妖精の森 VIII
「ゲート、どうして妖精界でも魔法決闘があるってわかったの?」
玄関に向う途中、後ろで歩くアインが尋ねてきた。
「知らん、気付いたらトリーに申し込んでた。俺も通じたことに驚いた」
「それって…」
外に出ると一面に緑が広がっていた、朝の空気は少し冷たかった。頬に当たる朝日は、久しぶりに感じる日の温かさで、露に反射して少しだけ眩しかった。
扉を出たところに広い庭先が広がっていた、大きさはそこまでじゃないが、とりあえずは魔法決闘のできる広さだ。振り返ると大きな木がそり立っていた、どうやらこの中に今朝まで世話になっていた家があるようだ。
「ゲート、決闘を受けてくれたのはいいけど、勝ち目はあるの?」
後ろに続いて、大木に取り付けられた扉から出たアインは尋ねる。
「…さぁ、マジでどうしよっかな~」
「はぁ、やっぱり考えなしだったのね…私が代わってあげてもいいわよ」
彼女はため息をつきながら、本当に心配そうな表情を浮かべていた。それもそうだ、一度でも相手の攻撃に当たれば怪我は間違えないのだから。
「いや、ここは俺に任せろ、考えはないけどなんとなく行けそうな気はするから」
「なんとなくって…」
そう言い残し、庭の中央へと進んでいく。
え?さっきから思っていたけれど?女の子にケンカを売るのはよくないって?
その感想は一足先に家を出て行き、今ちょうど、庭先で腕慣らしをしているトリーを見てからにしてほしい。彼女は精神統一を図っているのか、庭の中央で目を瞑ったまま、胸に片手を当て呼吸を整えていた。
そんな彼女の周りには、ほの緑色をした光の粒が幾つも飛び交っている。その色からして彼女は多分木属性なのだろう。問題は、精霊の具現化を魔法無しに成し得ている、彼女の恐るべき魔力量の方だ。
少し離れているところで、モーリスの爺さんはそれを見つめていた。彼の方向へと歩み寄る。
「なぁ、爺さん、あん時トリーへの一言、一応礼を言う」
「よさんか、お互いの利害が一致しただけじゃよ。ふむ、これがお前さんの出した答えなのじゃな?」
相変わらず口下手で、ふむふむ言っているが、ひげに隠れた唇は今わずかに微笑んでいたと思う。
「あぁ、トリーにとっても、俺にとっても最善の一手だと思った」
地図が欲しいのもあるけど、それ以上に世話になった以上は当然だと思った。こころから彼女に恩を返すことが。
「ふむふむ、そうか。でもお前さん、あの娘の気持ちは考えたのかな?」
彼は胴体とほぼ一体化したと言ってもいい頭を、アインのいる方へと向けた。
「あいつは…」
「まぁよい、今はこのことに集中しなさんな。わしが薦めたは良いが、トリーが相手では甘くはないぞ、ゲートとやら」
彼は目を帽子の下から覗かせ、警告する。俺は笑い飛ばすことにした、ニタっと笑顔で自分を欺くようにして。
「俺様を誰だと思ってんだ?」
・・・
対峙してみて改めて恐ろしいと思った。目の前にいるトリーに明るさのかけらもなかった、それどころか顔にはひどい剣幕だけが降りている。
遠くで俺らを見守る爺さんとアイン、期待と不安が両者の表情には浮び出ていた。
「ゲートくん、止めてでて行くなら今よ、あたし手をぬくつもりはないわよ」
彼女の目が殺気をまとい鋭く光る。自分で起爆スイッチを押しといて、今更腰が引けて来る。それだけ、人の過去は語られないものが多いことを思い知った。それでもここでひいては意味がない。
「望むところだ、地図は何としても作ってもらうぜ」
笑顔で俺はそれに答えた。こういう時、恐れ知らずの笑顔で返せる男がかっこいいと思ったからだ。それ以上に、彼女に敵意を向けるのは違うと思った、だって友達だと思ったから。その笑顔を見て、彼女は激昂したらしく、舌打ちをした。
「そう、覚悟の上ってことかしら…いいわ」
彼女は憎しみに満ちた笑みを浮かべた。それが多分自分だけに向けられたものじゃないのがわかる。そして、それ以上にその笑みがぎこちないと感じられた。
彼女は右腕を握りしめ、目の高さまでそれを前へと突き出してきた。向かいの俺も同じ行動をとる、これが魔法決闘の儀式だ。
確認したところ、妖精界でも決闘の儀式は寸分違わないらしい。息を大きく吸って、二人で唱えた
『英霊よ、我ら聖なる決闘、互いの契りを片手に、今、其の神聖なる審判に全てを誓う』
すると、握っていた手の隙間から淡く白い光芒が差した。儀式成功で決闘開始の合図だ…
「炎鞭!」
開始と同時に、俺は力いっぱい叫んだ。七級魔導師の俺でさえ分かる、魔法力に当たるトリーと自分の歴然の差。先制攻撃に出る以外俺に道はない。
唱えられた魔法名に反応するように、目の前に魔法陣が現れる。アインとの練習とは違い、詠唱はいらないため、かなりの時短となった。
眼前に浮かぶ紅蓮の魔法陣から一本の炎の鞭(柱)が飛び出る。妖精のトリーはおそらく木属性の魔法を得意とする、なぜわかるって?なんとなくだ。なので火属性の魔法は効果的だと踏んだ。心の中で巨大の炎の柱を操る。
トリーはビクともせずに、立ち止まっていた。何か策があるのかは知らないが、好都合だ。放った炎鞭を俺は地面に叩きつけた、土煙が舞った。
「トリー、これでお前の視界は奪った、こうなったらこっちのもんだぜ」
「…」
反応はない。なら…
「炎球」
ゆっくりと魔法名を唱えた。瞬間、背後で無数の小さな魔法陣が宙に現れる、その一つ一つが頭の大きさをした、豪炎の球を浮かばせている。
そして、土煙の晴れないうちに俺はそれをトリーのいる方向へと向けて発射する。まずはトリーの視界を舞った土ほこりで奪う、そして集中砲撃を今撃てる最大火力で撃ち込む。どれだけ下衆かろうと、勝たなければならない。俺らのためにも、トリーのためにも。
全てが予定調和のように思えた、その時だった。土煙の中から高速で木の矢が無数に飛び出ては、俺の火の球を一つ、また一つと正確に射抜いた。その一つが俺の顔をかすめ、背後にあった木に刺さる。
「なっ…!」
視界が晴れていく、その奥に見えたトリーはすごい剣幕を下ろしていた。
「ゲートくん、まさかこれであたしを倒そうなんて思ってないわよね?」
「なんで!?俺の攻撃は見えないはずだったろ!」
「魔法の原理くらいわかるでしょ、ゲートくん…?」
「んなもん、精霊を具現化したもの…まさか、お前…」
「そう、感知、その応用よ」
アインも使えるその魔法、大気中の精霊を振動させる、それはつまり魔法自体の位置もわかるってことだ。どんな魔法を使う時も、魔法名は発動する最低条件とされている、六級魔導師以下は。つまり、彼女はそれそれを超えているということ、すなわち、俺の勝ち目は皆無だということだ。
彼女は冷たい目を俺に向けてくる。やすやすと心を開くつもりもなければ、やられる気も一切ないらしい。
「これで終わりかな?ゲートくん…じゃあ、今度は私の番ね」
彼女が言い終わると、今度は彼女の背後から俺の身長の三倍に達するほどの魔法陣が現れた。それ淡い緑色で、見たことのない大きさだった、予想するところの三級魔法だろう。死ぬぞ…冗談抜きで。
「マジ…かよ…」
さすがの彼女も、これほどの魔法には魔法名を唱えざるを得なかったようだ。
「妖精樹」
彼女がゆっくり、冷たくそう魔法名を紡ぐ。すると、魔法陣の中から出てきたのは巨大な樹木だった。
「んがっ…!」
思わず喉から変な声が出た。
彼女は人差し指を立て、それを手を顔のそばまで持っていく。そして上を向いていた指で素早く下を指した。背後に佇む巨木はそれに反応するかのように、枝をうねうねとさせ、動き出した。
言葉を失った、生まれてこの方初めて見た三級魔法に腰が引けた。多分生物的に危機を感じたのか、声も出なければ、体はビクとも動かない。
大木はその細長い枝を怒涛の勢いで俺に向けて伸ばしてくる。それらは、空を裂いて、襲い掛かる獣のように一直線に、うねりながら俺を囲う。慌てて両手を前にかざした。
「ふ…炎盾!」
慌てて頭に浮かんだ防御魔法を叫んだ。地面に大きく、赤く染まったエルサレム十字のシンボルが浮かぶ。伸ばされた枝の先は、俺を囲うように見えない炎の壁に触れ、燃え上がっていく。
これで少しは時間が稼げるだろう…と思ったその時だった。
「なっ…!」
多方向から俺に向けられていた枝は、知性が宿っているかのように一斉に退けた。そして、一本の巨大な枝となって再び目の前に現れる。そして、その大きさとは似合わないような速さで俺に向かってまたも突進を始めた。
「このでっけぇ木…なんでもありかよ…」
冷汗が額から零れ落ちるのを感じた。俺の防御魔法がそれに勝るわけもなく、見事に飴細工のごとく砕かれた。
飛び散る破片の向こうからその枝は止まらず伸びてくる。手の形へと変形をし、俺の体を鷲掴みにする。そのまま宙へと持ち上げられた。
読んでくださりありがとうございます。高校生ながら、私は今将来の不安と希望で胸いっぱいです。自信を持って目標を掲げたにもかかわらず、最近少しづつそれがぶれて来ていることに、不安と少々の焦燥を覚えつつあります。この作品投稿もその一環で、唯一目標への努力を形にしたもなのです。皆さんが読むほどに、私が目標に近いたように思えるのが幸せです。これからも、壁に当たりながら、悩み続け、考える努力だけは絶やさないつもりなので、どうか今後とも宜しくお願いします。




