06.水の都ウンディー
朝日が眩しい、目が覚めた。
よく見ると体に毛布が掛かっている。
多分リリシーさんだろうな。
毛布を畳んで起き上がる。
大きく伸びをしながら辺りを見渡すと、海岸沿いから見える海がとても綺麗に映し出される。
海の反対には、なにもない草原が広がっている。
自然ってやっぱりいいな。見ているだけで落ち着く。
それにモンスターの姿も見えない。この辺にはいないようだ。
そういえば村の近くもそこまでモンスターはいなかったからな。狩りで稼ぐならやっぱりダンジョンになるのだろう。
そう思っていると、リリシーが川の方から水がめを抱えながら帰ってくる。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
いい笑顔だ。朝の始めに女の子の顔を見るは気分がいいな。
「いつごろ起きたんだ、それと毛布ありがとうな」
「いえいえ、私も起きたのはついさっきですよ。眠気を覚ますついでに水も汲んできました。顔、洗いますか?」
「ああ。洗おうかな」
水で顔を洗い、朝食のパンと、昨日の残りのスープを貰う。
朝食を食べ終わり、荷馬車に乗り込む。
「そういえばリリシーさんはフィールドムーブは使わないのか。サブ職業を旅人にすれば移動も楽にならないだろうか。今日の移動なんて一日も掛かってしまうし」
荷馬車に揺られながら質問する。
「村で作られた野菜の配達がありますからね。野菜は魔法の鞄に入りません。野菜もそうですが、食料のほとんどは荷馬車に積み配達するしかないです。手荷物ぐらいなら問題ありませんが、大量に仕入れたりしてますので、荷馬車のが効率がいいです」
「そうか、そううまくはいかないんだな」
鞄に収納できるものと手荷物ぐらいしか運べないのか。鞄のお蔭でドロップアイテムが重ならないだけまだましか。
ゲームの世界に行きたいとは思ったが、ゲームのシステムのように都合よくいかないのだろう。
それにゲームは暇つぶしのようなものだったしな、暇を与えてはいけないのがゲームだ。そこで生活するわけでもないし。
だからモンスターも常に多く出てくるし、狩りをして金も出る。ずっと狩りをしていけば金持ちにだってなれるだろう。消費するのは時間だけだし。
そしてなによりも、死んでもリトライできることだ。
それがこの世界で出来たら均衡は崩れるだろう。
自分は主人公でもなんでもないから、この世界で死ねばそこ終わりだ。
うまく出来てるな。
でもタレントポイントはその均衡を崩している。使わなければ分からないけどね。
討伐者の話を聞いて、この世界も、あの世界も似たようなものだと思ったし、当分限定スキルは誰もいないところで使ったほうがいいだろう。
自分の存在、異世界から来たことは黙っておくのが正解なのは確かだ。
元の世界に戻りたいとは思わない。こんなにも素敵な力を手に入れたからな。
考え事をして時間を潰していると、平原から都の全貌が見えてくる。
「あれが都か、遠くから見ても大きいな」
「ええ、ですが火の都サラマンドラはもっと大きかったです。さすがは帝都、って感じでした」
「あれよりも、なのか。道に迷いそうだな」
「大丈夫ですよ。大通りもありますし、細い道には商店が並んでいますから、そこまで複雑ではありません。すぐにでも覚えると思いますよ」
「そうか、それじゃあ都に着いたらギルド本部までの案内頼むよ。時間があれば街の案内もしてほしいけど、いいかな」
「もちろんです、任せてください」
了承を貰った。今日一日はリリシーさんと都デートといったところだ。満足。
都に着き、商人ギルドで荷馬車を停める。
馬小屋のところには立ち番もいる。しっかり管理されているようだ。
「それでは行きましょうか」
「ああ。頼む」
都の中を歩く。あの世界にはない建物も多い、というか古い建物が多い。
物珍しそうに凝視すると目立ちそうだから、見流しながら歩く。
といっても甚平というだけで結構見られている。
周りは布で出来た洋服が多い。冒険者もちらほら見えるが皮の鎧、鉄の鎧がよく見える。
和服は未だに見ない。装備覧に甚平と表示されているから存在はしてるだろうけど。
ギルド本部についた。町の中心だろうか。立ち番は二人。
サーチすると両方とも騎士だった。LVは三十台だ。
「騎士はここでも仕えてるのか?」
「はい、ここも王家が所有する建物です。といいますかこの都全土が管理下に置かれます」
「なるほど、大変だろうな」
他人事だ、騎士は要するに公務員のようなものか。安泰な生活をするために騎士になったって感じだろう。気だるそうに番をしている。
ギルド本部に入る途中で顔があったので軽く会釈をすると、騎士たちも会釈を返してくる。
気だるそうにしてるがしっかり社交辞令はできるようだな。気だるそうにしていたからってさすがに見下しすぎか。
カウンターに案内され、受付にスポアキングのカードを渡す。
「スポアキングのカードを手に入れた。換金をしたいのだが」
「それでは少々お待ちください」
スポアキングのカードを受け取り、奥に入っていく。
一分ほど待ち、受付が帰ってくる。
「カードの確認が取れました。確かにスポアキングのカードです。えーと、どの辺りで倒されましたか?」
「レーネの村の近くだ。生成されたばかりだったからな、早急に討伐した」
「そうでしたか、ありがとうございました。それでは転生書の提示をお願いします」
おっと、やっぱりいるのか。
ここで盗賊だと分かったら報酬が貰えず、立ち番に取り押さえれると。
しかもカードは渡したから返ってこないってことか。
しっかりしてんな。
転生書提示を念じ、受付に見せる。隣にいたリリシーも転生書を出して見せていた。
付き添いのも見るか、隙がないな。
「ありがとうございます。それでは報酬の大金貨十枚です。お確かめください」
大金貨十枚だと。小金貨一枚一円と考えて、計算すると……十万か。物価が分からないから高いか分からないが多分高いのだろう。
大金貨の数を数える。確かに十枚だ。
「確かに十枚だ。ありがとう」
「またのご利用お待ちしてます」
軽く手を振り別れを告げる。
十枚の半分をリリシーに手渡す。
「はいよ、報酬の半分だ」
「え、でも私はなにもしていませんよ。それに倒したのはコウさんです」
「うーん。それじゃああの村の村長に渡してくれ。いろいろ世話になったからな。あと、少しはリリシーさんが貰ってくれ、楽しい旅もできたしさ。それにこれからの案内料ってことでいいだろ?」
「でも……はい、分かりました。確かに受け取りました」
気持ちが伝わったらしい。借りをしっかり返すのが俺の流儀だ。
自分が差し出した手をしっかり握り大金貨を受け取る。
「それじゃあ次は転職する場所の案内を頼むよ」
「はい。こっちですね」
向かう途中、村人、商人、剣士が正面から来る。商人と剣士はLV1だった。転職したばかりなんだろう。
村人は残念なことにLV3だった。悲しい顔をしていたから無理だったんだろうな。
転職場所についた。ずいぶんと地下深くにあるんだな。
そこには銅像と、供え物をするような器がある。
先客が一人いたので待つことにする。
転職方法を見ることもできる。
村人の一人が銅像の前で立つ。
そうすると転生書が出て、光りだした。
少しすると光りも消え、転生書は消えた。
サーチをすると村人は剣士になっていた。
あの村人はLV5だった。LV5から冒険者になれるってことだろうか。
LV4で職業変更を見ていないから分からないけどLV3ではなれないのは確かだろう。
あの悲しい顔をした村人の表情は今も記憶に残っている。
「終わりましたね。次はコウさんです」
「ああ、行ってくる」
リリシーに手を振られたので振り返す。
銅像の前に立ってみたものの、どうするんだろうか。
銅像に転職とでも念じてみるか。
前の村人と同じように転生書が出てきて光りだす。
貴公は……村人から……何になる。
頭の中に伝わってくる。今できる職業は旅人、剣士、戦士、商人、討伐者、と。
あれ、これ別に職業変更あるからやる意味ないよね。
リリシーさんの手前、村人のままにしておくわけにもいかないよな。
うーん、サブ職業のやり方も分からないし、やめておくか。
終了、停止、終わりなどを念じる。
転生書からの光りはなくなり、その場から消える。
今のうちに職業変更を念じる。
第一職業:村人LV7 第二職業:なし
旅人LV1 剣士LV1 戦士LV1 商人LV1 討伐者LV1
何も変わってないな。第一に旅人を、第二に討伐者でいいだろう。そういえば討伐者の効果はなんだろう。詳しく見てみる。
討伐者
効果:HP中アップ MP中アップ STR中アップ DEF小アップ VIT小アップ
スキル:サブジゲート
なんて豪勢なんだ。確かにこれは浅いところだと取り合いになりそうだな。
でもINTが上がらないのはなんでだろう。
MPが上がるのはスキルを使うためだと分かるが、INTを上げればMPも上がるはずなんだけどな。
実際試したし。
気にしても仕方がないのは分かっているけど、気になるものは気になる。
スキルとサブジゲートもあとで使えば分かるだろう。
第一職業 旅人LV1 第二職業:討伐者LV1
村人LV7 剣士LV1 戦士LV1
これでいいな、設定完了だ。
リリシーのところに戻ると立ち上がり、外に向かう。
「ところでなににしたんですか?」
「旅人だ。サブ職業は討伐者をしておいた」
第二がサブってことでいいのだろう。
「あの、サブ職業は大金貨十枚を器に供えなければならないはずですが」
「え、あ、ああ。じゃあ出来てないのかもな、ほらサブ職業は見えないし」
やっぱりしっかり聞いておくべきだったな。それにしても大金貨十枚もいるのか。
この世も金、あの世も金ですか。いいでしょう。やると決めたんだ、やってやりましょう。
「さて、次はどこいこうかな」
行く当てもないから困ったな。
「酒場の登録をしておきますか? 登録していれば依頼も来ると言われていますから、稼ぎにも困らないと思います」
うーむ、討伐者なのがばれても嫌だしな。それは使わなければいいだけなんだけど。
それにまだ通常の戦闘に慣れてないからな、なにかあったら限定スキルとか使っちゃいそうだし。
「まだやめておこう。そうだ、防具を見たい。防具屋ってあるかな」
「それでしたらこっちです」
助かるな、広すぎるから一人だと一日では回りきれそうにないし。今の残金は、大金貨五枚、中金貨四枚、小金貨五十枚だ。多いのかな?
防具屋につく。
「いらっしゃい」
防具屋の中に入ると店主が挨拶をする。軽く会釈をして、店主をサーチする。
防具商人LV18と出た。
防具を売る専用職か、確かにこれなら防具を売っていても信用性は高いだろう。
「あら、リリシーちゃんいらっしゃい」
「こんにちは」
「今日はどうしたの」
「付き添いです。初めて都にきたみたいなので案内をしています」
「そうだったのね、焦らずゆっくり見ていってね」
「ああ、ありがとう」
リリシーと防具屋の店主が話している間、店に飾ってある皮の装備を見る。
帽子、鎧、服、篭手、手袋、靴、サンダル。結構種類あるんだな、でも値段が書かれていない。
甚平とスリッパに比べれば耐久値は高いだろう。実際盾があるからどうとでもなる訳だけども。
サンダルと篭手だけ買っておくか。見た目に違和感がない程度にしておく必要もある。
それなら鎧か服も必要だって? 甚平が気に入っているからいいんだ。
「皮の篭手とサンダルをもらえるか」
「はい、少し待ってくださいね」
店の奥に入っていく。なんでだろう。
「なんで中に入っていったんだ」
「在庫確認だと思います。店頭で出しているものは人が触りますからね」
「確かにそうだな」
あの世界で家具を買うときもこんな感じだったな。
店主が戻ってくる。
「用意が出来ました。ご自分でお確かめになりますか?」
「いいや、適当に持ってきてくれ」
あ、サイズとかあるんじゃ、大丈夫だろうか。
「それではこちらになります。篭手が中金貨一枚と小金貨二十枚、サンダルは中金貨一枚です。が、リリシーちゃんの知り合いなら中金貨二枚でいいですよ。」
「本当か、それは助かる。ありがとう」
中金貨二枚を渡し、篭手とサンダルを貰う。
貰ったついでにそこで装備する。
自分のサイズより小さいと思ったがぴったりとはまった。
これはすごい、サイズは自動で合わせてくれるのか。
でもそうだよね、魔法の鞄とかもあるわけだし、大きさは関係なさそうだよね。
今まで履いていたスリッパが余ったな、魔法の鞄に入るかな。
あ、入った、装備も入るのか。便利だな。
「リリシーさんも付き添ってくれてありがとう。おかげで安くなったよ」
「大丈夫です。さあ、次どこいきますか」
なにやら表情が明るい、張り切っているようだ。どうしたんだろう。
それにどこにいくって、別に行くところないしな。
考えていると、鉄の鎧を着た男とぼろぼろの布の服を着た男が横切った。
なんだろう。布の服の男をサーチする。
リック 年齢24
職業:放浪者LV8 奴隷 所有者:
布の服
奴隷、あれが奴隷なのか。
所有者が空欄なのはまだ誰のものでもないからだろうか。
それにしても奴隷か。
リリシーを見ると先ほどの張り切っていた表情はなくなっている。
男たちはそのまま店に入っていった。
「あれが奴隷なのか」
「多分売りに行くところなのでしょう」
売るか。現代社会では考えられないことだ。
少しすると鉄の鎧の男が出てきたが、布の服の男は出てこなかった。
やはり売られたのか。
気になるな。ちょっとあの店行ってみよう。
足が勝手に進む、好奇心には勝てないんだろうな。
リリシーも急ぎ足で自分についてくる。
「あのお店に行くんですか?」
「少し見るだけだ」
「そうですか」
鉄の鎧の男が出て行った店に入る。