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春夜の音珠

その歌声に心を奪われている1人の聴き手として、精一杯の拍手と歓声を。






降っていた雨が止み。


満開を迎えた桜の花びらに水滴が滴り。


灰色の雲に覆われ月は無く、木々の濡れた匂いが辺りを漂う。


そんな湿った春の夜に似合わない、落ち着かない空気が闇夜に交じる。


不意に、拍を取るような掛け声が響き。


眩しいライトが一斉にステージを照らした。


軽やかに舞うドラムの音に、足元に響くベース。


その音に反応するように揺れる、サイリウムの光。


夜空に響くギターの旋律に絡みつくキーボード。


雨上がりの湿った空気に熱気がまとわりついて、血が騒ぐ。


センターでマイクを握るその人が声を上げ、歌を紡ぎ。


拳を突き上げ、踵で地を踏み、歓声を上げ。


煽り、煽られ。


音に、光に呼応するように、熱気が、緊張がどこまでも上がっていく。



その場にいる全ての人が一体となり、会場から溢れ出す熱が最高潮に達した頃。


シンバルの鋭い音を境に、すべての楽器がその音を止め。


ボーカルが人差し指を立て、唇に当て、そのまま上を指す。


観客は静まり、その指につられるように視線をあげた。


いつの間にか雲が去り、星々が瞬く綺麗な空に。


眩しいライトの光を一身に受けるその人が、力の限り叫ぶ。


その曲の最後の一音を奏でる、美しく伸びかな声が、響く。



心地よい余韻が広がり、消えていき。


それと同時に眩いライトは絞られていく。


一瞬の沈黙を経て。


湧き上がる割れんばかりの歓声と、拍手。


興奮と、歓喜と、過ぎ去った時間を惜しむ気持ちと。


そして感謝を。


全ての感情を込めて。


暗くなった舞台に立つ人に届くように。


アンコールを、叫ぶ。



その声に応えるように、再びライトが輝く時。



私はまた、音の波へ飲み込まれていく。





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