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氷結されし物語 II

不穏な空気に包まれる中、次第に黒雲が街の上空を覆って行く、街の方角からは鐘の音が鳴り止ま無かった。俺らは辺りを見渡す、訳のわから無いまま二人で森のど真ん中に立っていた。


「何が起こっているってんだ?」


 俺は不安を隠そうと気を張る。


「わから無い、だけど街の方で何かあったみたいね、行ってみた方がいいのかしら」


 アインは指で顎を持ち冷静に状況を把握しようとしていた、だがその目の色からは一糸の不安が垣間見えた。


「行って見ればわかるさ、俺は先に行ってる」「えっ...!」


 俺はアインを待たず一人で街の方に向け駆け出した。こんな時こそ俺が率先して動かねば。


「待って、ゲート!」


 置いていかれそうになるアインは俺の後を追いかける。


...


 森の茂みにいた黒猫は、痛みをこらえながら目を細めた。幸い、猫だけあって、大事はないようだ。


「イタ〜どこの誰よ、こんな下劣な魔法をあたしに当てるなんて、見つけたらタダじゃおかないんだから、これだから地上は嫌いなのよ」


 黒猫は起き上がり、体の土ほこりをを振り落とす。


「まぁいいわ、うざいジジ〜も振り切ったし、早くこのペンダント持って帰ればご主人さまに捨てられずに済むわ...ってあら?」


 首元をいくら見下ろしてもそこにペンダントなどなかった。もともと黒い毛で覆われた顔は気のせいか少し蒼白になっていた。ここでやっと空の異変に気付く、それから黒猫の表情は空に浮かぶ黒雲よりも遥かに、暗くなった。


「あ〜...もうダメだ...」


 黒猫は空を見上げながら、無機質でハリのない声で言う。目はとっくに死んでいた。


「思いっきり命乞いしたら許してくれるかな...いや、ないな〜」


 黒猫はトボトボと森の奥へと消えていく、希望に欠けたその目は死をも覚悟しているようだった。


...


 街に出ると人々は落ち着きのない様子だった。商人は急いで店を畳み、子供を連れた母親は家に逃げ込む。戸締りを気にする人もいれば、騒ぎが気になり道路へ出て見物をいる人もいる。

 そんな街中を全力でかけていく。高い樹木林に囲われた教会の周りには人ごみで足の踏み場もないようだった。


「教会に何かあるのかな?」


 たった今追いついた俺にアインが聞く。


「ハァハァ、俺が知るか、こんな災害みたいな前兆、教会の胡散臭いジジィども以外、誰に聞けばいいってんだよ?それよりさ、もうちょっと、ゆっくり…」


 俺は両手を膝につけ、息を整えながら答えた。


「大丈夫?ゲート?でもそうね、行ってみましょう、おじさんならきっと答えてくれる」「待っ…」


 彼女は俺を待たずに、人ごみに向けすたすたと歩きだした。俺はへばりながらもゲートについていく。正直言うと、俺は長距離には長けていない。短距離ならまだしも、体力全体はアインに劣る…ほんと情けない。


「何か説明はないのか!教会よ!」「どうなるのかしら私たち」「一体何が起こるってんだ!?」


 教会の前は不安と罵声を口にする人でいっぱいだった、そんな人だかりに、へばりかけた俺は迷わず突っ込む。アインも俺の後ろを恐る恐るゲ続いてきた。これで少しは隊長気分を取り戻せた。

 

空に浮かぶ黒雲は教会に近づくにつれますます色を濃くする。俺らは人垣を切り抜けた。最前列まで来るも、そこには簡易結界で立ち入り禁止になっていた。たぶん親父の特殊魔法、『結界』だ。

 大理石で建てられた巨大な教会自体はもちろんのこと、その周り、50メートルほどの半径内は結界で仕切られていた。

 林で囲まれた教会周りにあるタイルの装飾は、普通の道路より少しだけ整理が行き届いている、そんな敷地の上を今は牧師たちが慌ただしく歩き回っている。

 中には牧師服装をした親父の姿もあった、ただその顔は緊迫していて、余裕がなさそうだった。


...


「親父!」


 ゲートはクライフトを見つけるや大声で叫んだ。

 彼の顔はひどく憔悴しており、後ろに束ねた緋色の髪と剃り残しのひげは彼が急いで家を出てきた様子を物語っていた。

 クライフトはその声を聞き、一瞬死人にでも声をかけられたように驚く、それでもすぐに笑顔に戻りゲートたちに歩み寄った。


「おう、ゲートとアインじゃないか、学校もやっぱ早下校か?仕方ないよな、これじゃあ」


 クライフトはどす黒い空を見上げて、笑みを浮かべて言った。


「早下校なんてあったのか?俺ら知らないよなアイン?」


 ゲートは組んだ両手を後頭部に当て、アインを向きそう聞いた。


「ゲート!それよりおじさん、こ..これはどういうことですか?天気がおかしいのもだけど、いろいろと様子がおかしいっていうか...」


 アインはサボりがバレるのを臆したのか、不自然な笑顔で誤魔化すように質問をぶつけた。


「あぁ、心配ない。少しばかり天気が不安定なだけでな、だからお前ら先に家に帰って待っててろ、見ての通り教会は今大忙しでよ、休日の俺も狩り出されたって訳だ、ったく、休日出勤とかありえねぇだろ」


 クライフトは教会に振り向き、建物を眺めながら言った。サボりはばれなかったようでアインはホットする。


「ちぇ、つまんねぇの、んじゃあ先帰ってるぞ、アイン行こうぜ」


 ゲートは自分に関係ないと知り、つまらなそうにさっさと振り返り歩き出す。


「ちょっ...待って、ゲート、じゃあ先に帰ってますね」


「あぁ、気をつけろよ、ゲートを頼んだぜ」


 アインは一礼をすると踵を返し、ゲートの後を追っていく。

 この時クライフトの見せた安堵の表情を二人が見ることはなかった。


...


 教会の外は民衆で溢れていた。天候の悪化で空気が淀み、息苦しくなるくらい空は不気味な色をしている。教会正面玄関は観音開きの扉で、茶色く、重たい扉を俺は力一杯押し込んだ。扉をくぐると、教会の中には緊張感が漂ってていた。

 

いつもの日常はどこにもなく、ご近所からの元気のいい挨拶、遊びまわる子供達、礼拝の老夫婦、そのどれもが過去となってしまったと私は知っていた。

 

両側に並ぶ横長いベンチの間を知り合いの牧師たちは各々の事情のもと急いで駆け回る。ステンドグラスはいつもの輝きを失い、鈍い光を通してシャペル内を照らしていた。空中に舞うホコリを意にも介さず私はただ黙々と大股で歩み、壇上にいる教皇を目指す。

 

黒い靴と灰黒いスータンを身にまとい、目を尖らせ俺は強張ったであろう顔つきで、教皇と会話中の司祭を前にする。


「では外の民衆はどういたしましょう」


 一人、白服を身にまとったの司教が切羽詰まった様子で教皇に聞く。


「この事態だ、もはや止めることもできんだろう、奴らの目的はまずこの教会のはず、ならば民衆は追い返してせめて巻き添いにだけはならぬよう手配してくれ」


 教皇は落胆したようで、だがそれでいて権威付いたその声で答えた。


「わかりました、皆の者!外の民衆の疎開が優先事項です、とりかかリましょう!」


 司教は教皇に一礼をし、他の牧師たちに指示を出す。


「で?いかがした?クライフトレ=オンバート、今更死ぬのは嫌か?」


 教皇は振り向き、目細め、冷たく言った。白い祭服を身にし、髭を生やした老人、金色輝く杖と王冠を身につけた教皇を前にした私は、一礼する。


「此度の事態、覚悟はとうにできております、扉の血脈として心の準備など今更問わなくてもいいでしょう。ただ...私には息子がいるのです...どうして今なんですか。彼はまだ16にもなっていません!なんで、なんたって今日、この日なんですか!」


 声が思わず震えた、教皇に向かって力の限り叫ぶ。目を大きく見開き、何かを乞うように私は両手を胸元に当てた。胸が苦しくなった、いけないとは思いつつも、結局崩れ落ち涙を落としてしまった。


「まだ...何もかも早すぎるでしょう」


微弱な声で、私は誰にでもなく、その言葉を口にした。


「甘えるでない!ここにいる皆もそうであろう!誰かがこの役目を買って出無ければならんのだからな、皆思いは同じだ...」


 教皇は両目に怒りを灯し、歯をくいしばり罵る。しかしすぐにその憤怒に満ちた目は和らいだ。


「じゃが...君が特別なのは知っておる、好き好んでなったわけでもなかろう。今回のこと、何が原因かはわしにも分からん、だがみんな家族のために犠牲となるんじゃ、運命と言うものはつくづく度し難い、なので君も、わしらとともに歴史の礎となっては貰えんか」


 窓の外を眺め、必死に市民を説得する牧師達の姿を目に映し、教皇は憂混じりに言葉を紡ぐ。私は涙目で緩慢に教皇を見上げる、そして大きく息を吸い込み、応えた。


「はい、取り乱した真似をお許しください、せめて最後に祈りを捧げてください、子供達のために、私たち死にゆく者たちのために」


 私は片膝につき、観念したと言うには希望に満ちすぎた顔で天を見上げ微笑む。


「あぁ、人生最後の大仕事だ、それぐらいでなければこの教皇の名も恥じと言うもの、理不尽ながらも世界は今日で終わりのようじゃからな」


 教皇は笑って髭をさする。壇上に置かれた聖書に手を置き、咳払いをして朗読する。


「それでは最後の祈りを捧げるとしよう、わしの生涯、神に捧げた時間は数え切れず、祈りを捧げることはよもや一生のことながら。最後である今度は神であらずとも明日の希望に宛てよう」


 目をゆっくり閉じ、教皇は祈りを捧げる。消えゆく信仰とともに、神に対する敬意も、悪魔に対する軽蔑さえ、全てを捨てて。今生きる人たちのため、これから始まる時代のため、王国唯一の公認宗教でありながら最高たるその身をもって教皇は言葉を紡ぐ。低く、軽やかな気持ちで一切の悔いなく、これから神に消されることを受け入れる。

 

教皇の朗詠が終わる頃、外にいた市民は一人残らず消え去り、壇前は牧師と司教が多数跪き、涙をこらえていた。今や誰に祈りを捧げればいいのかと問う。

 

刹那、天井を割るように一筋の光が天から差し込んだ。黒雲には大きな穴が開き、洞中から光が照らす。教会には恐慌もなければ、驚きもなく、ただ静寂だけが漂う。


 途端、教皇の背後から声がした、悪魔とは間違うその冷えた声はシャペルに響き渡る。


「お前ら、終わったんだろうな!誓約を破ったんだ、ただじゃ済まさねぇってのが世の道理だよな…な!?」


 教皇が振り向くと、そこには紫色の鎧を身にまとい、黒く染まった月桂冠を頭上に載せた若き男が立っていた。黒い煙を帯び、男はニヤリと邪悪な笑みを浮かべる。


「もう何を言っても無駄じゃろうがな、事実だけは僭越ながら言わせてもらいますぞ。わしらは本当にに何もしておりませぬぞ」


 教皇は強張った顔で男に言った。冷や汗が教皇のシワをなぞるように滑り落ちる、そして男は大きく口を開け、笑い出した。


「知ったことじゃねぇよ、幻門は開いたんだ、もし何かの間違いでも、まずはお前らから殺していくのが道理だろうが、その後でどうなのか見せてもらうよ。だからジジィ、お前たちはここで死ぬんだ、扉共々ここでな」


 教皇はゴクリと唾を飲み込む、そして目を閉じた。


「仕方あるまい、これで皆は助かるはずじゃ」


 教皇は振り向き、私を一瞥する、哀れみに満ちた目線はまるで「すまん」と言っているようだ。


「興ざめだな、ジジィが西洋一番えらい教皇だっていうからその死に様でも拝もうと来てみれば、この有様だ。興ざめだ。」


男は舌を打った。


「世界中の教会は俺たち神によって今日で消滅だ。そしてここも、お前らもいなくなる、後はまかせた、モルモット、くれぐれもしくじるんじゃねぇぞ、こんな価値のない雑魚はお前の好きに殺せ」


 男は振り返り、背中を向けて壁に向かって踏み出す。不気味な笑い声を響かせ、声だけを残し彼は紫の光となって消えた。


「はぁい、私奴(わたくしめ)が本気をお見舞いしない程度に、この場にいる芋虫どもを一斉に清掃いたします故ご安心ください」


 その声が聞こえたと同時に、大気温度は氷点下にも落ちたように冷たくなり、その場には息をすることさえもがなくなったように思えた。

 

「申し遅れましたぁ、私奴、スカイディアと申します、以後お見知りおきを。フフッ、さぁて、天界の寒さ、お好きですか?」


地面に跪く私たちも教皇もそれを目にしては凍りつくように固まっていた。純粋な笑顔で、それから感じられる殺気は微塵もなく、ただ単にゴミを処分しに来たような気軽さで彼女は天より舞い降りた、その目には見下すというより、存在そのものを否定するように、汚物を見るような視線を感じた。


天から伸びる一筋の光は、ステンドガラスより差し込み、彼女の青白い、鳥のような羽を輝かせた。頭上には虹色に輝く魔法陣が輝き、全身には淡青いストラとパルラを身につけていた。本物の『天使』としか言いようのない姿で、美しいという一言では到底表しきれず、その美貌は人類すべての言葉を持ってしても形容しがたいものだった。


私は思わず息を呑んだ。


 この日、7大陸すべての教会は跡形もなく、地図の上から一つそしてまた一つと消えていく。


読んで下さりありがとうございます、やはり文章を書くのは難しいですね(汗)。文章力はやはり著しく乏しいかと思いますが、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。今後は投稿の頻度をできる限り上げていきたいと思っていますので、もしよければ今後ともよろしくお願いします。続編もお楽しみに\^-^/。

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