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妖精の森 II

 薄暗いエトワールの街中を、少女は一人辛そうに足を引きずりながらに歩いていく。

 その肩に背負った少年はぐったりとして動かなかった。

 自分より一回り大きい少年の腕を左肩にかけ、重い体を辛うじて前へ前へと運んで行く。


「ゲート...すぐ家だから...もうちょっとだけ待って」


 少女は歯を強く噛みしめる、頬から流れ落ちる汗が止まらない。一刻でも早くゲートとこの街を出ないと。だけど、そのあとは?ゲートは?誰に見てもらえば...とにかく今は家を目指すことにした。

 教会からはかなり離れた。あの人(スカイディア)は多分もう現れない、今しかない。幸い、私に寄りかかるゲートにはまだ体温がある。きっと、まだ助かる。


「お母さん、外でお姉ちゃんがお兄ちゃんをおんぶしてる〜」


 どこかの家から子供の声がした。


「こら!カーテン開けちゃダメって言ったでしょ!?外には瘴気が漂ってるって教会の人達が言っていたわ」


「ごめんなさい...」


「ハハハ...メリー、そんなに怒ることでもないじゃないか、俺も久しぶりに休みが取れたんだし、さぁヨセフ、家の中でもできる遊びをしようか」


「うん、じゃあ戦士ごっこがいい、パパが悪者ね!」


 カーテンが閉まる、知らない家族の声が離れて行った、暖かい会話は聞いてるだけでなぜか落ち着く。でも、現実を見ると自分がかわいそうでしょうがない。誰も助けてくれない、そう思うと幸せそうにしている人達が羨ましい。そして、消えちゃえばいいのにと思ってしまう。だって、自分の家族はもう消えかかっているんだから。


 いつからか止まっていた足をまた重たく運び出す。雲の色は少しずつ薄れていっているものの、空は今も薄黒い雲で覆われている、教会があった場所の上空にだけ吹き抜けた穴は、唯一空から光が降り注ぐ場所でもある。

 

正確な時間はわからない、多分黄昏れ時だろうと少女は内心思った。少し歩いたところに家はあった。街離れに立つその平屋を久しぶりに見たと感じる。


「着いた...」


 少女はホッとするように呟く、正直もう倒れそうなくらい疲れている、だけどまだ休んではいけない。少なくてもこの『エトワール』の街を出るまでは。そう決意を固め、少女は扉を押し込み、少年を連れて家の中へと入っていく。


・・・



 使い込まれた革製のカバンを手に取っては、使えそうなものを片っ端から詰めて行く。ナイフ、各種の魔法石、硬貨、地図、ペンとノート、水袋、食料にあと...あと何がある?

 

狭い家を駆け回り、引き出しと棚を閉める暇もなく、使えそうなものを袋に放り込んで行った。最大限の需要で最小限のものを、そう自分に繰り返す、頭の混乱で冷静な判断ができない。

 

あと...あと何を持って行くんだっけ!?クラつく頭で見回す、そしてダイニングテーブルに目が止まった。

 

するといつかの記憶が頭をよぎる。


「ゲート、アイン、ちょっと聞いてくれ」


 それは幼き日にこのテーブルで交わした会話だった。向かいにはおじさんが居て、そして左隣にはゲートがご飯をかきこんでいた。


「#$%=$」


 ゲートはパンパンな口で鼻音を鳴らした、多分「なんだよ」と言おうとしたのだろう。


「ゲート、お口に入ってる時は喋らないの、お行儀悪いでしょ」


 幼い私は注意するように言う。ゲートは不満そうにそっぽを向き、頬を膨らます、というかそうする前からとっくに口がぱんぱんだ。


「ハハッ、アインはしっかり者だな、それより、大事な話なんだ、二人ともちゃんと覚えとくんだ」


 二人とも食器を素直に置いた、ゲートはまだ口の中がいっぱいだが。


「二人とも10歳になったってことで、父さんからお願いがあるんだ」


「お願い?」「なんですか?」


「なに、難しいことじゃない、ただ父さん最近仕事で忙しいんでな、もし何かあっても家にいないかもだろ?」


「うん、そうだな、だけど俺様がいるから問題ないだろう」「調子いいんだからゲートは」


 ため息を吐き、呆れ顔になった。


「まぁまぁ、でな?この封筒を家に置いておく、大事なものだからテーブルの裏に隠しておく。いいか?何かあったらこの封筒を取り出すんだぞ、多分それで解決するから」

 

おじさんは黄色い封筒を取り出し、テーブルの上に置いた。五年前の記憶だ、そのテーブルに今座っているのは、息をしないゲートだけだ。


 慌ててテーブルに駆け寄り、身を低める。見上げると傷んだ封筒があの時と同じ場所に挟んであった。それを引き出しては直接鞄の中に放り込む、これで全てが整ったと思えた。


 時間がない、そばにいるゲートをまた背負いあげる、やはり重い、だけどまだ体は暖かい。きっと大丈夫、なんとなくそう思えた。鞄を片手に、アインは玄関に立つ、そして振り返った。


 散らかった家を最後に一度だけ見渡す、ここで育った12年間は早かったようで、幸せでもあった。これ以上の居場所を望めただろうか、いや、ここだけが私の家だもの。それでも行かなくてはと、アインは前を向き、光魔法石の魔力供給を切った。そして、真っ暗になった家を後にする。


・・・


 家を出ると、街の中心で一輪の大きな花火が上がる。色はなく、ただ爆音とともに灰が空を舞った、花火と呼べるのかも怪しい。そして、低く、聞きなれた音声放送が魔法によって町中に流れ出した。


「善良なる市民に報告します、大陸で一、二を争う誇り高きこの地、エトワールは本日より新たな王政、『レボルシオン』王政により統治されることとなり、そして、早速ですが、王朝による伝達で、二人の極悪犯がこの街に潜んでいることが判明しました。名前はゲート・レオンバート、及びアイン・ステラとの事。」


 街の上空に無数の画像が宙に浮かび出る、そこには二人の顔が鮮明に写っていた。


「え〜、もしこの顔にピンときたのなら、近くの役所までご一報ください。また、この放送を終えたのち、街全体に保護結界を貼らせて頂く上、街には衛兵を隅々まで配置することになりますが、どうかご安心ください。皆様が善良なる市民である限り、危害を加えることはありません、以上です」


 おじさんが言っていたのはこのことだと悟った。やはり自分たちは何らかの事件に巻き込まれれていると。


「いたぞ...!!」


 声のした右に目をやると、そこには三人ほどの兵士がいた。そしてすぐに正面にも、左にもぞろぞろと白い鎧をまとった衛兵が現れる。幸い左の衛兵は距離が遠く、百メートルと言ったところにいた。アインは迷わず左から回り込むように、家の裏えと足を向ける。

 

レンガの敷かれた道路を歩いていく。柿色のレンガが途切れる場所、森との境目、そこを無心で目指し、足を引きずる。ガシャガシャと音を立て、衛兵たちは駆け寄ってくる、遠距離で魔法を唱える者もいた。それでもアインは振り返らず、疲れ切った足を持ち上げ、乱れた黒髪も気にせずに、一歩、一歩と森へと向かう。


「はぁ...はぁ」


 正直もう歩く気力さえも残っていない、それでも、背中にいる彼を守らなければと。自分の足なんて捨ててやると、肩で息をしながら思った。背後には衛兵が近ずいている、森まであと十メートル。


 魔法が飛んでくる、なんの魔法なんてどうでもよくて、ただ当たれば終わりだとわかっている。あと五メートル。

 

足元に魔法が落ちる、危なかった、次来たら当たる。あと二メートル。


足音が近ずいてる、ここで振り返れば確実に追いつかれる、あと一歩!

 

そして、アインはエトワールの森に無事踏み込めた。しかし…


よく考えれば、それだけで何か変わるわけでもなかった。多分これで追いつかれただろう、でも頑張った、やれることはやったはずだもの。清々しいと思ってしまう。しょうがないよね、ゲート。ゲート?そうだったね、君はいつも私の声にすら気づかないぐらい前を行くんだもんね。


(ごめんね、私もう無理みたい、ここで捕まったらゲート怒るかな?私頑張ったんだけどな)


 アインは悔しさまじりに、苦笑いする、心の声音はやりきった思いと悔しさでいっぱいだった。肩に手がかかった、鎧の感触だ、あ〜あ、こういうのをゲームオーバーって言うのかな?

 

そう思った瞬間、スルッと、アインは足を滑らせた。


「ゃぁ...!!」


 短い悲鳴をあげて、二人は共に森の斜面を滑り落ちた。高速で、傾いた森の地面を二人は転げ落ちる。それは何かに当たればひとたまりもない勢いで。アインの目には何も映らない、早すぎる速度で、目には何も留まらない。


「二人が逃げたぞ!!」

 肩を掴んでいた衛兵が叫び、追いかけようとするが、そこに広がっていたのは一面の木々のほかに何もなかった。


「...やつら...どこに逃げやがった!?」


 突如と消えた二人に、衛兵は皆、目を疑った。いくら見回してもそこはただの森だった、二人の姿か確認されることはなかった。


...


 アインの意識は朦朧としていて、気づけば体は平地に横たわっていた。すこし顔ががチクチクする。草の匂いがした、ちょっと青臭いけど、落ち着く。体の所々が痛い、ただ急所だげはなぜか免れたみたいだ。

 

(ゲート...!ゲートは!?)

 

もう起き上がる気力も残されてなく、細く開いた目だけで見回す、所々落ち葉まみれの地面、その中でゲートの姿を探した。やはり辺りは暗い、黒雲のせいだろうか、未だ視界が良くない。

 

いた...すぐ近くに彼の姿を確認した。相変わらず動いてないが、見たところ目立った傷はなかった。


「良かった...」


 アインは弱々しく息を吐き出す。


『サッ』、だれかが落ち葉を踏んだ音がした、目はもう開かない、もう意識を保っているだけで精一杯だ。

 

(誰?…)


意識が遠のく、所々傷ついた体は悲鳴をあげる力さえ失っていた。だれかが顔を覗き込んでいる気がした、この際、誰でもいいから、早く...ゲートを助けてあげて、お願いします、お願い...

 

そのまま意識を失った。


読んでくださりありがとうございます。まだ誤字脱字など多々あると思いますが、投稿していきながら直していけたらなと思っています。文章力もそれほど高いわけでもなく、語彙力もやや不十分に感じられる中、皆さんが読んでくださるととても励ましになります。未熟で自信なさげな私ですけど、これからどんどん書いていき、自信をつけていけたらなと思います。そのためにも感想などを下さると、とても参考になりますので、是非宜しくお願いします。次回の内容もお楽しみに〜

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