魔札姫 共通① 大会飛び入り
「さっすがライトニング・ボルティオン・光様~」
私はテレビでメンバーのリーダーが戦っている姿を観ていた。
「またカード番組みてるの!
はあ……イマドキの子はバトルなんとかばかり……」
―――――ここは人間と理性ある人系モンスターが共存する世界。
火水〈フィア〉、木土〈ウッドサンド〉、雷光〈サンライン〉、毒闇〈イズダーク〉愛無〈ラヴリクア〉の五つの国がある。
人々はカードに封じられた意思なきモンスターを使いそれぞれの国を勝ち取るべく争っていた。
私の住むラヴリクアではバトルリカードをする人はいない。
なぜならカードの属性に愛は無いからだ。
兄はメンバーになると言い出し、家を出てしまった。
もう三年は帰ってきていない。
私もバトルリカードが好きだ。
メンバーが沢山あるけれど、私はもちろんライト帝国のメンバーを指示している。
ラヴリクア帝国所属メンバーになりたいと思う。
「そんなことよりほら、見てよあの人」
「かっこいいわね」
「私がお兄ちゃんを見つけてくるって!」
兄探しを口実に、少ない手荷物を手に、私は家を飛び出した。
「さて、これからどうしようかな……」
風が吹いた。
顔にチラシが張り付いた。
「なにこれ……メンバー募集!?」
バトルリカードの大会があるらしい。
とりあえず観戦に行こう。
「あいた!」
人にぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい……」
「……こちらこそ」
同い年くらいのかわいい系の少年だ。
雰囲気は落ち着いていて、こっちもつられて低めの気分になる。
反対方向に別れるのかと思っていたら、同じく観戦に行くところだったみたいだ。
「さあ始まりました! 第1回バトルリカード大会!」
あの司会―――――
「きゃーっ」
「ライトニングボルト光様だわああああ」
女性陣の黄色い歓声があがる。
耳が一時的におかしくなった。
しばらくぼうっと観戦して、バトルは決勝戦になる。
急にざわざわとし始めた。
なにがおきたんだろう。と、リンクを見る。
水色髪の少年と茶髪の男性が対面している。
「決勝戦はクール・レイ・壊矢VSサン・ウッド・五代だああああ!!」
誰だよ。有名な人なのかな。
熱狂的な声援についていけなくて、端のほうにいく。
「あ、さっきの、観なくていいの?」
ぶつかった少年が隣に来た。
よく見るときれいな紫の瞳。魔族かな。
「……つまらなくて」
なにがつまらないんだろう。
両者が札をカードリーダーにスキャンする。
「神聖なる葉と土によりて来たれ……新たなる妖精王オフィドニク!」
「闇なる毒にて降臨せよ、魔帝ヴィステカ―――!」
美しい妖精と暗黒の魔王がカードから解き放たれた。
カード達が戦いを始めた。
二名はなにか会話している。
耳をすませれば聞こえるはずだ。
「…久しぶりだね。こうやって君と一対一で戦うのは、どうだ今回の大会」
「……相変わらず、雑魚ばかりでつまらなかったぜ」
二人は知り合いみたいだ。
「一撃でオフィドニクの体力をひどく消耗した……そのカード、どこで手にいれたんだ」
「……アンタに教える義理はねえよ。眼鏡くん」
――――もう決着つくのかな。早いなあ。
彼の言うつまらないってこのことだったのかな。
「勝者、クールレイ!!」
水色髪の少年が勝った。
「第一回バトルリカード大会はこれにて終了―――――――」
これで終わりか――――
そう思っていた。
「―――ですが、メンバーの座をかけた戦いはこれからです……!」
バトルリンクにあがったライトニング・ボルティオン・光がコートを脱ぐ。
彼のまわりにふわりと、白い羽が舞った。
勝ち残るとライトニングヴォルティオン光と対戦することになるらしい。
「私もでます!!」
気がつけば、私は大会に飛び入り参加していた。
光様に近づけるせっかくのチャンス、無駄にすまい。
無我夢中に他のバッタバッタと対戦相手をなぎ倒し。
とうとう準決勝戦になる。
―――――――
【クール・レイvs名も無き少女リュコ!!】「名前あるじゃん」
「いや、二つ名がね」
「まけない…(えへへ勝ったら光様とお話とまではいかなくてもチミッと近づけるかも)」
「どこの誰かは知らないが、女にしてはやるじゃないか(こいつ……目がまともじゃねえ)」
「あの壊矢〈かや〉と対戦するなんてすげー嬢ちゃんだな……」
「ああ、10年前突然現れ幾多の大会を総なめ、ライトニングヴォルティオン光に匹敵するほどの強さを持つとされ、各国から勧誘があるが未だ無所属のすげー奴と面合わせなんてな」
――――――
こいつ、そんなにすごいバトルリカード者なんだ。
「闇なる毒にて降臨せよ、魔帝ヴィステカ!」
クールレイが相札〈リーダーカード〉を召喚した。
バトルリカードは互いに一バトル一枚のカードしか使えない。
壊れても対戦が終わると直る仕様である。
「愛を無くせし悲しき者よ!!
我が慈悲の前に嘆きを請え
愛の守護者・ヴェルナマーベル!」
私もカードを召喚した。
「そのカードは!」
「おい、あのカードって」
「もしかして愛属性じゃないか!?」
クールレイだけでなく、会場中の人たちが驚いている。
私は失われた愛属性のカードを持っている。
これは父から譲り受けたもの。
父もまた、バトルリカードをたしなむものであったから――――――――
■■
あのあと私はバトルで優勝した。ヴォルディオンの所でカード戦士になることになった。
『今回は負けたが、次は必ず勝つ』
なんかライバル視されちゃったけど、フリーだった彼やウッドなんとかも所属するみたい。
城に住むことになったと母に電話で告げる。顔は見えないが、たぶん唖然としていたのはわかる。
世界を助けるついでにお兄ちゃんもちゃんと見つけると約束した。
そういえば、一緒に観戦していた少年はあれからどうしたんだろう。
『リュウお兄ちゃん、なにしてるの?』
いなくなる前の兄に私はたずねた。
『旅に出る前にリーダーカードを決めてるんだ』
『リーダーカード?』
『いわゆる分身だ。パケモンでいうサタシのペカチウのポジションともいう。まあバトルは一体一のタイマンだからな』
基本的にタイマンカードは一枚だけ持っている者、死に札になったときのためスペアを持つ者、対戦相手の属性で状況に応じ有利なものに変える者など様々だ。
『このカードは?』
『ああ、それは親父がリュコにやるようにってさ』
ひときわ私に魅力的にうつったそれは、可愛い花柄のカードだった。
――今日は天気もよくていい日になりそう。
戦士に任命されてから初めての参加、幸先は良い予感。
私はたまらず走りながらホールへ向かった。
「おはようございます光様!」
「ああ、おはよう」
そういってヴォルディオンは爽やかに微笑んだ。
「もう一度言ってみろ!!」
なにやら怒声が聴こえて私達は何事かと見に行った。
「ああいってやるよ、お前捨て子なんだってな!」
黄色の腕輪を着けた光エリアの戦士が壊矢を煽っている。
「……この野郎」
「やんのかよ?」
壊矢と喧嘩相手ははカードを構えてバトルを開始しようとした。
「所属戦士、私闘は禁ずる」
しかし二人ともヴォルディオンに止められた。
「すまない。彼の事はきちんと更正してもらうから、許してやってくれないか」
「フン……気にするな。悪いのは俺の強さに嫉妬して足を引っ張ろうとした奴だからな」
壊矢は偉そうな態度だが、あんな侮辱されて許すなんて結構いいやつ。
「光エリアと闇エリアは昔から仲が悪いんだ」
「それはやっぱりというか普通だと思います」
正義と悪が敵対するのはセオリーだし、むしろ大元では同じ組織にいるほうが驚きだ。