始まりはいつもの日常だった
ここは第一級魔法街『エトワール』、世界でも有数なる魔法結晶の産地であるエトワールは、名高い魔法師を数々輩出してきた言わば聖地だ。
そして今日、俺、ゲート.レオンバートはついに第1級魔道師として表彰台に立つことができた。
この日のために、血の滲むような努力をしてきた俺が、ついに『パラディン』になるときが来た。
「ゲート.レオンバート、君が王国への忠誠、そしてその若きにして持つ才能と実力に見合う大魔道の称号、『パラディン』を君に進ぜよう」
国王らしき人が言い終えると、輝かしい王冠が運び出された。
国王の王冠には劣れるが、輝く真紅の王冠は青年の漆黒のマントに合っている。
「うむ、では戴冠と行こう」
そう言うと国王は王冠を手に取った、そしてゆっくりと片膝ついた少年の頭上に乗せてゆく。。。
『がん!!』
激しい痛みが脳天を襲った。
「イッテ〜!!!!」
激痛で、眠りから目覚めた俺は思わず大声で叫んだ、反射的に立ち上がる。
寝覚めで朦朧とする目を開け、辺りを見渡す。授業中だったことがわかった。
「ククッ」「アイツまた寝てたのかよ」「あの人やる気あるのかな(笑)」
講義を受ける見知らぬ人ばかりが目に映った、俺は恥ずかしさのあまり、さっと席に着く。
階段型教室の最前列に座ってたことで注目を引いてしまっていた。
「そこ!静かにしてろよぉ〜?寝るのはお家に帰ってからにしなさい」
壇上にいた教授は振り向かず、ただ冷たくそう言い放つ、口元が少し攣っているのが見えた。
そう言い終わると授業は再開された。
「おい!何すんだよ!」
俺は右隣の席に振り向き、そこにいた黒髪ショートボブの少女に囁いく。
「授業中で寝たらだめでしょ」
彼女は横目で、感情の入っていないような声で、緩やかと言葉を紡ぎだす。横目の目線が冷たい。
「だいたいな〜俺みたいなやつは勉強に向かねぇんだよ、でもお前が最前列座りたいから仕方なくだな、一緒に座ってるんだろ」
「うん、それはありがとう、でも寝るのやっぱりだめよ、わかった? ゲ~ト?」
彼女は微笑みなら振り向き、右手にあった魔法用語辞典を持ち上げ目をギラリと光らせた。
「わ!わかったよ!寝なけりゃいいんだろ!」
しまったと思いつつも、俺は慌ててつい大声になってしまった。
『ギ~~~』
またも授業を中断させられた教授は、爪で黒板をひっかいていた。
黒板から響くその不快な音は室内に響き渡った、そして教室は静寂に包まれた。
教授の手が止まるころ、クラスの目線は壇上に釘づけになっていた。俺も含めて。
「だから〜そこの二人〜大声出すなっつっ言んだろうが!!」
突如壇上から響く猛獣の様な雄叫びに、思わずクラスにいた全員が凍る。俺も含めてだが。
・・・
『パタン!!』
背後で扉が大きな音を立てながら、怒りをこもられて閉められた。気づけば俺と彼女だけが教室を追い出されていて、廊下に立たされていた。
ここは第1級魔法街『エトワール』、世界有数の魔法結晶の産地でもあるこの街は、名高い魔法師を数々輩出してきた言わば聖地だ...。
そして俺は、星霊魔法学校の学生、第7級魔道師ゲート・レオンバート。今年で15になるが、夢の第1級までは乏しく、そして学校ではよく教授に指導されるが、知ったことではない。
「あ〜あ...ゲートのせいだ...」
隣でボソッとつぶやく彼女はアイン・ステラ。俺と同じ第7級で15歳なのに、人当たりはよく、成績優秀、容姿端麗の言わばお嬢様ってやつ。その性根が悪魔のように怖いのだということは、今のところ俺しか知らない。
黒髪のボブと整った顔立ち、いつもぱっちりした硝子細工のような紺碧の瞳、それなりに出ている胸は校内の男どもをヒュ〜ヒュ〜言わせている。身長は俺より低いものの、それもどうやら一部の男子には受けがいいらしい。いや、わかるけどな、なんか認めたくねぇっつーか。
かえって俺は赤髪で短髪、黒い瞳と、それなりに整った顔を持つと自評している。身なりはかなり注意されるほどガサツだが。
「もういいや!帰って魔術戦闘の練習でもしようぜ、ずっと立っていても何の役にも立たねぇ、こんなもん付き合ってられっか」
そう言って、俺はもたれていた壁から離れ、校門のほうへと歩き出す。
「えっ、だけど、学校さぼっちゃだめだよ」
アインは慌てて呼び止めるが、止まるものか。
「いいよ、来たくなかったら一人で立っていればいいさ」
アインはついてくる。そう俺は踏んだ。
案の定、アインは心配そうに教室の扉を一目見ては、ため息を吐きすぐに追いかけてきた。
ほらな?言っただろ?
・・・
トンネルのような校門をくぐり抜けると川が目に飛びこんできた、川は広大な学校をぐるりと一周し、その内側をフェンス代わりに比較的低い茂みが立っている。城の堀を意識した設計だ。
「結局ついてくるんじゃないか」
意地悪で横に並ぶアインにこぼす。
「だってほっとけないでしょ、ゲートは色々と危なっかしいから」
アインはしょんぼりしていた、やはりサボりは嫌なようだ。ちょっと悪い気がしないでもない。橋が架かっている場所まで行くと警備隊がいつものように立っていた。
警備の二人は白い鎧をまとい、いかにも警備らしく手に槍を持ち門前に凛々しく立っている。すぐさま茂みの陰に隠れた。あたりを見回し、監視魔道具がないことを確認する。
「認識阻害魔法はかけられるか?」
俺は小声で聞いた。
「うん...待って...」
相槌を打ちながら、アインは気が乗らないままエンチャントを始める。
普通ならこんな魔法は警備隊に通用しない、だがアインに関しては話が違う。彼女の魔術属性は特殊で、「天賦属性」と呼ばれる部類だ。言う所の『天才』ってやつだ。
そんな彼女の属性名は『星』と命名され、話を聞く限り全ての属性の混合らしい、かなりレアであって…羨ましいよな。
俺…?俺はそんなもん無くても強いからな…本当だから。
ここは唯一監視魔道具に映されない場所、だから警備員にはばれないはず。ただここでこの魔法を使うには問題が一つだけある。
「水霊よ、眷属の契りに準じ、その清き庇護を用いて我ら水の眷属に不可視の幻像をもたらせ、幻像」
彼女は目を閉じながらスラスラと唱えた。地面に精霊の描き出す魔法陣が現れる、二級魔法陣の模様は複雑を極めている。
淡く光出す魔法陣は茂みに隠れる俺たちを顔下より照らした。そして、周りの大気中の水気がほのかに光出す。
「おい!あそこなんか光ってないか!」
一人の警備隊員が叫ぶ。これが問題なのだ。
「あぁ、確かに、俺が見てこよう」
警備員は俺たちのほうへと歩み出した。
そう、この魔法は水気に魔力を込めるため、茂みや太陽の光では隠せ切れないのだ。
光や闇魔法にももちろん似たものはあるが、アインは水属性に長けてるためこっちの方が施術時間が少ない。
「早く!」
慌ててアインに呟く。
「待って、あと少し」
目を閉じたままアインは返す。そして、あたりの光る水気は俺らを包み込むようにして俺らの姿とともに消えた。
「ん?なんにもないぞ」
警備はしゃがみ込む、透明のになった俺らをのぞき込み、眉をひそめた。見つかる前に何とか成功したが、今は息を止めているのに精一杯だ。
「いや~俺も疲れたのかな?それとも…認識阻害とかか?はっはっはっ」
「それは僕ら五級ぐらいでも見破れるだろう?気のせいだったんだろ?」
警備は立ち上がった。冗談口調でもう一人の兵士に向かって言いながら、戻っていく。
「はぁ~危なかったぜ」
俺は大きく息を吐き出した。
こうして、茂みを出ると忍足で警備門をくぐり抜け、街に出た。
・・・
校外の敷地に出ると、認識阻害を解く、そこには広い街並みが広がっていた。
魔法結晶の産地だけあって、あちこちに青く透き通るような結晶が壁や地面から伸び出ている。これらの結晶は魔法結晶の元になるので、その資源に恵まれたこの街が一級魔道街なのは頷ける。
結晶と対照的に家屋は、全てオレンジとピンクのタイルで統一されていた。歴史ある町なのに、立ち並ぶ民家に傷がほとんどなにのが驚きだ。
話によれば『エトワール』は世界で最も綺麗な街だとか、周りに深い森林があるせいか観光客は少ない。だが繁盛しているのは確かだ。
「やっと出てこれた~入るときは無難なのに、出る時だけ手こずらせやがって~」
俺は大きく息を吸う、そしてせのびした。
「お前、なんで今日は前に座ろうとしたんだ?野外探索の授業だぜ、つまらないだろ」
教授自身野外で育ったように、野性味あふれて怖かったし。
「だって、なんか近いうちに必要になる...予感かなって?それに習っといて損はないでしょ?」
こいつはいつも真面目すぎる所がある。アインは小首を傾げて上目で俺の顔をのぞき込み、微笑む。カワ…だめだ、大魔王に屈してはいかん。
「ふぅん〜なんだそりゃ」
顔が火照ってきた、彼女のいない方向を向く。俺はそこまで素直じゃない。
俺らは歩き続けた、そして街のはずれに建つおんぼろの一軒家で足を止める。屋根がところどころ苔で覆われ、壁も荒んでいる我が家だ。
俺らの家は訳あって同じで、幼い頃から共に暮らしている、言うなれば幼馴染みでもあり何より家族みたいなものだ、幼くに両親から見捨てられ他アインと、俺らは父と三人で暮らしていた。
「家...入んない方がいいよな?」
頭をかきながらアインの同意を求める。
「うん...サボりばれたら大変だよね...主にゲートが」
いつも表情豊かなアインの顔色が明らかに険しくなる。
さぼりがばれると親父はうるさい、前回なんか夕飯が一週間出てこなかった。文字通り死にかけた…。
顎鬚を生やし、ワイルドな親父だが、教会で牧師をしているため、学校をサボることなんてことは論外らしい。
「じ...じゃあ秘密基地で特訓かな」
恐ろしい記憶を頭の奥に仕舞い、気を取り直す。
「うん、それがいいよ」
晴天に見舞われ、俺らは家の奥にある森の方へまた歩み始めた。
・・・
「待たんか!泥棒猫め!」
そう言い放ったのは森林の上空高くを飛び、羽を背にし、顎とほおに髭を生やした、長身で細い体一人の勇ましい兵士だった。
手には光剣を持ち、頭上に浮かぶ幾何学的な光輪が特徴の『天士』である。
炭黒い鳥のような羽を持つ一匹の黒猫が天士の前を行く。
黒猫はその赤く輝く目を後ろに少し向ける、そして気にすることないようにまた前に目を向けた。
黒猫の首元では青い宝石が綴られた十字架の銀色のネックレスが風に激しく揺れている、それはどう見てもこの世界の物ではない。
「いい加減に止まりませんと攻撃を開始しますぞ!」
天士はそう言うと、剣を構え、勢いを増し、先を行く猫を懸命に追いかける、だが対する黒猫もまた速度を上げた。距離は一向に縮まらない。
そして高速で飛び行く二人の先に『エトワール』の森が見えてきた。
初めての作品投稿なので少々不安ですが、皆さんの感想を見ながら今後とも上進してまいります。作品の水準的にはまだまだで、『こういうのがダメだな』とか指摘があればコメント欄にどんどん書いて下さい、助かります。もしよければ続編も読んでくれると幸いです。読んでくださった読者の皆さん、ありがとうございました、そして、今後とも宜しくお願いします。