけど1度刷り込まれたイメージって、簡単には変わらないから。今はゲーム的なゴブリンを大きくして強くしたのがホブゴブリンってことになってる」

「さすがホワイトシャツをワイシャツって聞き間違えたのを、そのまま日常で使ってる日本人だ」

「俺が勉強不足だったのは謝る。ごめんなさい。だけどそれで俺にどうしろって?」

「可愛いホブゴブリンが主役のほのぼの系ファンタジーを書いて広めればいいんだよ」

「無茶言うなや。それでホブゴブリンってどんな妖精なんだ? 何ができるんだ?」


「家つき妖精で、褒めてくれたりミルクをくれたら家事を手伝う。石臼回して豆を挽いたり、バターを作ったり、掃除をしたり。1枚のバターつきパンで、半マイル離れた家に通って家事手伝いをしたり」

「ずいぶんといい奴なんだな」

「イタズラも好きで作ってる途中のバターをこっそり嘗めたり、醸してる途中のお酒をダメにしたりもする。夜道で人を迷わせたりもする」

「いい奴じゃ無かったのかよ」

「気まぐれなイタズラっ子なんだよ。俺の性格についてはシェイクスピアの真夏の夜の夢、2幕1場で女王ティタニアの侍女が語ってるぜー」

「いきなりシェイクスピアとか言われても」

「この勉強不足。性質が似てるってのはブラウニーかな? あとは、そうだホブゴブリンには得意な魔法がひとつある」


「魔法か、どんな魔法なんだ?」

「子供の喘息を治せる」

「はぁ?」

「ブランシュヴィック湾の洞穴に百日咳にかかった子供をつれて来て呪文を唱えるんだ。

『ホッブ(ホール)のホッブさん!

 ホッブ(ホール)のホッブさん!

 うちの子がかかった百日咳

 持ってっておくれ!

 持ってっておくれ!』

 そうしたらホブゴブリンが魔法で治してやる」

「お前、いい奴だな」

「だろ?」

「で、なんで裸なんだ?」


 このホブゴブリンは自前の白い毛皮があるけれど、服を着てない。少年の胸と背中はなにも隠されて無い。


「こういうの、少年趣味のおねーさんにウケないかな? それとも、乳首は隠した方がいいのか?」

「なんのレーティングの心配だよ」

「冗談は置いといて、ホブゴブリンに服を贈るのはやめた方がいいぞ。ヨークシャーで台所で働いてるホッブスラストがずーっと裸でな。その家のおかみさんがそれならって、マントにフードをホッブスラストに贈ったのさ」

「ふむふむ」

「『ハッ! マントにフードか

  ホッ! 俺様はもういいことなんぞ、

  するもんか!』と言ってホッブスラストは消えてしまった」

「なんで?」

「農家で働くホッブも服を贈られて

『ホッブ様にくれるのが、

 粗末な麻の服ならば、

 二度と麦打ちに来てやらぬ』って言って消えたりな。俺達に服を贈るのはやめた方がいい」

「いや、だからなんでだよ? 裸の方がいいのか? 服が嫌いなのか?」

「そこはホブゴブリンの風習ってことにしとくか? ホッブに限らず家つき妖精は服を贈ると姿を消すっていうのが定番だ」

「よく解らん、なんだそりゃ?」

「その解らんところがまた、妖精の魅力なんじゃねーの?」

「妖しい魅力ねえ」

「そんなわけでホブゴブリンはお茶目なイタズラっ子、働き者の可愛い奴だ。解ったか?」

「解った。妖精ホブゴブリンというのが、少し解った。ショタっ子でお姉さんウケしそうな見た目の可愛い半獣半人。家のお手伝いが得意。イタズラも好きなお茶目な子」

「じゃあ、俺に言うことあるだろ?」

「詳しく調べもしないで序盤のやられ役に使ってゴメンナサイ」

「よし。じゃあその調子であと99の妖精と会ってこい」

「そんなにいるのか? 妖精?」

「俺は別にオッサンが一生帰れないまま妖精の国でさ迷ってても、ぜんっぜん構わないけれど?」

「はぁ、ここは本当に妖精の国、なのか?」

「妖精の中には危ないのもいるから気をつけろよー」

「たとえば?」

「ここで俺が説明すると、この先のハラハラドキドキが減っちゃうだろ」

「それで気をつけろって、どーすんだよ」

「死なないように気をつけろってこと」

「え? おい、どういうことだ?」

「中には人の命に関わるようなのもいるからさ」


 死ぬかもしれないってことか?

 生きて日本に帰れないかもしれない?

 ホブゴブリンは俺を見てニマニマ笑う。


「ま、楽しんでこいよ」



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