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氷結されし物語 III

 天は裂かれた、人々は天を仰ぎ見て『神』に祈りの言葉を捧げる。世界各地で報告された、空に空いた穴の総数、実に八十八個。それは世界中の聖教会の数と一致した。


 誰が知るだろうか、ぽっかりと雲天に開いたその穴はまさに神が人々に下した『天罰』だと。誰もがその奇妙な現象に目を見開いていた。そんな摩訶不思議な現象を目の当たりにする人々をよそに、教会は悲惨そのものだった。沈黙ながらも心中では悲鳴を上げている牧師が一人一人と消えてゆく。

 

教会の上空に位置する空洞は虚無とこの世をつないだ。雲の切れ間と言うには程遠く、天地開闢と言うには十分な大きさだった。チャペル内では無数に白く霜降った氷像が立ち並んでいる、どれも人間の形をし、生きているかのように精巧なそれは、一つ一つが牧師たちの屍であった。

 

冷気を漂わせ、チャペル内を無数の氷柱と霜で青白く染め上げた彼女。碧く冷たい目つきで私をあざ笑うかのように見下していた。それは一瞬の出来事だった。詠唱もなく、魔法陣構築さえも目に止まらないスピードで、教会内は瞬時にして凍りづいた世界へと化した。

 

圧倒的強さを目の前に私は見上げるしかなかった。教皇も同僚も皆失った今、私はただ目の前にいる青く光る少女に目を向けてる。


「見るに耐えませんねぇ〜人間とはこれほどに軟弱故、私奴(わたくしめ)とて、手ごたえってものがありませんわ」


 少女は薄ら笑いを浮かべる、地に跪いた私は言葉を発しなかった。


「あなたで最後ですよ〜今回の幻像門(ファントムズポルト)の閉門に『使う』故、あの御方からは殺さないでと言い付けられていますの。あたなは命拾いしましたのよ、感謝なさぁい」


 少女は軽い口ぶりで言った。そして私に向けて左手をかざす、私は笑みを浮かべ、苦しくも、声を上げた。


「教会も宗教も今日で滅んだ...つくづく人類は度し難いほどに無力、十何世紀に渡って築き上げてきた文明はこの一日に滅びやがって、だがこの世界の神がお前らだとしたら、それこそ本当に悲しいことだ。祈りを捧げるに価する者はきっといる、そして私たち人類をなめないでほしい!この数世紀、王国はこの日のために対策ぐらいしてある、安心するがいい、勝つのは私たち人間だ」


「何を言っているんですか?アタマがお壊れになったのですかね?ご愁傷様で、今更...バカな人間はどこまでも救いようがないようです」


 スカイディアは眉をひそめあざ笑う、今度こそかざした手に魔力を注ぎ、白く何重にも重なった複雑極まる魔法陣が浮かんだ。空中で光の雪片が魔法陣の中心へと流れて、魔力を溜め込む。


「これで眠っていてください」


 スカイディアは明るく朗快な笑顔でそう言う。だがその表情が表すのはひどく泥黒い、醜いものだった。


永氷(エテルノオルム)


 そうスカイディアが囁くと、手元の魔法陣からは私に向かって吹雪が吹き出された。突風から眼をつぶり、顔を左にそらす。反射的に右手で飛び当たる結晶を防ごうとするが、結晶に触れたものは『ビキビキ』と音立て、少しづつ氷像と化していった。服、そして右手、それをも通り越した先、最終的には右の頬を始めとし、少しづつ体が硬く冷たい氷へと化していく。


「いかがかしら?私の魔法は?少し時間は要するものの、この魔法は授術者を少しづつ氷へと変え、最終的には魂以外のすべて氷にするんですの。生きた氷像にするのですよ」


 薄気味悪い笑顔での解説をよそに、私は目を固く閉じた。頭の中で子供達の顔を思い浮かべていた。きっとこれが走馬灯なのだろう。


 刹那、大地は激しく揺れ始めた、石ころが地面を跳ねるほどの振動で、大地のは低くうねりをあげる。空中に浮かぶスカイディアを除く地上のすべてが激しく左右上下と動き出した。


スカイディアは手元の魔法を中断する、その顔から笑みが消えた。


「地...震?」


 私は凍った右半分の顔で辛うじて言葉を紡いだ。

 

すると、さっきまでの振動が嘘だったかのようにピタッと収まる。そして、今度は教会の床に深くひび割れが浮かんだ。その割れ目からは真紅の眩い光が現れる。


「チッ、下界の獣共がよく私奴の獲物に目をつけたものですね」


「これは...まさか...悪魔?」


牧師として聞いたことがある、その存在を口にした。


「ご名答〜その通り、悪魔です」


 亀裂から聞こえてくる少年の声は少し甲高く、幼かった。こうして背後に紫色の巨大な魔法陣が地面に浮かびあがる。その中心から一人の少年が現れた。笑顔の彼、顔にはピエロのように涙や星のマークが描かれている。そして服装も道化師そのものだった。


「こんにちは、僕は悪魔です、そうだね、トランプのジョーカーとでも呼んでよ、どうせこれから地獄入りする予定だから、名前なんて必要ないか」


 少年は白い歯をむき出しにして、私たちを睨む。


「ほぉ〜言ってくれますわね〜負け犬の分際が。いいですわ、どんなつもりか存じ上げませんが、まずはあなたを消してから彼を頂くことにしました」


 二人の圧に当てられ、つい立ち上がり後ずさりをしてしまう。微笑み合う化け物は、あたかも平和だと誰もが見間違えるだろう。だがその場にいる私の脳裏には、生物的本能で感じる「死」という一文字だけが浮かんだ。

 

一瞬の沈黙を隔て、二人の目の色は変わる。それを目の当たりにしたとたん、自身の血の気がスッと引く音を聞いた。


壇上に軽やかと浮かぶスカイディアの目は青白く輝き、冷気を放つ、それに対するジョーカーは入口付近に立ち、青紫の瞳を鈍く輝かせた。その奥に見える底なしの暗闇はすべてを闇で覆いつくすかのように、深かった。二人の間でぶつかり合う殺気と狂気は肌寒く感じさせる。足元がふらつくのを感じた。


それでも、やらねばならないことがある。私は静かに詠唱を始めた。


結界霊(シュランク)、世のすべてを隔て、他は我を知れずに持って、我は他をいかなる時も見守ろう、守るは我にあらず、すべては世の秩序と条理のために、虚鏡結界(ハルプスぺクラム)


 足元から、魔法陣を帯びた一本の赤いテープが伸びる。チャペルの扉の隙間をくぐり抜け、もともと教会の周囲にあった結界の規制線と重なる。そして、教会を大きなドームが覆うってゆく。これで外からはドーム内の状況は確認できない。また出入りすることも、譬え神であっても不可能だ。


 それと同時にジョーカーは先制でスカイディアへと歩み出した。一歩一歩が重く、地響きをたてていた。石畳の床に亀裂が入る。そうして近づくジョーカーを目の前に、スカイディアは眉をひそめ警戒する。

 

 すると、両手を頭上にあげ、ジョーカーはパチンと拍手を一つ。

 

そして呟く。


(インパクト)


「ッ!!!」「たかが下界の汚物に私が討てるとでもお思いに?…氷盾(グラシアヴァント)


 瞬間、衝撃波が広がった。凍り付いた事で、もろくなっていた教会は砕け散る。体は勢いよく飛ばされ、背中が結界壁に激突した。


「グガッ!!!」


 鈍い声を上げたのはスカイディアだった。今も同じ位置で宙に浮かび、衣の軽やかさは変わらないままだった。しかしその胸元には赤く鮮やかな血が大量に吐かれていた。口元から流れ出す血を見てスカイディアも驚愕する。


「ふふっ、これ、効くでしょ?これは魔力量に同調して衝撃を与えるだけの魔法だからね。そこの彼は弱いから骨折で済んだみたいだけど、君はどうかな?」


「私奴が油断したとは言え、あなた、一体何者なのですの?ただの魔族ではないようで…」


 驚きと殺意で見開かれた目で、スカイディアは苦しそうに問う。ジョーカーはフッと笑みを浮かべて語る。


「申し遅れたね、ぼくは魔王族、十悪罪が一人、「貪欲」の化身(アヴァタール)。キミの様な使い捨てとはわけが違うのさ」


 それを聞いたスカイディアは悔しそうに歯を食いしばる。使い捨ての意味は何だろうか。


「下劣なケダモノが、よくもその価値皆無な発言で私を侮辱してくれましたわね。いいでしょう、神の恐ろしさ、地面に這いつくばり思い知るが良いでしょう」


 スカイディアを取り巻く空気は殺気でゆがむ。碧い瞳はさらに冷たさを増すかのように、より淡く、白く変わった。ピエロ帽を深くかぶり、ジョーカーは二ヤリと笑う。


「いいね~その表情、だけど、この賭博(ギャンブル)は僕が必勝だよ」


 今回の投稿までかなり時間が掛かってしまいました。プロットやネーミングなどを考えていると時間ばかりが過ぎて行っちゃいますね。まだまだ未熟もいいところですが、良かった点や悪かった点でもいいので、良ければ感想とコメントを待ってます。読んでくださりありがとうございました、今後ともよろしくお願いします。

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