妖精の森 VII
読んでくださりありがとうございます。本当なら五段落で終わらせようと思っていたものの、いつの間にか止まらなくなってしまい、ついに七段落まで来てしまいました(;´∀`)。まだまだ続く章節ではありますが、どうか飽きずに、少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。これからも宜しくお願いします。
目を開けると強い陽光が目に差し込んできた。まだ頭は目覚めきっていなかった、半開きの目をこじ開けて、部屋を見渡す。自分が床に敷かれた布団で寝ていたことが分かった。
力いっぱいけだるい体を起こし、這い上がる。アインの寝ていたはずのベットにアインの姿はなかった。『ど…どどど』どこからか地鳴りが聞こえてきた。
『バン!』いきなり背後にあった扉が開かれた。
「ゲートくん!あっさですよ~起きなさい!」
開いた扉の向こうでエプロン姿のトリーは両手を腰に差し、俺に呼びかけた。
「あら?起きてたのね、おはよう」
「あぁ、おはよう」
朝からこのテンションとはさすがだ…
「アインは?あいつはもう起きたんだろ?」
「もうずっと前に起きてるわよ、あれ?ゲートくん、アインちゃんのこと気になるの…」
「ちげーよ!」
「はいはい、そういうことにしておいてあげるから、早く顔洗ってきてね。ご飯もうすぐ出来るわよ」
「あぁ、あんがとな」
「あら?今日は素直じゃない?」
彼女は回れ右をして、キッチンのほうへと歩き出した。
「そう…かな」
行ったかと思いきや、彼女はまたドアの向こうからまた顔をのぞかせた。
「ゲートくん、ペンダント、似合っているわよ」
彼女は自分の胸元を指さしながら弾む声で言った。そして、俺の返事を待たずに彼女は顔を引っ込め、今度こそキッチンへと向かった。
「そう…だよな」
胸元に視線をを落とす、そこにかかったペンダントは、窓から差し込む日の光を眩いほどに反射している。空に散りばめられた星屑はどこにもなく、残された朝日だけが光り輝いていた。
・・・
キッチンの扉を押し込むと、ふわりとパンのいい香りが漂ってくる。食卓にアインが食器を並べている最中だった。エプロン姿のアインは俺に気付いたらしく、振り向いた。ショートの髪を揺らし、ふわりとほころぶ。
「おはよう」
「あぁ、おはよ」
「あっ、ゲートくんきたのね!アインちゃん~さっきねっゲートくんがさ~」
「あぁっ!トリーそれは言わない約束だったろ!」
急いでトリーの口を手で塞いだ。アインはポカーンとして俺らを見いていた。 俺と同じ背丈のトリーは俺の手を解こうと暴れていた。
「ふむ!お前さんら、はよせんか?わしはもう腹が空いて声も出んぞ!」
モーリスの爺さんはいつの間にか食卓に就いていた。長い髪が相変わらずその目を隠している。…っていうか声は思いっきり出てるけどな…
「あはは、待っててねじっちゃん、ゲートくんのせいで盛り付け遅れちゃったの」
「なっ…!」
「そうよ、ゲート?駄目でしょ邪魔しちゃ」
「お前らなぁ!」
「ふむふむ、ゲートとやら、お前さんのせいでわしの朝食が遅れたではないか」
「もういいよ…」
俺…が悪いのか?
・・・
盛り付けも無事に終わり、昨日と同じ席でみんなが食卓に向かった…結局ジジィの向かいだし…。トリーが呼び出した精霊と一緒に、俺たち四人と一匹は『いただきます』、ジジィは『ふむ』と言って朝飯を口に運びだした。
「これ、おいしいな…」
ぽつりと誰かがこぼした。そしてなぜか、気付けば俺以外の手が止まっていた。
みんなの目線は俺に向けられていた。トリーの精霊も含めて…そして目を滅多に見せないジジィもその目を丸くしている。
「えっと…俺の顔になんかついてんのかな?」
気まずい空気の中、俺は切り出した。
「ゲートくん…今なんて?」
「だから、俺の顔に…」「その前よ!」
「えっ…俺なにか言ったか?」
眉を顰め、俺は首を傾げた。
「言ったわよ、『おいしい』ってはっきり聞こえたもの」
はっきり聞こえてたんならなんで聞いたんだよ…。って…俺が言ったのか!おいしいって!?
「ゲートくん?大丈夫?熱でもあるんじゃない?」「ふむふむ、なむさんなむさん…」
テーブルをはさんでトリーが心配そうな眼差しを向けてくる、向かいの爺さんは変な言葉を口にしなが両手を合わせていた。
「いやいや!い…今のはちがくて…俺が言ったんじゃなくてだな、その…」
「ゲート…やっと素直になったのね」
隣にいたアインは涙をぬぐっていた、あたかもわが子の成長目にしたような暖かい目線を送ってくる。
「お前ら、いい加減にしろよ!」
「だってさ、ゲートくんがこんな素直なのがちょっと不気味でね」
「別にいいだろ…飯うまかったんだから」
俺は顔を赤らめた。って言うか素直とかの前に、お前らとは昨日会ったばかりだろ?
「まぁ、おいしいというのは素直に嬉しいかな。ね、アインちゃん?」
「そうね、初めて…かもね、おいしいって言われたの。ありがとう」
アインの目から一瞬だけど、涙が窺えた、俺が素直なくらいでほんと大げさだ。彼女は俺以上に素直な感謝を述べてきた。
「うっせぇよ…」
食卓が暖かい空気で包まれた。顔が火照ってきたので、目の前のパンに顔を埋めた。他人の人格になれるまで、時間はまだまだかかりそうだ。
・・・
俺らは黙々と朝ご飯を食べ終えた。四杯の湯飲みを囲みながら、俺は切り出す。
「トリー、昨日爺さんには言ったんだけど。俺ら…」
「旅に出るんでしょ?さっきアインちゃんに聞いたわ」
「それなら話が早い。俺らは妖精の都まで行きたいんだ、爺さんはお前が地図学に精通していると言っていた…」
そこまで聞いたトリーは目の色を変える。
「えぇ、そうね。確かにあたしの天賦属性、地図を使えば可能よ」
「じゃあ!」
「でもいやだわ」
「なんで!?」
「いくらゲートくんとアインちゃんのお願いでもそれいやよ…」
「だから!理由を…!」「ゲート!落ち着いて…」
アインに宥められ俺は仕方なく口をつぐむ。気が付けば俺は立っていた、一旦落ち着こうと自分に言い聞かせた。
目の前でトリーは首を垂らしていた。その目は見えずとも、さっきのトリーとは別人に感じられた。だから俺は賭けに出ることにした、一か八か。
「なぁ、トリー。俺と勝負しよう、お前が勝てば俺たちはここを素直に出ていく。だがもし俺が勝ったら、そん時は地図を作ってもらってもいいか?俺はお前に魔法決闘を申し込む」
魔法決闘、それは争い事を解決する最終手段。互いの承認を上に呪文を唱える、それが契となり敗者には強制的に精霊が交わされた契約を順守させる。
「ちょっと待って、ゲート!いくら何でもそれは無理よ。ゲートにはわからないかもだけど、彼女は天賦属性を持っているの、それが意味すること…」
「知ってる!知ってるさ…俺じゃあ多分勝てない。天賦属性を持つ人の基礎魔法も魔力も普通の人と段違いなのも知ってる。俺はお前がずっと羨ましかったんだよ、それくらいわかってるさ。」
そう、天属を持つ人は魔術にあっては天才的な能力とセンスを持っている。実際アインがそうだった。ましてや妖精であるトリー、歳と比例しての魔力と経験もきっと彼女のほうが上だ。それでも…
「ゲート…」
「それでもやらなくてはならねぇんだよ、俺らの旅にこいつの地図が必要なんだ」
アインは表情を曇らせた、俺の論点は間違っていない。旅に地図がなければまず話にならない。
それでも、アインが心配する理由もわかる、なぜなら魔法決闘に盟盾は使われない。その意味することは…魔法が相手に当たる、そして場合によっては死ぬという話だ。
「君たち、あたしなしで話を進めているけど、あたしはまだ受けるとは言ってないわよ」
トリーは表情を見せないまま、不気味な声で言った。天真爛漫に見えた彼女が幻影のように思えた。
「いや、お前には受けてもらう、じゃなければ俺たちはここを出ていかない…絶対にな」
「ゲートくん、君の言っていることは無茶苦茶ね、恩知らずにもほどがあるわ」
「トリーちゃん、私からもお願い。不本意だけど、地図はなくてはならないものだし…だけど決闘は…いくらなんでも」
「トリーや、受けてやればよかろう、お前さんが負けることはないじゃろう。こいつらも負ければ大人しく出ていくって言いておる」
爺さんから思わぬ助け舟が出た、それに驚いたらしく、トリーは顔を上げ、改めて俺たちを見つめ返す。
「わかったわ…受けてあげる。ただし、手加減はしないし、負けても勝ってもここを出て行ってもらうわよ。いいね?」
鋭い目つきでにらみつけてくるトリー、威圧的だがここまで来たら引けるわけもない。
「あぁ、分かった」
アインは納得がいかないように、額に手を当てていた。やはり魔法決闘は申し込んでほしくないらしい。それでも、これから行く先に、必要なことだとも理解してくれたようだ。




